審査における食品安全文化の評価
CQIが発行するクオリティプロフェッショナルのための専門誌『Quality World』の2022年秋号のコラムAuditors Uncutに、IRCA登録のLead Auditor であり、AKAソリューションズ株式会社の代表取締役社長である赤谷淳一さんに寄稿いただいた記事が掲載されました。赤谷さんが食品安全文化の重要性と食品事故削減につながる食品安全の評価方法について概説しています。
GFSIとベンチマーキング規格
Global Food Safety Initiative(GFSI)は2000年に設立された組織であり、世界的に最も認知されている食品安全規格をベンチマーキングしています。世界の食品小売業者、製造業、認定・認証機関等が食品安全規格をベンチマーキングすることで、食品安全のシステムを強化し、消費者の信頼を高めています。GFSIで承認された規格には以下の例があります。
- Food Safety System Certification (FSSC) 22000
- Brands Reputation Compliance Global Standards (BRCGS)
- Safe Quality Foods (SQF) など
日本でも、GFSI承認の食品安全規格の認証を取得する企業が年々増えています。 しかし、認証取得数は増えているものの、食品安全に関する事故や回収はゼロにはなっていません。例えば、近年も食品偽装事件が起きています。原料は国産であると謳っていながら、実は海外産が使用されている事例です。
赤谷淳一さん (IRCA FSMS Lead Auditor)
食品安全文化の重要性
近年、食品安全規格の認証を取得しても事故や回収が起こるという背景から、食の安全文化の重要性が叫ばれています。しかし、食品安全文化の定義はさまざまであり、GFSI承認規格における適合性評価の対象にはなっていません。審査の際に食品安全文化を評価することは、将来的には必須の要求事項になると考えられます。
食品安全文化の評価方法として確立されたものはありませんが、以下のような方法を使うことができるでしょう。
食品安全文化を評価するには
食品安全文化を確立するためには、組織のトップがまず食品安全を推進することにコミットする必要があります。言うまでもないことですが、そのためには、優先順位を安全、品質、生産性とする必要があります。
安全性や品質よりも生産性 (コストや効率) を優先しているケースを審査の場で見ることがあります。そのようなことを確認するためには、組織の投資計画を確認します。生産性を向上させる機器に投資をしているが、品質や衛生を向上させる機器に投資が計画されていないような場合、品質と生産性の優先順位が考慮されていない可能性があります。
企業文化を形成する重用な要素のひとつは、従業員です。従来、食品安全認証規格ではプロセス審査が主流でしたが、単にプロセスを観察するだけでは、食品安全文化を評価するには不十分な場合があります。
製造工程のリーダーだけでなく、実際に作業を行う作業者にもできるだけインタビューを通じた質問をすることが重要です。何を優先事項として行っているかを観察し、インタビューを行い、安全意識を確認します。審査員は、安全性よりも生産性が優先されているケースを観察やインタビューから確認できるかもしれません。
例えば、生産品の切り替え時に、食品への異物混入につながる恐れのある挙動が見られたり、十分な洗浄が行われていなかったりした場合、やはり安全性よりも生産性が優先されている可能性があると評価できます。
近年、食品安全文化という概念が提唱されていますが、これは時間を掛けて組織が培っていくものです。今後、食品安全規格に関わる審査員には、普遍的な審査手法で食品安全文化を評価することが求められると考えられます。効果的なアセスメントを行えば、食品事故はもっと減少することになるでしょう。