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チェックリストを超えて: 日々の業務に品質を組み込む

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チェックリストを超えて: 日々の業務に品質を組み込む

quality.org の英語原文記事はこちら

プリンシパル審査員でグループQHSEのマネジャー、スーザン・サマルー Suzan Samaroo CQP MCQIが、品質がすべての組織の不可欠な要素となるためには、「チェックリスト」のイメージから脱却する必要がある理由を説明します。

品質マネジメントの世界において、チェックリスト、監査および手順は重要なツールです。チェックリストは、コンプライアンス/適合を確保し、リスクを低減し、一貫性を推進するのに役立ちます。しかし、多くの経験豊富なプロフェッショナルが語るように、本当の品質は、書式やマニュアルの中には存在しません。品質は意思決定の中に存在します。日々の、現実的で、人間らしい意思決定の中に。

しかし実際には、そうした意思決定は縦割り組織の中で、プレッシャーの下、あるいは状況を適切に把握しないまま、なされてしまうことが多いのです。では、チェックリストを超えて、日々の業務のDNAに品質を組み込むにはどうしたらよいでしょうか?

「チェックリスト思考」がもたらすリスク

チェックリストは非常に有用です。例えば航空業界や医療分野では、チェックリストによって数えきれない命が救われてきました。しかし、項目にチェックを入れること自体が目的となる「チェックリスト思考」に陥ると、停滞を招く可能性があります。人々は品質を監査のためのタスクと捉えるようになり、すべての行動ややりとり、改善の機会を導くべき考え方としての品質を見なくなってしまいます。

チェックリスト思考の症状には以下のものがあります。

  • 実際の内容や目的を確認せずに書類を完成させる
  • 実際のパフォーマンスギャップを特定するのではなく、監査に合格することに注力する
  • 現場の従業員および中間管理職の品質への当事者意識/ 責任感が欠如する
  • 意思決定プロセスへの品質思考の統合が最小限になる

このようなアプローチは自主性を阻害し、チームの権限を奪い、品質を単なる書面上の作業にしてしまいます。

品質を意思決定のフィルターとして活用する

高いパフォーマンスを誇る組織では、品質は重ねるものではなく、物事を見るためのレンズです。このレンズは採用や調達から、顧客サービスや事業戦略に至るまで、あらゆる意思決定を評価する際に用いられます。

自分自身に問いかけてみましょう。

  • プロセスが品質の期待と合致していない場合、人々は意見を述べるよう奨励されていますか?
  • リーダーたちは、変更を加える前に『品質への影響は?』と問いかけていますか?
  • 指標は成果のみに注目していますか?それとも顧客体験や長期的な持続可能性も含まれていますか?

意思決定のフィルターとして品質を組み込むと、品質は事後対応ではなく事前対応になります。

品質部門から品質文化へ

組織が成し得る最も大きな変革のひとつは、品質をひとつの部門として捉えることをやめ、文化へと転換することです。これは、オーナーシップの分散から始まります。現場から経営層に至るまで、すべての人が品質の結果に対して当事者としての責任を感じるべきです。

その意識変革を実現する方法をご紹介します。

  1. コンプライアンスだけでなく理解のためのトレーニングを行う: 基準の背後にある『なぜ』をチームに伝えましょう。人々がその根拠を理解すれば、逐一指示されなくても品質重視の意思決定を行う可能性が高くなります。
  2. 品質の成功を称賛する: 従業員がミスを防いだり、問題を指摘したり、プロセスを改善したときにはその功績を認めましょう。これは品質は期待されているだけではなく、評価されるという考えを強めます。
  3. ストーリーテリングを活用する: 適切な意思決定が顧客満足向上につながった事例や、品質の原則を無視したことで問題が発生したときの実例を共有しましょう。物語は手順書だけでは得られない深い共感を生み出します。

