2018年7月開催CPD月次会レポート(リーンシックスシグマの活用法)
7月のCPD月次会は、力量のフレームワークにある5つの要素のうち、Improvement(改善)に焦点を当てたセッションを7/27に開催しました。
当日の流れ
まず最初のIRCAによるイントロダクションでは、マネジメントシステムの適切性、妥当性、有効性の改善に継続して取り組むことが組織に要求されているが、なかなか組織が意図したとおりに有効性を発揮できていない実情について問題提起が行われました。
組織で活躍するIRCA審査員/監査員においては、パフォーマンスが不十分な領域を明確化してあらゆる改善の機会を洗い出す為に、分析及び評価(箇条9.1.3)及びマネジメントレビュー(箇条9.3.3)からのアウトプットの活用と、有効な内部監査の実施が期待されていることを確認した後、現状課題の思考を支援するために改善のカルチャーを創造する以下5つの要因が提供されました。
2.リスクマネジメントの全社の組織体系
3.マネジメントシステムの有効性を踏まえた内部監査の実行プロセス
4.内部監査を実施する監査員の力量
5.監査員のモチベーション
続く講義パートでは、ジェネックスパートナーズ眞木会長から、改善手法のグローバルスタンダードとなるリーンシックスシグマ(LSS)の基礎的概要、実践方法、TQC/TPSとの比較を踏まえた歴史的経緯や数社の導入事例を紹介頂き、ISOマネジメントシステムとの相関性を考え、リーンシックスシグマの活用法を模索するワークショップへと展開。
ワークショップでは、改善ステップの第1段階となるDefine(定義)フェーズにおける課題の設定(定義)と実行計画書(チャーター)の作成を実施し、LSSの理解を深めつつ、実際にマネジメントシステム運営上の課題に焦点を当てた議論が実施されました。
講義の概要
リーンシックスシグマ(LSS)の基礎的な仕組みについて、QCサークル活動やトヨタ改善と比較を交えてその特徴が紹介された。
LSSは改善手法のグローバルスタンダードとして、欧米を中心に導入企業が広がっており、既にISO13053によって改善手順や考え方の定義が標準化採用されており、尚且つISO18404によるLSS関連要員の認証についてもイギリスで試験運用が開始されている。
現在中国では国家戦略として国家規格にも採用され、LSS導入企業数とLSSを活用した業務改善プロジェクト数が急速に拡大している他、ビックデータやAIの最新技術を活用したVOC分析に基づく、課題テーマの自動選定や、プロジェクト管理の他、育成プロセスも含めてオンライン上で完結する仕組みなど、グローバル企業を中心に活用方法も進化しているのが実情。
LSSを導入する企業では「業務改善成果を出しながら、人材を育てるマネジメント」の有効な手段として採用しているケースが多く、マネジメントシステムとの相関性も高いと言う。
更に講義の中で紹介されたリーンシックスシグマ(LSS)の主な特徴として、以下のような事項が挙げられ、LSSの仕組みを改めて理解する機会となった。
- 経営トップがプロジェクトオーナーとして関与し、組織の課題を対象とした改善活動で着実に成果が出せる仕組みである。
- トレーニングとプロジェクトの実績経験を通じて、改善の成果を出せる人材の育成が進む。
- 組織共通の言語と思考方法が社内で標準化され、プロジェクトの実行スピードを高め、プロジェクトにおけるコミュニケーションが円滑となる。
- 顧客ニーズ(VOC)から展開される経営課題(CTQ)に基づいて、関連するプロセス全体を対象として、経営視点で優先度が高い、部門横断的な改善活動が中心となる。
- 業務改善は、日常業務と同様に職務として取り扱われており、業務改善を主導する専門メンバー(ブラックベルト)の存在と、業務改善に関わるパフォーマンスの評価法や人事考課等の人事制度が追って整備されていくケースが多い。
- 課題の設定から解決までの業務改善の基本プロセス(DMAIC)を共有することによって、海外拠点を含む他部門の連携を促進する効果がある(共通言語化)。
