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監査の力量は変化する状況下で進化する

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監査の力量は変化する状況下で進化する

quality.org の英語記事はこちら

世界経済フォーラムからの主なスキルの変化に関する報告書を受けて、イアン・ロサム (Ian Rosam CQP MCQI) が監査の力量が未来に対応してどのように進化できるかを詳しく考察します。

監査は、急速な技術革新、労働力の人口動態の変化、ビジネスに対する期待の変化によって変容を遂げつつあります。2020年代も後半に差し掛かる中で、監査員の力量を理解することは、この職業が存在価値を保つために極めて重要です。本記事では、業界の報告書や有識者の見解から得た知見をもとに、将来の監査に必要とされるであろう力量について探ります。

監査員のスキルセットの変化

世界経済フォーラム (WEF) の報告書は、将来の労働力に必要な主要スキルについて貴重な洞察を提供しています。その分析には、必須度が低下しているスキルと、ますます重要になってきているスキルを強調する四象限モデルが含まれています。

 

  • 左下の象限: 自動化、人工知能 (AI)、ロボティクスにより重要度が低くなってきているスキル—ここには品質管理/ 品質保証が含まれていることがわかります。これはそれらの業務が不要になっているという意味ではなく、テクノロジーの変化によってそのスキル自体は不可欠なものではなくなってきているということです。
  • 右上の象限: 業界を問わず適用される中核的なスキルであり、監査に必要な能力を含め、将来のプロフェッショナルの役割を形成します。

これらの傾向を調査することで、監査員の力量がどのように進化していくかについて、より明確なイメージを得ることができます。

従来型のスキル vs 新たに求められる中核的力量

従来の品質管理および保証のスキルは、主に順守や手順遵守に重点を置いています。これには次のような事項が含まれます。

  • 計画された取り決めの順守の確認: 確立されたプロセスが一貫して実行されていることを確認する
  • 実証可能な証拠の検証: 文書化された要求事項をレビューし、あらかじめ定められた基準への適合を確認する
  • 成果ではなくアウトプットを監視する: 特定のタスクが要求通りに完了したかどうかに注目し、その広範な影響を評価しない


対照的に、新たな中核的力量では、以下のようなダイナミックかつ戦略的思考への転換が求められます。

  • システム思考組織内のさまざまな部分がどのように相互作用し、結果に影響を与えるかを理解する
  • 社会的エンゲージメントとリーダーシップ: 利害関係者と協力し、コンプライアンスに対する文化的および行動的影響を評価する。組織やプロセスを社会システムとして捉えることを促す中核的力量
  • データ主導の意思決定: AI やビッグデータを活用してリスク指標や戦略的なパフォーマンスの推進要因を解釈する


この変化は監査の力量の進化を促進し、静的なコンプライアンスチェックを超えて、組織のパフォーマンスをより包括的に理解できるようにします。

監査におけるシステム思考を理解する

WEFの報告書で強調されている重要なスキルの一つは、システム思考です。これは、組織を個別の構成要素としてではなく、複雑で相互に依存するシステムとして捉えるアプローチです。従来の監査は多くの場合、目に見える成果や事前に定められた基準の順守に重点を置くのに対し、システム思考では次の点を重視します。

  • 組織内のさまざまな要素間の相互作用を分析する
  • ビジネスの成果が組織の文化や行動パターンによってどのように影響を受けるかを理解する
  • 品質管理や品質保証のようなシステムの個々の部分を切り離して監査するのではなく、複雑かつ「厄介な」問題をマネジメントし、解決する


この変化は、静的な監査プロセスから動的かつ成果重視のアプローチへの移行を示しており、監査員は特定のルールが守られているかを確認するのではなく、複数の要因がパフォーマンスにどのように寄与しているかを評価します。

監査におけるAIとビッグデータの役割

技術の進歩が監査の実施方法を大きく変えつつあります。AIとビッグデータは、これに関連し、いくつかの点で重要な役割を果たしています。

  • 証拠の収集と分析: AIは膨大な量のデータを処理し、行動への影響のパターンを特定し、組織内の文化的影響を評価することができる
  • リスクと脅威の特定: 先進的な分析は異常や潜在的なコンプライアンス問題を検出できるため、監査員は戦略的なリスク評価に集中できるようになります。
  • 意思決定の強化: AI主導の洞察は、審査員が組織のパフォーマンスをより深く理解できるようにし、より情報に基づいた推奨事項の提言を可能にします。


