審査: サービス業 vs. 製造業
より伝統的な製造業に比べ、サービス業の審査は、製造業とは違った種類の難題を審査員に投げかけます。ITやその他のサービス業では、より深く掘り下げた審査が求められています。Paul Simpson 氏と Vishnu Kanhere 博士が、サービス業と製造業の主な違いを明らかにします。
この記事の最後に掲載しているケーススタディをお読みになるのをお忘れなく。サービス業と製造業における、実際の審査のシナリオをご紹介しています:
![]() |
![]() |
明確にすると、サービス業の審査は、製造業の審査と比べ、本質的な違いはありません。サービス業の審査においても、審査員は組織のプロセスを理解していなければなりませんし、十分な準備をもって臨む必要があります。また、インタビューをしたり、周りで何が起こっているかを観察する必要がありますし、審査基準となる規格を理解していなければなりません。では、これらが製造業、サービス業ともに同じなのであれば、いったい何が違うのでしょうか?
サービスでは、本来、無形のものを取り扱っています。審査員は、製品に見られるような事象を期待するべきではありません。例えば、受付/セキュリティ部門を審査する際は、所定の業務の中で、要員が何を求められているかを自ら理解しているかどうかを確認することが重要です。しかし、状況は日々違うので、審査員は、この部門が毎日の異なる状況に常に適応しているかどうかを確認する必要があります。サービスの「質」は、個人に依存しており、各人の性格や、受けてきた教育訓練の影響を受けます。つまり、人間の本質と、育まれてきた環境とに左右されるのです。
製造業の審査は、もう少し直接的なものになります。仕様と、これに対する許容誤差の確認に終始することになります。合否判定基準は、サービス業の業務に比べてより明確です。製品は目に見えるものであり、審査員は同じ製品の標準的な製造ラインを何度も確認することができます。
サービス業を審査する際の課題は、製造業の審査の時とは異なります。審査に必要な技能は類似したものであるべきですが、鍵となるのは、審査員の心構えです。
組織体系
製造業の組織構造は、一般的に体系化され、時には融通が利かないと思えることがあるほど明確に設定されています。業務時間は固定され、部門ごとに業務内容、目標、役割、責任及び時間軸が明確に規定され、はっきりと境界線が引かれています。サービス業の組織構造にはより柔軟性があり、従業員には、複数の業務をこなし、状況に応じて対応し、常に移り変わる状況に対処することが求められます。
仕事の性質
サービス業では、顧客からの要求の最終段階で、予期せぬことや緊急事態に出くわすことが良くあります。一方、製造業では、要求事項は要員ではなく機械に関することが主なので、通常は予測可能な要求事項がほとんどです。
また、サービス業は要員中心の業務を行っているために、業務の拡大や縮小の際には人々に関することが問題となります。拡大には、新入社員の増加に伴う社風や労働文化の維持、そして縮小には組織の分離や退職などの問題が伴います。製造業では、拡大や縮小が必要なのは、主に設備や施設です。
審査経路
サービス業において、品質の審査員がしばしば直面するもう一つの問題は、どこから審査を始めるか、ということです。製造業の場合は、審査の段階は明確です。原材料のインプットの第一段階からスタートし、市場に流通しようとしている最終製品の審査をもって終了します。
サービス業では、顧客とプロセスが多様なので、審査員は次の事項を考慮する必要があります:顧客との相互関係、サービスの要求事項/注文がどのように受け付けられ、処理され、納品され、顧客に提供され、サービスが完了するのか。
品質のパフォーマンス指標
サービス業においては、鍵となるパフォーマンス指標 (KPI)としては通常の場合、顧客満足、サービスの実現及び提供に焦点が当てられます。製造業では、KPIは絶対的、また原則的に物理、化学または生物学的といった科学法則に基づくものとなります。また、製造業におけるKPI は、通常の場合よく固定され、予測可能である、業務、時間、努力及びスピード、物事の関連性に依存したものになります。
何を比較するか
サービス業の審査において審査員が直面する主な問題として、品質パラメータや目標に関して、良くなっているか悪くなっているかを確認する際に、直前の状態と簡単に比較することができない、ということが挙げられます。審査中、審査員は、以前は仕事が山のようにあり、対処するのが難しかった部署が、今では比較的余裕のある状態で業務も以前よりはゆっくり行われており、全てのスケジュールが順調に進んでいる場面に出くわすかもしれません。
このような状況でパフォーマンスを判定するのは、まさに難題です。業務はマーケティングや顧客の要求事項/必要性に完全に左右されているので、このような部署に関して、審査員はアウトプット/サービスの基準に固執することはできません。では、審査員はこのような部署を、このような時に審査する場合、どのようにすれば良いのでしょうか?確実な解決法はありませんし、即答することもできないのですが、審査員は事象を判断する際に、次のような積極的アプローチを用いると良いでしょう:部署の対応力のレベル、部署の要員の力量及び将来の繁忙期に対応できる体制を整えるための時間を効果的に使っているか。
介在するプロセス
製造業において、あるプロセスに介在する別のプロセスを審査することも、また難題です。品質の基礎となる要素の一つは、顧客満足です。多くの企業は、顧客からのフィードバック及び市場の傾向によって顧客満足度を判定し、測定することができます。 審査員は、顧客には直接は関係がなく、顧客関連のプロセスでもない、製造プロセスにおける顧客への責任を、どのようにして評価することができるでしょうか?顧客の製品に対する全体的な印象は、直接は顧客に関係がないようなプロセスも含め、全てのプロセスの影響を受けます。
一つの方法は、関連する要員に、顧客に満足を与えるに当たっての、自らの仕事の重要性、役割、そして業務及びプロセスの関連性を認識しているかどうかを質問してみることです。
概して、製造業の審査では、審査員はより体系的なチェックリストに基づくアプローチを採用することができます。サービス業は、より柔軟で、品質の基準を定量化しにくく、時間軸の中で事象を比較することが難しいので、審査員は要員の取り組み、態度、及び対応力に焦点を当てた、よりオープンなアプローチを用いる必要があります。
しかし、サービス業であろうと製造業であろうと、企業が顧客のニーズ及び期待を満たしているかどうかが良い審査のための鍵となることは事実です。 究極的には、報告、記録、及びインタビューから品質に関わる問題を特定し、より多くの事実を収集するために深く掘り下げた審査を実施し、これらの情報を分析し、受審企業の品質マネジメントシステムの改善を支援するために受審側を説得し、導くのが審査員の責任なのです。
実際の事例を読み、製造業とサービス業の審査を比較してみてください:
この記事の導入部分をご執筆下さったPaul Simpson氏(www.xbs.org.uk 参照)と、本文の大部分とサービス業のケーススタディをご執筆下さったVishnu Kanhere博士、そして製造業のケーススタディをご執筆下さったスリランカ規格協会(www.slsi.lk 参照)のT Uthayakumar氏に厚く御礼申しあげます。

