経営者の責任 – デミングの視点

ISO 9001の第5項に関する議論が持ち上がったとき、我々は誰のことを思い浮かべるべきでしょうか?Shaun Sayers氏は、その答えは一つしかないと考えています。

品質マネジメントの第一人者が入れ替わり立ち替わり現れていますが、皆それぞれ独自の視点を持っています。しかし、他の誰の追随も許さない一人のリーダーがいます。この品質専門家の、ビジネスのダイナミクス、人間のモチベーション、顧客行動、経済に対する鋭い理解、そして最も重要な、これら全ての要素をどのように統合するかという考え方は、半世紀にわたって今なお変わらず生き続けています。従って、私が「ISO 9001の第5項」について議論する際は、「デミング博士なら何というだろう?」と考えるようにしているのです。

ISO 9001にはデミング博士の考え方が反映されていますが、誤った解釈をして恥をかきたくないならば、この規格の根拠となっているマネジメントの理念の理解に並々ならぬ時間と努力を費やさなければなりません。まず、「経営者のコミットメント」を見てみましょう。規格が要求しているのは、すばりどのようなことでしょうか?そしてなぜそのような要求をしているのでしょうか?例えば、「署名された方針文書」が「経営者のコミットメントを目に見える形で示したもの」として頻繁に用いられていますが、多くの人々がこのテーマの解釈には手を焼いているのです。しかし、デミング博士なら何と言うでしょうか?

デミング博士なら、経営者の役割について概ねどのような解釈をするか、考えてみましょう。デミング博士は、少なくとも、経営者は実際的かつ積極的な方法で、労働者が快適に働けるようにし、資源を提供し、作業の妨げとなるような障害を取り除く努力をしなければならない、という強い信念を持っています。もう少し掘り下げて考えてみましょう。方針声明文は、それに署名があろうとなかろうと、日々の業務の品質に十分関連していますか?どのような状況においてもコミットメントを維持することを表明した、信頼できる声明文になっていますか?コミットメントのない社長が紙切れに署名しただけの形骸的な声明文ではありませんか?そもそも、署名はISO 9001で要求されているのでしょうか?

私は、このようなやり方をデミング博士が歓迎するとは思いません。どちらかといえば、博士はこの目に見える方針声明文という考え方を、創造性に反する手段、見せかけだけのもの、という目で見るでしょう。博士は作業現場のスローガン掲示にも真っ向から反対していました。もちろん博士は、経営者のコミットメントに対しては概して非常に強い意見を持っていましたが、あらさがしをするような人物ではありませんでした。むしろ、このような体裁を繕うだけのものは気にも留めず、核心的なものに向かって真っすぐに進んでいく人でした。博士の著書、Out of Crisisにはリーダーの役割が以下のようにまとめられています。

「リーダーシップの目的は、作業者や機械のパフォーマンスを向上し、品質を改善し、アウトプットを増加し、同時に人々に職人としてのプライドをもたらすことである。消極的に考えると、リーダーシップの目的は作業者の過失を見つけることだということになってしまうが、そうではなく、過失の原因を取り除き、人々が少ない努力でより良い仕事ができるように支援するのがリーダーシップの目的なのである。」

もしデミング博士がISO 9001の審査員だったとしたら、博士は次のような難問を投げかけるでしょう。「従業員を支援するために最近何をしましたか?口で言うだけでなく行動で証明していますか?あちらでは何が起こっているか理解していますか?またどうすれば従業員をサポートできるか理解していますか?」署名入りの方針声明文があろうとなかろうと、このような質問をすることによってコミットメントのない経営陣はさぞかし戸惑うことでしょう。問題は、このような質問に持ち込むことは難しい、ということです。目標が甘いからと言って、署名のようなささいな問題を取り挙げることができますか?

デミング博士はまた、マネジメント情報システムに関しても興味深い、そして恐らく驚くべき見解を持っていました。デミング博士は「測定できないことは運営管理できない」という理念を強く抱いていたことが広く知られていますが、実はこれは誤解なのです。デミング博士の「欧米のマネジメント方式における7つの致命症」の第5番目に、「目に見えることだけを頼りに企業を運営すること」が挙げられているという事実に注目すべきです。

デミング博士は、多くの重要なマネジメント情報が知られていないか、または知りえない状態にあり、我々は100%「事実に基づいた意思決定のためのアプローチ」を達成するという到底無理な目標に向けて多くの時間を無駄にしている可能性がある、と認識していました。しかし、事実に基づいたアプローチが適切な程度において適用されるならば、特に意思決定のプロセスにおけるリスクを軽減するような実際的な成果があるという点で、デミング博士はデータ収集及び分析の慣行を概ね支持していました。しかし、誤った意思決定のリスクを軽減するためにできることは限られている、と博士は主張するでしょう。もし体系的に意思決定におけるリスクをゼロにまで軽減することができれば、失敗はなくなるわけです。しかし、リスクをゼロにすることはできません。従って、失敗は必ず起こるものなのです。

このような考え方でもう一度ISO 9001に立ち返ってみると、審査員はデータ分析及びマネジメントレビューについては実際的なアプローチをもって審査を行わなければならないということになります。全てのデータ収集が価値のある成果を生むとは限りません。従って、時々、いくつかの領域では立ち止まっても大丈夫です。また、全てのマネジメント情報が知りうる状態にあるとは限らないので、結局は主観的な判断が必要になる場合もあります。しかし、誤った決定をしているからといってマネジメントレビューのプロセスにシステム上の欠点があるとは言い切れません(明らかに同じ間違いが何度も繰り返されている場合はシステムに疑念を抱くことになるでしょうけれど)。結局、我々は付加価値のある方法で第5項を解釈する方法を理解する前に、マネジメントシステムの限界を認識することも含め、まずこのような高レベルのマネジメントプロセスの複雑さ、微妙さそして流動性を理解する必要があるのです。

著者について

Shaun Sayers氏はCapable Peopleの創設者であり、ディレクターです。同氏は品質マネジメントシステム及び労働安全衛生の登録主任審査員で、IRCA登録のQMS及びOHS主任審査員トレーニングコースの開発及び提供に携わって8年以上になります。Sayers氏はマネジメントが専門で、ヨーロッパ及びアジア全土の顧客のシステム実施にアドバイスを提供していますが、特に21世紀のための賢明で機動的な解決法を重視したコンサルティングを行っています。Sayers氏は自身のブログhttp://blog.capablepeople.co.uk/blogで、定期的に改善をテーマとした執筆活動を行っています。 

 

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