前のページに戻る   このページを印刷

全体像

最高級の審査員にとってさえ、適合性審査は困難になりつつあるのでしょうか。ガバナンス、企業責任、評判に関するリスクマネジメントの課題について増え続ける受審組織からの質問は、審査員にかかる負担を増し、時を同じくして、品質、安全性、環境課題の間の境界が益々見えにくくなっています。更に、適合性審査業界というコミュニティ自体が、ISOのマネジメントシステム規格の根本原則を見失いつつあるのでしょうか。私達の信用性を取り戻し、認証登録プロセスが真の付加価値を生み始めるために何をしたらよいのか、Fraser Paterson が問いかけます。

10年前から、主要な適合性審査規格の世界では、幾つかの鍵を握る展開がありましました。第一に、ISO 9001が全く新しい「プロセスに基づくアプローチ」を打ち出しましました。その後、QS 9000がISO/TS 16949への変貌を遂げた例にも見られるように、他の規格もこの動きに追随しましました。多種多様な品質や環境のマネジメントシステム審査仕様が、あまりインスピレーションを与えるとは言えないISO 19011にまとめられ、最近は、ISO 14001:2004が登場しましたが、これは表面的にはかなり小規模な変更を行い、一部の要求事項の定義を明確化したに過ぎないと思われます。

同時に認証機関や登録機関は、進化する市場に適応しクライアントに真の付加価値を与えるべく努力してきました。統合型マネジメントシステムの審査とリスクに基づく審査という能力を開発したことに加え、人材の認定、排出権取引制度の検証、企業の財務以外の報告書や持続可能性報告書の内容保証などの新たな領域へも進出してきました。汚職防止などの新興分野から更なる商機が見出されることには疑う余地がありません。汚職防止については、組織の品格に関わる各種マネジメントシステムを成功させ、開発プロジェクトに関与する全当事者間の契約内容の透明性を保証するには、独立した立場の審査員が不可欠であるという認識が広がりつつあるところです。

どのような進歩があったのか?

しかし、実際にはどの程度、真の進歩が見られたのでしょうか。認証登録の信用性と価値の是非に関する議論は解決の糸口を見出せないまま継続しており、審査機関も受審組織もともに一定の不満を抱えている状況です。ある意味では、クライアントと雇用主双方からの審査員への期待が高まる中、難しい時代であったとは言えます。整合性のある、統合された、リスクに基づく審査と言えば理論上はかなりわかりやすそうに聞こえますが、私達は個々の審査員のスキルを拡大しているのでしょうか、それとも希釈しているだけなのでしょうか。かなりの割合の品質マネジメントシステム(QMS)審査員が、プロセスアプローチへの移行に困難を覚えたのは明白です。例えば、2002年、適用するべき法規制要求事項などという課題を明確に理解することが困難であると感じたISO 9001審査員の間に、ストレス由来の長期休暇申請が蔓延しているという噂が、英国を席巻しました。しかし、最大の失敗は、適合性審査業界自体が、プロセスに基づくアプローチを真に信奉するに至らなかったということなのです。

しかし、審査員のみが悪いというのではありません。クライアント組織も認証機関も認定機関も、現行のプロセスモデルの使用によって達成できることに関して、過度に高い期待を持っているのです。果たして、審査プロセスそのものに根本的欠陥があり、全面的な見直しの時期に来ているのでしょうか。

審査員の度量

理由は何であれ、ISOのマネジメントシステム規格に基づく適合性審査は、今日、一つの消費財のようなサービスです。顧客に求める審査料は、しばしば、事業の複雑性、事業所の数、従業員数から一定の審査所要人・日を求め、それに審査員日当を乗するという単純計算で算出されます。認証機関は彼らの「製品」の品質の点でも競争しますが、価格競争も同様に激しく、競争に優位であり続けるためには、コストの厳重な管理が欠かせない要素となっています。当然ながら、パフォーマンス指標の中でも特に重要なものの一つが雇用する審査員の稼働率の高さです。少なくとも英国では、全体的に高めの間接費と過剰に高額な認定プロセスのために、認証機関は人件費に上限を設けるのが必然となっています。このような上限は審査員に支払う給与賞与に反映されます。彼らの賃金と諸手当は正当で他と引比べて見劣りのしないレベルといえるかもしれませんが、審査員の賃金は、クライアント組織の日々変化する期待内容を充足し、ましてや価値を付加するという使命を繰り返し達成するのに十分な度量を持つ人材を惹きつけ保持するには低すぎるのでしょうか。年がら年中、出張し、国際的な規格と業界部門に特有な知識を駆使し、受審事業所を立ち去る前に内部外部の徹底的な精査に合格するような誤謬のない報告書を作成し、その上、何かと注文が多く個性も強い数多くの顧客を相手に孤独な作業を遂行するというこの仕事の要請に耐えられるとなると、かなり特殊な人材に限られるのは当たり前です。

