ISO 9001 気になる用語
ISO 9001:2015 を始め、ISOのマネジメントシステム規格の原文で使われているのは特別難しい言葉ではありません。しかし、時として、特定の使い方がされています。その上、もともとが英語及びフランス語で書かれているので、日本人が翻訳文のみを読んで、正しく意味をつかむ、あるいは裏の意味を類推するのが難しい言葉もあります。ここでは、ISO 9001:2015 で使われている用語について、いくつかご紹介します
製品及びサービス Products and services
組織は、製品を設計し、製造し、供給または引渡しし、据付けし、保守することができます。
組織は、サービスを設計し提供することができます。
「製品及びサービス」という文言は、顧客が受け取る有形及び無形のものを指しており、この両方の状況が含まれます。
製造とサービスの提供とは、これに伴うプロセスです。
確実にする Ensure
確実に (何かが起こるように/起こらないように) するという意味です 。
注: 「確実にする」という場合、だれかに責任 (responsibility) を委譲することはできますが、説明責任 (accountability) はトップマネジメントにあります。トップマネジメントは、「何か」を設定し、実施されるようにします。その「何か」には、システム、プロセス、手法、ツール、要員、組織の役割、組織の機能があるでしょう。
例: 4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス
4.4.1 組織は、品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織全体にわたる適用を決定しなければならない。また、次の事項を実施しなければならない。
d) これらのプロセスに必要な資源を明確にし、及びそれが利用できることを確実にする。
4.4 Quality management system and its processes
4.4.1 The organization shall determine the processes needed for the quality management system and their application throughout the organization, and shall:
d) determine the resources needed for these processes and ensure their availability;
なお、5.1.1でトップマネジメントに課せられたa) から j) までの10項目のうち、ensure が使われているのは4項目です。これ以外は責任を委譲することができず、トップマネジメント自らが行わなければならないということになります。
保証を与える (「保証する」ではない) Give assurance (NEVER ‘assure’)
確信 (confidence) を与えるという意味です。
「確信を与える」はISO 9001:2015 及びISO 14001:2015の両規格においてたった一度だけ使用されています。つまり:
例: 6.1リスク及び機会への取組み
6.1.1 品質マネジメントシステムの計画を策定するとき、組織は、4.1に規定する課題及び4.2 に規定する要求事項を考慮し、次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない。
a) 品質マネジメントシステムが、その意図した結果を達成できるという確信を与える。
6.1 Actions to address risks and opportunities
6.1.1 When planning for the quality management system, the organization shall consider the issues referred to in 4.1 and the requirements referred to in 4.2 and determine the risks and opportunities that need to be addressed to:
a) give assurance that the quality management system can achieve its intended result(s);
すべての Any
1つ、またはそれ以上という意味 (ただし、何もない場合もあり得る) 。
例: 8.2.3 製品及びサービスに関する要求事項のレビュー
8.2.3.2 組織は、該当する場合には、必ず、次の事項に関する文書化した情報を保持しなければならない。
b) 製品及びサービスに関する新たな要求事項
8.2.3 Review of requirements related to products and services
8.2.3.2 The organization shall retain documented information, as applicable:
b) on any new requirements for the products and services.
内に Within
外部ではなく、内部という意味。
例: 5.2.2 品質方針の伝達
品質方針は:
b) 組織内に伝達され、理解され、適用される。
5.2.2 Communicating the quality policy
The quality policy shall:
b) be communicated, understood and applied within the organization;
全体にわたって Throughout
行きわたるという意味 (と同時に内部で (within) ということも暗示している)
例: 5.3 組織の役割、責任及び権限
トップマネジメントは、次の事項に対して、責任及び権限を割り当てなければならない。
d) 組織全体にわたって、顧客重視を促進することを確実にする。
5.3 Organizational roles, responsibilities and authorities
Top management shall assign the responsibility and authority for:
d) ensuring the promotion of customer focus throughout the organization;
保持する Retain
持ち続けるという意味 (もっぱら、文書化した情報-記録― について使用されている)
例: 7.1.5 監視及び測定のための資源
7.1.5.1 一般
組織は、監視及び測定のための資源が目的と合致している証拠として、適切な文書化した情報を保持しなければならない。
7.1.5 Monitoring and measuring resources
7.1.5.1 General
The organization shall retain appropriate documented information as evidence of fitness for purpose of the monitoring and measurement resources.
