ISO 42006: AIマネジメントシステムを認証する機関の新たなベンチマーク

英国規格協会 (BSI) の規格開発リードマネジャー (量子、AI、デジタル・アクセシビリティ) であるギャヴィン・ジョーンズは、最近発行されたBS ISO/IEC 42006を詳しく解説します。同規格は人工知能のマネジメントシステム審査について指針を提供するものです。
人工知能 (AI) の利用の増加は、審査に重大な課題をもたらしています。その主な理由はAIシステムの複雑さ、不透明さ、適応的な性質にあります。従来のソフトウェアとは異なり、AIモデルは継続的な学習を通じて進化するため、固定時点の審査だけでは不十分です。これにより、適切な審査期間を定義する上で根本的な課題が生じます。なぜなら、適合評価はリアルタイムもしくはほぼリアルタイムの監視と、定期的な認証サイクルの運用上の制約との間でバランスをとる必要があるからです。
これらの課題やAIの利用自体に起因する固有のリスクを軽減するために、有資格のAIマネジメントシステム (AIMS) 審査員の需要は、産業や社会全体におけるAI技術の普及と並行して大きく増加すると予測されています。
AIMS審査を規定する力量のフレームワークは、これらの新たに浮かび上がってきた複雑性に対応し、認定機関が従うべき明確なガイドラインと要求事項を提供するために、迅速に進化する必要があります。このような審査には、マネジメントシステム及び関連する規格、AIMS管理策、そして該当する適合性評価および認証スキームに関する知識など、多分野にわたる専門的な知識が必要です。
これらは、従来の審査分野にはまだ広く組み込まれていない専門分野ですが、「BS ISO/IEC 42006:2025 Information technology - Artificial intelligence - Requirements for bodies providing audit and certification of artificial intelligence management systems 情報技術-人工知能-人工知能マネジメントシステムの審査および認証を提供する機関に対する要求事項」で規定されています。
今年初めに発表されたバーナード・マー (Bernard Marr) 氏の記事「Human Plus AI: Redefining Work In The Age Of Collaborative Intelligence 人間+AI: 協働的知能時代の仕事の再定義」によれば、およそ95%の労働者が「生成AIとともに働くことには潜在的な価値があると考え、94%が新しいスキルを学ぶ準備ができている」と述べているとのことです。AI (生成AIだけでなく) 導入の商業的な応用や浸透が非常に現実的な可能性を持ち始めている今、それに伴う社会技術的な影響に加えて、組織やリーダーにとっては、目前に迫ったAIを活用したオペレーションやシステムの世界に備えるときが訪れています。
"BS ISO/IEC 42006は、AIMSの審査および認証に関する統一的な要求事項を確立することで、AIを活用した世界中の企業の信頼性、透明性、説明責任を強化するうえで極めて重要な役割を果たすことができます。"
ギャヴィン・ジョーンズ BSI規格開発リードマネジャー (量子、AI、デジタルアクセシビリティ)
「BS EN ISO/IEC 42001:2023 情報技術-人工知能-マネジメントシステム」の指針や要求事項に準拠することは、はじめの一歩となるでしょう。組織は、自社のプロセスにおいて差別化を図り、利害関係者との信頼関係や信用を自信を持って構築するために、適合性評価機関 (CAB)) や認証機関による独立した検証を受けることができます。
42006 規格は、AIMS の認証を希望する認証機関の認定に責任をもつ認定機関に包括的なフレームワークを提供しています。このフレームワークは、以下を支援するよう設計されています。
- 認定機関に対する構造化された要求事項の使用を通じて、AI認証の一貫性を確保する
- CABおよびAIシステムを審査する認証機関の相互評価と認定を促進する
- AI認証の国際的な相互承認を可能にし、42001規格を採用する組織の市場参入を簡素化する
BS ISO/IEC 42001は、AIMSの審査および認証に関する統一した要求事項を確立することで、AIを活用した世界中の企業の信頼性、透明性、説明責任を強化するうえで極めて重要な役割を果たすことができます。BS ISO/IEC 42001 の範囲内で活動する認証機関は、認定機関による認定を受けるためには BS ISO/IEC 42006 に準拠する必要があり、これにより堅牢で信頼性が高く、世界的に調和した AI 認証の慣行を確保できます。
この規格では何をカバーしているのか?
BS ISO/IEC 42001 の認証を行う機関、または認証を希望する組織の課題の解決を支援するために、BS EN ISO/以EC 17021-1:2015 適合性評価-マネジメントシステムの審査及び認証を提供する機関の要求事項を拡張する形で、次の内容が規格内で網羅されています。
- 法的、契約上、および公平性の義務を満たすための基本原則
- ガバナンス、責任および財政責任、要員の力量、機密性を定義する要求事項
- 認証に先立つ認証プロセス
- 基準選定の目的、遠隔審査プロトコルおよび審査方法論
- 承認およびサーベイランスの仕組み、再認証基準、特別審査、認証の一時停止や取消の取扱い、異議申立て、苦情のマネジメント、顧客記録の保持など
- 審査時間の算出方法およびその例
これらの要求事項は、この分野で働く審査員にどのように役立つのか?
上記で示された要求事項は、AIMSを審査する認証機関に、構造的で信頼性の高いフレームワークを提供します。これらの利点や想定される便益のいくつかを、以下の表1に示します。
内容 | 該当する便益 |
法的、契約上および公平性の義務の定義 | AI審査において認証機関が独立性と高潔性を維持するのに役立ち、利益相反やそれに関連する固有のリスクを低減する |
ガバナンス、責任、資金調達の要求事項 | 認証機関内に明確な責任構造を確立し、審査が倫理的かつ財務的に健全であることを保証する |
力量のフレームワーク | AI審査員に必要とされるスキルについて明確な基準を設け、データサイエンス、AI倫理、システム検証における技術的専門性を監査プロセスで確保する |
機密保持の要求事項 | AIに関連する機密性の高いライブ審査データを保護する |
認証に先立つ手順 | 一貫した審査準備を確保し、評価の信頼性を向上させる |
遠隔審査およびその方法論に関するガイダンス | 審査員がAIのダイナミックで複雑な特性へ適応し、堅牢な評価フレームワークを確保できるよう支援する |
承認および監視の仕組み | 初回認証、継続的なモニタリング、および定期的な再認証に対して、認証機関に構造化されたアプローチを提供する |
定義された審査時間の算出方法と実践的な事例 | 定義された審査時間の算出方法と実践的な事例 |
表1: 42006を採用することによる適用可能な利点
明確にする
BS ISO/IEC 42006は、BS ISO/IEC 42001に基づくAIMSの認証において、これまでにない明確さと実践的な要求事項を提供しています。この規格の活用により、英国およびその他地域において、AIシステムの安全性、信頼性 (reliability)、および信用性 (trustworthiness) が向上します。
BSIは、77,500社以上のクライアントとパートナーシップを結び、さまざまな業界分野でグローバルに展開しているビジネス改善および規格の組織です。BSI は、気候変動から AI への信頼の構築まで、あらゆる社会的重要課題に取り組むために組織と協力し、公正な社会と持続可能な世界に向けた進歩を加速することで、組織に成長の自信を与えます。
英国の国家標準機関に任命されているBSIは、ISO、IEC、CENといった国際標準機関で英国を代表し、AI、量子技術、アクセシビリティ、産業データに関する規格の発行を主導しています。BSIは、ART/1などの委員会で英国の専門家と協力し、グローバルな枠組みに沿ったAI規格の開発に取り組んでいます。