現場への権限付与

最も重要な品質に関する意思決定は、多くの場合、取締役会の中ではなく、現場、倉庫、カスタマーサービスデスク、配送車の従業員によって行われます。

ここでの権限付与とは次のことを意味します。

  • 適切なタイミングで適切な情報を提供すること
  • 必要に応じてプロセスを停止したり変更したりするj自律性を促すこと
  • 問題のエスカレーションや改善提案を行うためのツールを与えること

例えば、生産作業員が表示ラベルの不一致に気付いたとき、早期に指摘すれば、数百個もの不適合品が顧客に届くのを防ぐことができます。しかし、それは企業文化が「あなたの声が大切だ」と認めている場合に限られます。

戦略的意思決定における品質の対話

戦略的な意思決定に品質を組み込むことは極めて重要です。ここで、品質が重要な役割を果たすいくつかのシナリオをご紹介します。

  • 新しい製品やサービスの導入: どのような管理が実施されていますか?カスタマージャーニーをテストしましたか?
  • 合併または買収: 共有する品質原則やシステムの整合性は取れていますか?
  • テクノロジーの導入: それにより可視性、追跡可能性、ユーザー満足度は向上しますか、それとも妨げられますか?

品質チームは、契約締結後や導入開始後になってから相談を受けることがあまりにも多くあります。これを防ぐためには、リーダーが最初から品質の専門家を部門横断型チームや計画立案プロセスに組み込む必要があります。

品質重視のマインドセットによるデジタルトランスフォーメーション

人工知能 (AI)、データ分析、インダストリー4.0が業務のあり方を再構築する中、品質の役割は拡大しています。傾向を追跡し、失敗を分析し、リスクに先回りして対処する能力は、かつてないほど強力になっています。

しかし、品質の意識が伴わないデジタル化は、誤った意思決定を急速に増幅させる可能性があります。自動化は、それを支えるロジックが優れていてこそ真価を発揮します。したがって、品質の専門家は、デジタルツールの妥当性をどのように確認し、顧客ニーズに合わせて調整し、リスクマネジメントやプロセスマネジメントの枠組みと統合するのかを指導しなければなりません。

ダッシュボードに囚われず、データがどのようにより速く、よりよい意思決定をサポートするかに焦点を当てましょう。

重要なことを測定する

日々の品質判断を推進するためには、組織は本当に重要なことを測定しなければなりません。これは、(見つかった欠陥の数などの) 遅行指標から、(提出された改善案の数、プロセス逸脱アラート、顧客努力スコアなどの) 先行指標へ切り替えることを意味します。

重要業績評価指標 (KPI) が量やスピードだけに焦点を当てると、人々は数字のための決断を下し、品質はおろそかにされます。しかし、指標がパフォーマンスや体験を反映する場合、人々の行動は変化します。

あらゆる階層で品質のリーダーシップを築く

意思決定に品質を組み込むには、それを自ら体現するリーダーが必要です。それは品質管理者だけでなく、監督者や役員、プロジェクトリーダーも同様です。

品質リーダーとは次のような人たちです。

  • 適切な質問をする人たち
  • 短期的な対策ではなく、長期的な解決策を追求する人たち
  • チームの批判的思考力を育成する人たち
  • 品質目標を組織戦略と連携させる人たち

ISOの原則に沿ったリーダーシップトレーニングやコーチング、意思決定フレームワークに投資することで、部門全体への効果を倍増させることができます。

チェックリストで終わらせず、もっと大きな視野を持とう

チェックリストは敵ではなく、ツールです。しかし、チェックリストは価値観やデータ、そして顧客の声に基づいて意思決定が行われる、より広範な品質のビジョンに貢献しなければなりません。

品質が人々の考え方、意思決定、行動の一部となったとき、組織は単なるコンプライアンスを超えて、イノベーション、レジリエンス、そして持続的な卓越性を実現します

チェックリストにチェックを入れるだけのやり方から一歩踏み出しましょう。あらゆる意思決定を、品質を考慮した決定にしましょう。

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