これらの進歩にもかかわらず、品質管理と品質保証は依然として不可欠ですが、その焦点は変化しつつあります。テクノロジーによって手作業での検証が減少し、審査員は価値創出や戦略的分析に注力できるようになっています。

リーダーシップと社会的影響力の相互作用

リーダーシップと社会的影響力は、審査員の基本的な能力として浮上しています。これらのスキルは利害関係者の効果的な関与を促進し、監査が組織の目標や文化的ダイナミクスに沿って進められることを確実にします。

主な側面には以下があります。

  • ステークホルダーの関与: 監査プロセスに関わるさまざまな関係者の期待を理解する
  • 社会システムの認識: 文化的および行動的要因がコンプライアンスやパフォーマンスにどのように影響するかを認識する
  • タレントマネジメント: 従業員の行動を組織の目標と整合させ、監査の有効性を高める


従来の監査は文書化されたプロセスの検証に重点を置いていますが、これらの新しい能力によって、監査員は従業員のエンゲージメント、リーダーシップの有効性、企業文化など無形の要素を評価できるようになります。

監査における価値リテラシーの概念

価値リテラシーと呼ばれる新たな能力が注目を集めています。この能力により、監査員は次のことができるようになります。

  • 監査の所見を、財務の健全性、評判、コンプライアンスなどの価値創造要因と結び付ける
  • 有形および無形の証拠を評価し、組織のパフォーマンスについて全体的な視点を提供する
  • 組織の長期的な価値創出に貢献する戦略的な提言を行う


従来の品質保証手法を超えることで、監査員は真に成功をもたらす要因を特定し、組織にさらなる価値を提供することができます。

AI主導の監査とリスク評価

AIはデータをパフォーマンス要因と照らし合わせて分析することで、組織がどのように目標を達成しているのかについて、より深い洞察を提供できます。このアプローチは従来のコンプライアンスチェックを超え、組織の効果性と効率性に関するより戦略的な視点を提供します。

アウトプットから成果へのシフト

監査の力量における根本的な変化のひとつは、(文書化された手順の遵守という) アウトプット志向から、(事業のパフォーマンス、リスクや脅威の軽減、文化的整合性といった) アウトカム志向への移行です。この移行には次のものが含まれます。

  • 単純なチェックリストを超えて、組織のレジリエンスと適応力を評価する
  • 予測分析を用いて、コンプライアンスやパフォーマンスの問題が発生する前に傾向を特定する
  • 定められて文書化されたプロセスや計画された取り決めの順守を確認するだけでなく、パフォーマンスの行動要因を評価する


このアプローチにより、監査員は単にコンプライアンスを確認するだけでなく、意思決定を強化する洞察を提供できるようになり、ビジネス上の価値が向上します。

監査員に将来の力量を身に付けさせることの利点

監査が進化する中で、新しい力量を身につけることは、組織と監査員の双方に大きな利点があります。

組織にとって

  • 効率性の向上: 監査プロセスの合理化により中断が減り、精度が向上します。
  • リスクの検出力強化: AIを活用した監査は見えないリスクを特定し、先回りしたマネジメントを可能にします。
  • 意思決定力の強化: 実用的な洞察が、十分な情報に基づいた財務計画や戦略的改善をサポートします。
  • 将来への備えとイノベーション: 新たに登場するテクノロジに適応することで、急速に進化するビジネス環境における競争力を維持します。


監査員にとって

  • 分析能力の向上: AIツールは、品質を損なうことなく監査員が重要な分野に集中できるよう支援します。
  • より強化された批判的思考力: 従来の監査では見逃されがちな傾向や異常値を特定できる能力。
  • コミュニケーションと協働の強化: 利害関係者の効果的な関与は、監査の推奨事項の理解と実行を確実にします。
  • 継続的な専門能力開発: デジタルリテラシーと継続的学習により、監査員は自分の分野で先頭に立つことができるようになります。

まとめ

監査の未来はダイナミックであり、従来の専門知識と新たなスキルの融合が求められます。品質管理と品質保証は依然として基本であり重要ですが、監査員はシステム思考、AI 統合、リーダーシップ、価値リテラシーを取り入れて、その影響力を高める必要があります。これらの新しい能力への移行は、単なるコンプライアンスを超え、予測的かつ洞察に満ちた方法で組織に付加価値をもたらすことを目的としています。

これらの能力に関する議論と討論を進めることで、監査の専門家は、技術的に進歩すると同時に、非常に人間中心である未来に備えることができるのです。

CQI レポート The Future of Work 未来の働き方
IRCAテクニカルレポート:ISO22000:2018