審査が本当に価値を認められた職業ならば、認証機関は、企業やコンサルタント会社が提示するのと同等程度の賃金を審査員に支払うはずです。報酬パッケージは技術的に能力のある審査員を惹きつけることは確かですが、そのような人材は必ずしもビジネス側の知識が豊富であるとか、業績志向であるとは限りません。一旦採用されると、最良の人材ほど、審査機関の審査員を辞めて、受審側のより報酬の良い職に就く傾向があります。残されるのは、自らの役割を受け入れ、時には媚び諂うような受審機関の態度を楽しみ、あらゆる業種から知識を得る機会を有難がり、半年後の定期審査までクライアント組織に対して何の責任も負わないという立場を十分に弁えたコメントを残して立ち去ることのできる、安定志向・堅実型の人材です。

真の対人コミュニケーション能力を欠く、あるいは取締役レベルと現場レベルの両方と効果的に関わることができるような経験を欠く審査員が多すぎます。上級管理職や取締役達とのやり取りが不十分であるケースが大変多いのです。トップマネジメントを関与させることに審査員は消極的なのでしょうか、あるいは、トップレベルの人々と面と向かって仕事をする心得、訓練、重厚さというものを欠いているのでしょうか。審査員が十分な知性あるいは処世術や文化的洗練性を備えていないなら、クライアント組織に真の変革を起こさせるなどという偉業を、どうして彼らに期待できるでしょう。この問題は部分的には人材という原材料の質の問題ですが、また別の部分は認証機関の訓練と能力開発制度の問題でもあるはずです。

審査員の訓練

一般的に言って、規格の知識と技術的要因や適合性に関する要因という技術面では、訓練のレベルは、良好ではなくとも合格できるレベルです。しかし、そこにも限界があります。その一例は、ISO 9001とISO 14001の両方の認証を取得している組織の場合に見られます。整合性のある、あるいは統合された審査サービスと謳いながら、実際には品質と環境の審査員の間でチームワークが欠如していたり、極端な場合、「断絶」状態になっていたりするのです。これが偶然の産物で、ごく軽症の場合でも、受審組織に相矛盾するメッセージを発信することになります。重症になると、二つの領域からの異なる見解が受審組織を正反対の方向へと導き、混乱を来たすことになります。

一つの企業が12人・日を要した品質審査に合格しながら、僅か3人・日の環境システム審査では、サプライヤーや下請企業の力量の明確化、サプライヤーや下請企業への要求事項の伝達、及び彼らのパフォーマンスの監視という点で、重大な規格適合性の問題が見つかったなどということがあるのは、なぜなのでしょうか。知的能力のある受審組織は、このような現象をどのように感じるでしょうか。この種の状況は、二つの認証登録には二つの別々の報告書を伴う、あるいは、一つの報告書であっても実は二部構成となっている、というシステムの押し付けによるのです。つまり、真に有効性のあるチームワークの欠如という問題に帰結します。

審査員の訓練は、統合された審査の技術面は網羅するようですが、有効性のあるチームとして異なる審査員が協働するということの現実的側面には深く触れていないようです。審査業界人の多くが、今後、審査そのものの回数は減少するが、一回の審査の時間が長期化し複数の領域を扱うという特徴を持つようになると考えています。審査プロセスが瓦解する可能性のあるもう一つのシナリオは、審査員が自分の力量を超える対応をしなければならないような状況です。審査員にクライアントが一日最大1,000USドルも支払うような状況では、クライアントはそれ相応の費用の対価を求めるもので、「スーパー審査員」とは言わないまでも、少なくとも専門知識のある者を要求するのです。

従って、品質の審査員はバランスト・スコアカードやシックス・シグマのようなマネジメント技法に関する質問にも答えられるべきであると考えるのが合理的です。QMS審査員にはこれを行える人も居ますが、全員ではありません。このような時に、定石どおり、「弊社にご質問に答えられる者がおりますので」などと言っても、クライアントは納得しないのです。認証機関の訓練ニーズと力量マトリクスを作成する過程に、何らかの不備があるように思われます。

