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規格を超えて

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規格を超えて

クオリティの文化をつくるために企業には何が必要なのか、ISO 規格で要求されていることを超えてクオリティプロフェッショナルはどのようにこの改善を推進していくことができるかを検討します。

執筆者: ボブ・グッドウィン (Bob Goodwin, MSc (TQM), CQP, MCQI)

quality.org掲載の英文記事はこちらから

ISO規格はそれぞれ事業運営のほんの一部分をカバーしているに過ぎません。統合マネジメントシステム (IMS = Integrated Management System) の概念を発展させる方法として、規格にビジネスのすべての側面を包含するという手もあります。

しかし、単に要求事項をどんどん積み上げていったのでは、企業は規格を採用しなくなるだけで、クオリティに影響を与えることなど望めないでしょう。例えば、企業は何百ページもある規格を実装しようとするでしょうか。たとえ採用すべき箇条が増えなくとも、企業の賛同を得ることは、十分難しいのです。例えば、CQIの統合マネジメントシステムSIG (=Special Interest Group: CQIが支援して立ち上げられた業界や、品質活動などのさまざまな分野の専門グループ) が開発したMSS 1000:2014 マネジメント規格は300ページほどの長さがあります。意図と内容は称賛に値することを私は確信しますが、この文書のページ数を見ただけで、多くの企業は尻込みするに違いありません。

クオリティとは、考え方、活動の仕方の問題、つまり文化です。組織のクオリティチームの活動が直接的あるいは間接的に規格の展開、マネジメントや妥当性確認に偏っているのであれば、チームが提供しようとするものとビジネスのニーズには乖離が生じます。

私たちクオリティの専門家が使ってきたツールセットと、これから私たちが向かっていこうとする文化の間にはギャップがあるのです。

課題解決のために

クオリティに携わる人はこの課題を解決するために何をしたらよいのでしょうか。本物のクオリティ文化を打ち立てるために企業は何を必要としているのでしょうか。そして、クオリティプロフェッショナルは文化の確立を促進するために何ができるでしょうか。

まず、クオリティとは何かということを説明する方法論が必要です。クオリティとは何かということを共有し、議論することで、クオリティプロフェッショナルが規格、審査/監査、認証と改善といった「従来から行われている」方法を通じて何を達成しようとしているのかについて、企業の理解が促されます。

多くのクオリティプロフェッショナルがこれまでも使用してきたクオリティの規格、ツール及び方法を見てみると、その中から役立つもののリストをつくることができます。例えば:

  • バランス・スコア・カード (BSC) は、KPI (key performance indicators重要業績指数) を監視する際の枠組みを提供します
  • ISO 9001は、品質マネジメントシステムのモデルを提供します
  • ISO 26000は、CSR (corporate social responsibility 企業の社会的責任) に関する手引きを提供します
  • MSS 1000 は、より広い要素を網羅しようとしています
  • リーンは、無駄を省き、プロセスを効率化する役に立ちます
  • シックスシグマの方法論は、プロセスの改善とバラツキの削減に焦点を絞った測定ベースの戦略実施に関するものです
  • TQM (Total Quality Management 総合的品質管理) は、企業内のすべての要員にクオリティに関する責任を付すものです

しかし、どうしたらこれらの異なるアプローチを効率的に組み合わせることができるでしょうか。パフォーマンスを最適化するためにマネジメントシステムの要素を連携させるのに役立つツールが1つあればすばらしくはないでしょうか。

EFQM ビジネス・エクセレンス・モデル

欧州品質マネジメント機構 (EFQM = European Foundation for Quality Management) ビジネス・エクセレンス・モデルを見てみましょう。このモデルの前提は簡単です。「よい結果 (人々、顧客、社会及び事業) を達成する企業にはよいリーダーシップ、方針及び戦略があり、有能な人々が健全なプロセスを運用している」。これをcause (要因) – effect (特性/結果) モデルとして考えます。

参照元: EFQM.org

EFQMモデルは、対応が必要な下記の要素を示す有用なツールです:

  • KPI (結果) の監視
  • 品質マネジメントシステム (戦略とプロセス)
  • 企業の社会的責任 (社会)
  • ムダ取りと改善 (結果及び後ろ向きの矢印で表されるフィードバック)
  • 人々 (人々の結果)