- 初期のLSS活用で実現される成果が好循環を生み出し、会社の改善インフラ、更には改善文化として、全社的に定着していく過程を実現した成功事例も多く存在する。
- 現場で発生する問題を一旦整理して、経営課題としての優先順位付けされてからトップダウンでプロジェクト展開される。
- サービス業やマーケティング部門などの非生産部門での活用事例も多い。
LSS導入企業事例の紹介
日本企業も当初は外資系企業の日本事業所で導入事例がほとんどであったが、現在では日本企業の事例も増えており、講義内では具体的に7社の事例が提示された。
事例1)
そのうち1社(Lixil社)は、LSSの導入が開始された2012年からの7年間で、1,000 名近い規模のベルト保持者(LSS基礎学習修了者)が育成され、全従業員約40,000名の社員中目標の10%に対し、現状約7%程度がLSSプロジェクトに参画し、6年間の累計で1,200プロジェクトが実施されている。
2012年の活動開始時には、約80社を対象に1,600件以上のVOCを集中的に収集し、改善テーマを設定する活動からスタートし、現在では年間50億円以上の財務成果を上げる規模に成長している。
また女性の割合も約30%となっており、女性の業務改善への参画機会が増えたことも多様化の成果を生む一つの要因となっており、短期間で社内に改善の仕組みと文化が定着した事例と言える。
事例2)
またQMSとLSSを連動させている企業の事例が紹介された。
品質マネジメントシステムの運用で特定された問題やリスクに対して、シックスシグマチーム(改善主導チーム)が連携して抜本的是正・改善活動を実施する体制が行われている事例である。
重要課題の解決支援と、改善後のプロセスをQMSに反映する連携が仕組み化されており、手順書にない業務プロセスを迅速に構築し、新たな業務プロセスへの変更を行うために柔軟なQMSの運用を心がけているという。
ワークショップの概要及び成果物
プロジェクトの第1段階となるプロジェクト定義(Define Phase)においては、プロジェクトの対象課題とその必要性、プロジェクト実施方法や想定効果、活動体制や実行期間など、計画するプロジェクトを5W1Hの視点から設計する作業を指定のプロジェクトチャーターを使用して演習を実施。
チームごとにマネジメントシステムの内部監査における課題をベースに継続的改善の促進を図る為の課題を思考し、各自の企業内のコンテキストを考慮し、個別にプロジェクトチャーターを簡易的に作成。(チームチャーター/ワークショップOutput概要一覧)
参加メンバーによって作成されたプロジェクトチャーターでは、内部監査の実効性を高める為に監査の実施プロセスを改善する内容が多く挙げられ、チームディスカッションにおいてはLSSにある特徴を活用した促進策を検討するアイデアも討議された。
また、仕組みを実行する監査員の力量、及び監査員のモチベーションを高める為の取り組みについて、人材育成や評価プロセスなどの構築が必要との意見も挙がった。
結果として、継続的改善活動を促進する為に、各メンバーが内部監査のプロセスを対象に改善をリードしていく役割を実践できる余地が多いことを認識し、仕組みや人材育成の視点からアプローチの方法が探索される機会となった。
総括
今回のセッションでは、リーンシックスシグマの業務改善を推進するさまざまな基本要素と特長が共有され、組織内の継続的改善活動を推進する手がかりを探求する機会になったとのフィードバックが多く寄せられました。
マネジメントシステムにおけるパフォーマンス評価に関わるアウトプットをLSSのインプットとして活用することで、改善活動をドライブさせる可能性があることにも気付きを得るセッションとなりました。
ワークショップでは限られた時間でしたが、主に内部監査に焦点を当て、マネジメントシステムの実効性向上を目的としたプロジェクトチャーターが多数作成されました。
各チャーターには、マネジメントシステムの評価-改善プロセス、内部監査員の力量開発の仕組みを再構築するものも含まれており、マネジメントシステムの実効性を向上させる「全社的改善プロジェクト」実践のヒントが得られました。