嘱託審査員

外注は確立され認められたマネジメント戦略です。多くの認証機関が日常的に仕事を嘱託審査員に下請けさせていますし、大手の某審査機関は雇用していた審査員を全員、嘱託審査員に転換しようとしたと噂されています。嘱託審査員の賃金はクライアント企業に課す一日当たりの出張審査料金の3分の1以下であることを考えれば、下請け方式の活用はビジネスとしても良いということになります。しかし、下請け方式の使用は、マネジメントシステム認証の消費財化を現すもう一つの兆候なのでしょうか、それとも、プロセスに新たな価値を付加しているのでしょうか。

これには利点と欠点があります。利点を見ると、嘱託審査員を利用すれば認証機関は需要のピーク時にも対応でき、社内で維持することが費用対効果という意味で合理的でない場合にも、特殊な専門知識を有する人材を顧客に提供することが可能になります。毎日毎日審査をし続けるわけではありませんから、嘱託審査員のアプローチには新鮮なものがあり、より広い業務経験から得られた知見を審査に持ち込むことも可能です。欠点を見ると、嘱託審査員は格安で数が多く、従って、とりあえず事業所に赴き、迅速に何らかの報告書を書き上げ、認証機関にもそのクライアント組織にも何らの長期的責任を負うことなく消えるという行為に報酬を支払ってくれるなら、喜んで引き受けるという傾向があります。

では、クライアント側は彼らをどう見ているのでしょうか。複数の認証機関に審査業務の入札をしてもらったら、その中の二つ以上に同じ嘱託審査員の氏名が登場したなどというのは、甚だ可笑しいことです。入札した認証機関に面接に来てもらい、一体どちらの認証機関が最終的にこの審査員の登用を確保したのかを推理しなければならないとなると、笑っている場合ではなくなります。利得を優先するか質の良いサービス提供を優先するか、この二者間の拮抗は非常に微妙なのです。嘱託審査員という形で活動している人々の中にも実に優秀な審査員は数多いのですが、ここでも問題は、審査員の社員雇用と同様に、嘱託審査員の報酬レベルは、最良かつ最適な人材を審査業務に登用することを保証するレベルではないということなのです。

審査の技法

内容は詳しいけれども全体的にレベルの低い審査報告書をクライアント組織が受け入れてくれる時代は終わろうとしています。受審組織の大半が、自社のマネジメントシステムは不完全であり、誰でも見つけることができて不適合とされるべき誤謬、欠落、不正確などを含んでいることを自覚しています。比較的瑣末な事項に焦点を当てても上級経営陣に好印象を持ってもらうことはできず、業績向上という付加価値を生むこともできません。

支払いに相応する価値について受審組織の懸念が深まるもう一つの要因となっているのが、事業所を立ち去る前にクライアントに報告書を渡していかなければならないという審査員への要求です。ラップトップコンピュータを使ってコピー貼り付けを駆使して超特急で報告書を作成する場合、事業のパフォーマンスに関する十分な思考や合理的な状況判断による所見などは望めません。審査に振り向けられる時間の制約の中で戦略的思考や価値を付加するような内容を生み出す余地もほとんどありません。審査員は報告書を提出しなければならないというプレッシャーの中で、当然、全体像よりも近視眼的な詳細に意識を集中しやすくなります。私がクライアントでしたら、審査員に一旦帰って事業所外で報告書を作成していただき、報告書の所見を自社のトップマネジメントの前で正式発表していただき、その分、多少余分な料金をお支払いしても良いと考えます。

マネジメントシステム審査は、戦略、戦術、パフォーマンスについて、マネジメントに挑みかかるものであるべきです。いずれにせよ、基本的な適合に関する詳細事項への意識の集中は、クライアント組織の内部監査プロセスに任せるべきではないでしょうか。審査と認証登録の全プロセスを再活性化する必要があります。ISO 9001の主眼はシステムにプロセスのアプローチを適用することであり、有効なコミュニケーションの障壁となるような縦割り組織を打破して、パフォーマンスを向上させることです。しかし、これを認証登録のプロセスに適用すると、早速、その限界や障害に突き当たるのです。

監査・審査の規格であるISO 19011、認証機関を統制する規則や締約、それにそれらの規則や締約が謳う手順などを見ると、審査員が想像力を働かせて思考することは奨励されていないことがすぐにわかります。審査は通常マネジメントシステムの範囲に限定され、審査員は受審組織の経営者及び当該システムの範囲に含まれる要員のうち、会うことができる要員に会うのみです。サプライヤーや下請企業がたまたま受審組織の事業所に居れば、審査員が彼らと接触を持つ機会もありますが、ISO 9001の根底にある基本原則を忘れ、審査のプロセスに新た な境界と縦割り構造を設けてしまった状態なのです。受審組織の顧客、株主、資本家その他の資金提供者、パートナー企業、取引先、規制当局、地域政府、地域社会、その他の受審組織の事業から影響を受ける他者と、審査員がコミュニケーションを取る事は現実にはほとんどありません。 受審組織の利害関係者との直接の接触を拒まれている審査員に、一体どうして受審組織の真のパフォーマンスを理解することができるでしょうか。