組織が持続的成功を達成するためには、強いリーダーシップと明確な戦略的方向性が必要です。また、顧客に付加価値のある製品及びサービスを提供するために要員、パートナーシップ (協力会社等) 及びプロセスを開発し、改善する必要があります。EFQM ビジネス・エクセレンス・モデルでは、これらを要因 (enablers = 目標達成を可能にするもの) と呼んでいます。適切な要因が効果的に作用すれば、組織は自分たちが、また組織のステークホルダーが望む結果を達成できるでしょう。

これらの結果は、「学び、創造性及びイノベーション」のフィードバックを通じて、要因を評価し、改善するのに利用できます。

クオリティのためのマニフェスト

2番目に、クオリティプロフェッショナルは自分たちの新しい役割を詳しく説明し、クオリティが「提供するもの」を定義し、クオリティの今までの役割から新しい役割へ至る道を決定し、それを売り込む必要があります。これは簡単なことではありません。

少し前、私が働いていた会社において「agile (変化に機敏に対応する)」になれという課題が与えられたとき、私たちクオリティチームは「これまでどおりの」クオリティの仕事ではビジネスのニーズに応えられないということを実感し、その結果、私たちは変わりました。その会社のビジネスの重要な部分がソフトウェアだったため、会社は (ソフトウェアのアジャイル開発をする企業の参加する) アジャイル・アライアンスのマニフェスト (Agile Alliance Manifesto) を採択しました。エンジニアリングチームはこのマニフェストに導かれ、チームのオペレーションには価値と原則が与えられました。クオリティの観点からも、このアプローチを使い、共通の言語を使うということは理に適っていたので、私たちは自分たち独自のクオリティのためのマニフェストをつくり、ビジネスに対する自分たちの考えを説明しました。下記のマニフェストは、ビジネスに対してもっていたもともとの考え方とクオリティマニフェストを私が発展させたものです。

クオリティのためのマニフェスト

私たちは、世界のクオリティを確実にするためのよりよい方策を明らかにしていきます。世界では、これまで以上に包括的な規格が採用され、独立した監査を実施する従来のクオリティのモデルがビジネスのニーズからますます乖離したものになってきています。

クオリティの仕事を通じて、私たちは価値を生み出します:

「規格に定められたクオリティ」ではなく、「文化により推し進められるクオリティ」を
「独立した機能としてのクオリティ」ではなく、「すべての人が責任をもつクオリティ」を
「独立」ではなく、「協調」を
「不良を検査で探し出す」のではなく、「設計され、組み込まれたクオリティ」を
「監査と是正処置」ではなく、「プロセス設計と妥当性確認」を
「事故を発見して上奏する」のではなく、「監視し、報告する」に
「インシデントのマネジメント」ではなく、「リスクのマネジメント」を

左の事項にも価値はありますが、私たちは右の事項により多くの価値を認めます。
クオリティプロフェッショナルの役割

クオリティプロフェッショナルの役割はどうなるのでしょうか。

私たち、クオリティプロフェッショナルは、信頼できるアドバイザーとなり、クオリティの文化を擁護し、議論をリードし、文化の変化を促すことを目指します。

マニフェストに基づき、以下のことを戦略的に実施する必要があります:

重点を置くべきこと それほどでもないこと
リーダーを理解する チェックし、監査する
チームの一員となる レビューする
耳を傾け、導く あまり頻繁に訪問しない
リスクと緩和について語るよいこと、悪いことについての議論を促す顧客の声の活用を推進する 事象が起こったのちにレビューをする

私たちは、まず自分たちの文化を変えなければなりません。そののちに、他の人たちが文化を変える手助けをします。

おそらく、EFQM のようなモデルを通じて、より包括的な視点をもつことにより、企業は、クオリティは実は文化の問題であり、事業の成功のカギであるということを理解することができるようになるでしょう。規格には規格の役割がありますが、規格は事業運営の中のほんの一部を占めるに過ぎません。規格だけでは、クオリティを推進することはできないのです。

執筆者について: ボブ・グッドウィン (Bob Goodwin, MSc(TQM), CQP, MCQI) はテールズ・E-セキュリティ社 (Thales E-Security Limited) においてHead of Quality を務めました。現在は退職しています。

CQI レポート The Future of Work 未来の働き方
IRCAテクニカルレポート:ISO22000:2018