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ISO 9001品質マネジメントシステムの監査にAppreciative Inquiry を適用する

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ISO 9001品質マネジメントシステムの監査にAppreciative Inquiry を適用する

Appreciative Inquiry という手法をご存じですか。Appreciative Inquiryとは、リーダーシップ開発や組織改善で用いられる、強みを重視し、強化していこうというポジティブなアプローチです。IRCAのQMS/EMS/OHS のPrincipal Auditor であり、P Excel Advisory Pty Ltd の首席顧問である Jessen Yeoh氏 (CQP MCQI) が、監査においてAppreciative Inquiry のアプローチを適用する利点について説明します。

>quality.org に掲載の英文記事はこちら

監査の動機と最終的な意図は、適合性をチェックし、監査基準が満たされているかどうかを判断することです。監査は、不適合の特定と問題解決に集中する「不適合重視」のプロセスであってはならず、ましてや重箱の隅を突くようなあら捜しであってはなりません。

監査は未来を見据えたものであり、過去の失敗にのみ目を向けるべきではありません。不適合が発見された場合には、監査員と被監査者双方が、その不適合の再発防止に努めるべきです。実は、これが監査と検査の根本的な違いです。監査は、適合性と未来に焦点を当てています。これに対し、検査は問題や不適合、過去の失敗に焦点を当てています。

Appreciative Inquiry (価値を認めるための問いかけ) とは、自己決断(自ら決定すること)を利害関係者に促すモデルです。利害関係者を自己決定的な変化に関与させようというモデルです。このモデルは、Case Western Reserve Universityで開発されたもので、1987年にDavid Cooperrider とSuresh Srivasva が著した論文から始まりました。両者は、問題解決に重きを置きすぎると社会の改善は進まないと考え、新しいアイディアを生み出すための新しい問いかけ (つまり、Appreciative Inquiry) が必要だと考えました。

Appreciative Inquiry は、監査員が監査スタイルを適合性と未来志向に変えるのに役立ちます。これは、組織の学習と変化へのアプローチであり、弱点ではなく、強みに焦点を当てます。Appreciative Inquiry をISO 9001の品質マネジメントシステム監査に適用することで、被監査者の声を聞く機会が得られ、品質マネジメントシステムの継続的改善にどのように貢献することができるかを被監査者が選択することができる監査の環境が生まれます。Appreciative Inquiry には、ポジティブな感覚を育み、協力を促し、ベストを尽くすよう、被監査者を促す力があります。さらに、適合性と未来に焦点を当てるという監査の真の意図にも合致しています。

通常、従来の監査員の面談や質問のスタイルは、特定して解決すべき問題があることを、そもそもの前提としています。監査員は、不適合を特定することが必要であると感じており、被監査者が潜在的な原因を分析し、可能な解決策や対応を実施することを期待しています。一方、Appreciative Inquiry では、組織には内包している未知のポジティブな可能性があるということを基本的な前提としています。このモデルでは、被監査者との良好な関係を育み、被監査者と監査を受ける組織の潜在能力を高める手段として、未来を想定した問いかけを行おうとします。監査員は、「現状」のよさを認め、大切にしつつ、「あるべき姿」を思い描いて、被監査者と話し合います。

もっとも一般的なAppreciative Inquiry モデルでは、5-Dサイクルを利用します。これは、ISO 9001の品質マネジメント監査では、以下のように適応させ、適用することができます。

  • Define 定義する: 監査員は監査範囲及び目的を定義します (ISO 9001:2015 箇条 9.2.2)

  • Discover 発見する: 監査員は、うまく機能している組織のプロセスや、よりよくできる可能性のある組織のプロセスを特定し、「あるがまま」の最良の状態を受け入れ、評価します。監査証拠 (つまり情報及びデータ) として、組織において現在、うまくいっていること (今の状態) を入手します。

  • Dream 夢想する: 監査員は、適切な質問をすることにより、被監査者が「あるかもしれないこと」や、「将来的にプロセスがどのように機能するか」を思い描くこと、すなわち、全体像 (big picture) を把握するのを助けます。適切な質問であれば、被監査者が行っていることが組織の目的及び戦略的な方向性と一致するように促されるでしょう。 (ISO 9001:2015 箇条 4.1及び5.1.1b)

  • Design 設計する: 被監査者は、完璧な状態 (理想的な状態) で機能するプロセスを優先して設計することにより、「あるべき姿」を決定します。しかし、技術的、財政的、資源的な制約により、現時点では理想的な状態が実現できない場合もあります。(許されている場合) 監査員から、業界やセクターのグッドプラクティスをベンチマークするためのインプットを得ることができます。

  • Deliver 実現する: 「どうなるか」 (将来の状態) は、監査員が提起した問題に対処するために、プロセスフローチャートや文書化した手順 (ISO 9001:2015 箇条7.5.1) で定義します。被監査者は、新たに設計されたプロセスの基準を確立し、基準に従ってプロセスの管理を実施します (ISO 9001:2015 箇条8.1)。また、新しいプロセスに対して目標とKPIも設定することができます (ISO 9001:2015 箇条6.2)。


Appreciative Inquiryは監査プロセスを、問題ではなく、可能性から始めるため、監査員と被監査者双方に活力を与えることができます。Appreciative Inquiry の目的は、うまくいっていないことを解決しようとするのではなく、うまくいっていることを中心に品質マネジメントシステムを構築することです。このモデルでは、監査員や関連する利害関係者が関与して、組織の目的や戦略的方向性を実現するための動機付けを行うことができます。

つまり、監査員は、問題解決のアプローチではなく、品質マネジメントシステムの適合性、適切性及び有効性を継続的に改善することによって、被監査者が組織のビジョンに向かって進むことを支援すべきであるということです。(ISO 9001:2015 箇条10.3)。

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