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ISOの審査を実施する際の注意点と対処方法を解説

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ISOの審査を実施する際の注意点と対処方法を解説

IRCAのPrincipal Auditor であるStanley O’Donnell氏は、航空宇宙、医療、石油、ガスなど、さまざまな業界でグローバルな審査を行ってきました。審査の際に多くの落とし穴に遭遇した経験から、審査員が避けるべき障害物のいくつかを紹介してくれました。

quality.orgの英語原文記事はこちら

目次

ISO審査プロセスにおける落とし穴とは?

ISO 9001 (品質)、AS9100 (航空宇宙、及び防衛産業の品質)、ISO 14001 (環境マネジメント) など、国際的に認められたマネジメントシステムを審査する場合、その目的は、審査の際に公平な事実と観察事項を提供することです。

低いパフォーマンスや規格への不適合など、審査で弱点を指摘された領域は、どこに改善の機会 (OFI) や観察事項 (OBS) があるかを示唆するものです。そして審査後、改善の機会及び観察事項へ対応することで、組織や組織の顧客に利益がもたらされます。

私の経験では、審査員の視点と被審査側の理解という点でのコミュニケーション不足が、両者にとって審査結果の成功を阻害する最大の原因です。

落とし穴1: 審査員は、被審査側の代表者の主務が品質システムやその他のマネジメントシステム全体ではないかもしれず、審査員と同じレベルの深い理解をしていない可能性があることを忘れてはいけません。そのため、被審査側が質問を理解しているかどうかを判断するために、被審査側の回答を注意深く聞く必要があります。

落とし穴2: 審査員が規格に関連することで意固地になってしまう。審査員はその規格について何度も審査をしており、そのため規格の内容の意図や実施に関する自分の解釈こそが、被審査側の品質マネジメントシステムを評価するための唯一正しいベンチマークであると信じてしまっていると、こういったことが起こります。そうなると、審査結果に偏りが生じます。

審査計画がお粗末だとパフォーマンスが低下します。したがって、審査を計画する際には、審査員は以下のことを行うことが必須です。

 審査を実施する前に、企業とその産業分野について学ぶこと

 審査に関連する技術的側面を理解し、力量を保持すること

 審査対象となる機能または業務に関連したチェクリストと審査スケジュールを作成すること

ISO審査のアプローチ

審査を成功させるために肝心なのは、審査員のアプローチと被審査側との対話です。被審査者が、審査員の専門的能力を信頼できないと感じれば、審査時点のマネジメントシステムの状態の正確な姿を把握することはできないでしょう。

また、審査を実施する際には審査対象となる主要な要員が審査エリアを離れることがないようにすることが重要です。スタッフがエリアを離れることで、審査の流れに遅れや混乱が生じ、その結果、審査すべき対象や機能を完全にカバーできなくなる可能性が生じます。

審査におけるもう1つの重要な側面は、指摘事項や文書、関連の要員、また審査所見がいつ発生したかをその場でメモに取ることです。メモには、だれが、なぜ、そして何のためにメモを記録することにしたかを簡潔に示さなければなりません。

客観性が欠如していること、事実でなく仮定を用いることは審査員にとって致命傷です。これは、審査を実施する審査員が自分の経験や実施した多数の審査から、自分はその規格についてすべてを知っており、自分の意見に異議を唱えることはできないと思い込んでいる場合に見られます。

もう1つの落とし穴は、審査員が規格に記載されている要求事項のいくつかが、実際よりも審査、規格、マネジメントシステム、及び企業にとって関連性が高い、または重要であると思い込んでしまう場合です。

審査員の意見は、経験や実施した審査の数にかかわらず主観的なものであり、審査の状況に対して何の関連性もなく、役に立ちません。

ISO審査所見の分類

審査所見における重大と軽微の分類は不明確な、または一貫性のない審査をもたらす可能性があります。教科書的な定義では、重大な指摘事項と軽微な指摘事項の構成要素は極めて明確ですが、場合によっては区別することが困難なこともあります。

改善の機会や観察事項の軽微な指摘事項に対する問いかけは以下の2つです。

● 適合すべき事項か?そうであれば、これは軽微不適合である

 システムの有効性と適合性を改善させる事項か?そうであれば、これは改善の機会または観察事項である

審査員は、審査する企業に指示や助言を与えることは奨励されていません。これは、審査員がアドバイザーとして関与することで、権益が生じると解釈され、審査プロセスが損なわれる可能性があるためです。また、企業が審査員の指示に従った結果、企業に損害が発生した場合には、審査員が責任を問われることになる可能性があります。

フォローアップと指摘事項のクローズ

ここは審査の中でももっとも重要な部分です。もし審査所見に対する是正処置が成功しなければ、その審査と審査所見は無駄な作業だったということになります。そのような事態を避けるために、審査員は以下の段階でタイムリーかつ真摯に行動しなければなりません。

1. 審査側から送られてきた根本原因と是正処置の提案を確認する

2. 是正処置完了までのスケジュール、及び成功した結果を測定するための基準

3. 被審査側との実際のフォローアップと結果の評価

落とし穴の正体と対処法

上に挙げた落とし穴について、失敗の根本原因には慣れと長年にわたる審査員としての経験という2つのテーマがあります。悪い習慣を克服するためには、これらの問題やテーマについて学ぶことが重要です。

何よりも、審査員の主な業務は審査対象の企業に誠実で、偏りのない、客観的なサービスを提供することです。以下に簡単なヒントをいくつかご紹介します。

  1. 審査員として、3か月に一度は規格をゆっくりと読み、詳細を常に頭に入れておき、個人的な意見や解釈をしないようにしましょう。

  2. 毎回の審査が関係者にとって付加価値のある経験となるよう、最善を尽くすこと。率直で、親しみやすく、前向きであれば、被審査者からも同様の反応が得られるでしょう。

  3. 審査員としての主な目的を忘れないように。

ー 審査の時点で会社のマネジメントシステムに何が存在しているかを、肯定的にも否定的にも検討すること。

ー 審査プロセスの最後に客観的な報告書を作成し、企業が不適合を是正し、マネジメントシステムを改善するために利用できるようにすること。

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