氏が、現代を形作ったのは我々のリスクに対する理解の仕方であると考察しています。
21世紀のマネジャーにリスクとは何であるかを尋ねてみると、おそらく、それは危害の発生確率と影響度の推定値であるという答えが返ってくるでしょう。別のマネジャーはまた別のことば遣いをするかもしれませんが、ほとんどの人々は、リスクとは計算および計画可能な、道理に基づいた未来に関する見解である、ということを知っているでしょう。しかし、この現代的なアプローチが明確な形で示されたのは、それほど昔のことではありません。
数字の力
1000年前は、良く教育を受けた人であっても、数字の「ゼロ」を認識してはいなかったでしょうし、基礎的な数学の試験に合格することも恐らくなかったでしょう。それから500年後も状況はほとんど同じで、いくつかの測定方法があることを除けば、リスクは未だ直感の問題でした。
13世紀初頭、「算盤の書(Liber Abaci)」という本がイタリアで出版されたことにより、西洋に数字の力が到来しました。これはレオナルド・ピサノ(通常フィボナッチとして知られている)による、15巻にわたる手書きの本です。フィボナッチは1対のウサギから1年間で何匹の子ウサギが生まれるかという問題に数を用いて答えたことで有名です。
評価するために数を用いるにはまだ程遠いものでした。英国では、1993年に労働安全衛生マネジメント規則が施行されて初めて、作業場でのリスクアセスメントが一般的になり始めました。
1991年、英国の安全衛生庁はガイダンス文書「成功する安全衛生管理(Successful Health and Safety Management)」を発行し、リスクとは2つの独立した変数、つまり「発生確率」と「影響度」の産物であることを明確に示しました。その後、多くの労働安全衛生マネジャーたちが、この2つのパラメータを測定するために、数字を利用したマトリックス方式のリスクアセスメントアプローチを用いるようになりました。
1990年代初め、労働安全衛生研究所は安全管理トレーニングコースを開発し、5×5マスのマトリックス(図1参照)を用いた定量的リスク測定をコースに組み込みました。このマトリックスでは、小さいリスクは発生確率「1」で表され、影響度は「1」でもそのリスクが高ければ「5」とされました。数字が大きければ大きいほど、リスクは大きく、優先的に行動計画を練らなければならないことになります。
図1:5×5マスのリスク測定マトリックス
ピーター・バーンスタイン(Peter Bernstein)は、著書「神々への反逆:リスクについての画期的な書(Against the Gods: The Remarkable Story of Risk)」でリスクの進行の重要性について記述しています。バーンスタインは、「リスクについて理解しているかどうかが現代と過去を分ける境界線である。未来は神々の気まぐれで決まるのではない。したがって人間は自然の成り行きをただ受容するのではない。人間がそのような境界の向こう側に方法を見出す以前は、未来とは過去の鏡であるか、または託宣者や占い師が支配する暗い領域であった」と述べています。
危険源とリスク
リスクを定義することばもまた、何世紀にもわたって存在しています。現代の「危険源」の定義は「危害の可能性」です。「危険源(hazard)」ということばは、アラビア語で「サイコロ(dice)」を表す「al zahr」に由来しているといわれています。サイコロは運、つまり純粋なチャンス、純粋な危険源のゲームなのです。一方、「リスク」ということばは初期イタリア語の「risicare」に由来しているといわれています。これは「思い切って試みる」という意味で、選ぶのは自由だが、失敗する可能性もあるということを暗に意味しています。
このような古い時代の定義の影響が現代にも未だに見られるように思います。リスクマネジメントに関わっている人々は「頻度」や「可能性」といった物事の発生確率を表すようなことばを使っています。さらに、マネジャーたちは起こり得る危険源にいつ、どのように対応するかを選択する際は「思い切って試みて」いるように見えます。もちろん、この選択は危害の発生確率とその危害が起こった場合の重大性に影響を与えます。
近年、「リスク」ということばはビジネス目標の達成に影響を与えるものとしてより広い意味で解釈されるようになってきました。また通常の場合、リスクは発生可能性と影響度に基づいて数量化されます。リスクは一般的に2つの方法で表現され、測定されます。
- 固有リスク ‐ 選択されたビジネス管理のための枠組みの効果を及ぼす前に発現しているリスク。純粋リスクまたは肉眼的リスクと呼ばれることもある。
- 残存リスク ‐ ビジネス管理のための枠組みにおいて要因を軽減し、管理した後で残っているリスク。
このような定義は別として、リスクを運営管理するための第一歩は、肯定的なものであれ否定的なものであれ、リスクは組織の目標達成に潜在的な影響を与える源であると定義されることを理解することにあります。潜在的影響のレベルが明確になれば、続いてマネジャーが着手しなければならない活動の規模と緊急性を明らかにすることができるのです。
サターンVロケットを開発した科学者のひとりが次のように述べています。「漏れのないバルブが欲しくて、それを開発するために可能なことはすべて試みた。しかし、現実には漏れやすいバルブが未だに存在している。ここで決めなければならないのは、どの程度までなら漏れを許容できるか、ということである」と。
著者について
Stephen Asbury氏は労働安全衛生研究所の公認フェローであり、Corporate Risk Systems Limitedの代表取締役です。
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