私達は自らが謳った信条を実践するべきではないでしょうか。SA 8000や組織のサプライチェーンの社会的適合性に関する他の第二者審査に詳しい人なら、異なる審査技法を展開するべきであることがわかるでしょう。そのような技法の一部は品質や環境の審査にも応用、活用できます。例えば、サプライチェーンの審査の場合、雇用条件、労働安全衛生、労働者の福利に関して、マネジメントが公正で人道的 な方法を取っているということを、クライアント企業にとって納得の行く形で確証しなければなりません。クライアントがこの点に満足が 行かなければ取引契約を取れない受審組織のマネジャーには、一定の圧力がかかり、その結果、審査員を巧みに騙そうとするような行動を とることもあるのです。

十分に気をつけて行動する

通常、審査のプロセスは、マネジメントの手順と記録を、地域の法的要求事項か、クライアントの行動規範のいずれかより厳しい方に照らし合わせてチェックすることから始まります。次にマネジメントの言い分を検証しますが、その際、従業員を危険に晒したり、誘導尋問したりしてはなりません。従って、社会的責任システムの審査員は、匿名のフォーカスグループで参加者が制裁を受ける恐れのない方法によって情報を収集するという技法を活用することになります。国によっては、審査機関による懲罰的措置が、薄給労働者の生活の糧を奪ったり、時には彼らを脅迫や暴力に晒したりすることにつながる可能性もあることを、肝に銘じておかなければなりません。

品質の審査にもフォーカスグループを活用してみると良いでしょう。プロセスの異なる部分に関与する要員を一堂に集め、彼らのパフォーマンスや感覚を問うてみると、実に驚くべき成果が見られることがあります。更に、通常の審査の範囲から出て、受審組織の主要な外部利害関係者による質的フィードバックを収集してみると良いでしょう。典型的で古典的な顧客満足度アンケートなどの情報を信頼してはなりません。顧客に実際に話を聞きに行くと良いのです。適切な手順を確立すれば、それほど困難なことではありません。モデルが必要ならば、組織の企業としての社会的責任に関するパフォーマンスを検証するためのGoodCorporationの手法を参考にすると良いでしょう。GoodCorporationは、組織の主要な利害関係者のニーズと期待を管理するための、責任ある手法の枠組みを規定する一連の原則を中核とする規格です。この規格の発足以来、GoodCorporationのモデルは、労働組合、慈善団体、非営利組織、それに某多国籍石油企業を含むありとあらゆる業種と規模の企業など、かなり広範な組織に活用されています。

同規格は、一つ一つの原則の下に、マネジメントのグッドプラクティスかつまたは必要最低限のパフォーマンスレベルという形で、審査の基準となる要求事項を規定しています。検証方法は以下の四段階を踏みます:

  • 方針が設定されているか
  • 方針を実施するためのシステムが確立されているか
  • システムが実際に機能していることを示す記録があるか
  • 利害関係者に聞くと、彼らはシステムが機能しており、公正であると答えるか

従来のマネジメントシステム審査は上記の3番目までにとどまっています。しかし、最後の項目こそが真に価値を付加できるのです。当然ながらこれには実施面での困難が伴います。例えば、期間の限定された審査業務の中で接触でき、しかもフィードバックを与えるという協力をしてもよいという利害関係者をどうやって見つけるか、という問題があります。しかし、絶対に乗り越えられない難題というものはありません。

GoodCorporationのモデルで、私が特に気に入っているのは表彰という要素です。審査員が組織のベストプラクティスを讃えて賞を授与することができるのです。これがトップマネジメントの関心と熱意を刺激するのに役立っています。審査は常に減点法でなければならないなどと誰が決めたのでしょう。やる気を起こさせる新しい方法を積極的に採用しようではありませんか!

著者について

Fraser Patersonは、英国に本社を置く国際コンサルティング企業Scott Wilson社主任企業責任コンサルタント兼グループ環境アドバイザーです。品質、環境及びそれらを統合したマネジメントシステムと事業の改善に関する世界的なコンサルタンティング経験及びトレーニング経験を持っています。詳細は、著者電子メールfraser.paterson@scottwilson.com に連絡するか、Scott Wilson社ウェブサイトwww.scottwilson.comをご覧ください。

 

©2005 IRCA. All rights reserved www.irca.org 連絡先 略語

表紙  
特集 arrow
ニュース
フィードバック