維持する Maintain
更新した、あるいは適切に使用できる状態に保つという意味
例:
6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定
6.2.1 組織は、品質目標に関する文書化した情報を維持しなければならない。
6.2 Quality objectives and planning to achieve them
6.2.1 The organization shall maintain documented information on the quality objectives.
また
7.1.3 インフラストラクチャ
組織は、プロセスの運用に必要なインフラストラクチャ、並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要なインフラストラクチャを明確にし、提供し、維持しなければならない。
7.1.3 Infrastructure
The organization shall determine, provide and maintain the infrastructure necessary for the operation of its processes and to achieve conformity of products and services.
処置 Action
何かを実施すること
例: 8.7 不適合なアウトプットの管理
8.7.1 組織は、不適合の性質、並びにそれが製品及びサービスの適合に与える影響に基づいて、適切な処置をとらなければならない。
8.7 Control of nonconforming outputs
8.7.1 The organization shall take appropriate action based on the nature of the nonconformity and its effect on the conformity of products and services.
修正 Correction
何かを正し、直すという意味
例: 8.7 不適合なアウトプットの管理
8.7.1 組織は、次の一つ以上の方法で、不適合なアウトプットを処理しなければならない。
a) 修正
8.7 Control of nonconforming outputs
8.7.1 The organization shall deal with nonconforming outputs in one or more of the following ways:
a) correction;
是正処置 Corrective Action
「不適合の原因を除去し、再発を防止するための処置」(ISO 9000:2015 3.12.2)
(しなければ) ならない Shall
要求事項を示しています
望ましい Should
推奨を示しています
してよい May
許可を示しています
例: 4.3 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定
「適用不可能なことを決定した要求事項が、組織の製品及びサービスへの適合並びに顧客満足の向上を確実にする組織の能力又は責任に影響を及ぼさない場合に限り、この国際規格への適合を表明してよい。
4.3 Determining the scope of the quality management system
"Conformity to this International Standard may only be claimed if the requirements determined as not being applicable do not affect the organization’s ability or responsibility to ensure the conformity of its products and services and the enhancement of customer satisfaction.“
(され/し) 得る Can
可能性や能力を示す
例: 8.5.3 顧客又は外部提供者の所有物
注記: 顧客又は外部提供者の所有物には、材料、部品、道具、設備、施設、知的財産、個人情報などが含まれ得る。
8.5.3 Property belonging to customers or external providers
NOTE A customer’s or external provider’s property can include material, components, tools and equipment, premises, intellectual property and personal data.
とき When
(そのときはという) 一時的であることを示す
例: 4.3 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定
組織は、品質マネジメントシステムの適用範囲を定めるために、その境界及び適用可能性を決定しなければならない。
この適用範囲を決定するとき、組織は、次の事項を考慮しなければならない。
4.3 Determining the scope of the quality management system
The organization shall determine the boundaries and applicability of the quality management system to establish its scope.
When determining this scope, the organization shall consider:
場合には Where
特定の空間を示す―ある場所で、またはある状況において
例: 8.5.1 製造及びサービスの管理
管理された状態には、次の事項のうち、該当するものについては、必ず、含めなければならない。
f) 製造及びサービス提供のプロセスで結果として生じるアウトプットを、それ以降の監視又は測定で検証することが不可能な場合には、製造及びサービス提供に関するプロセスの、計画した結果を達成する能力について、妥当性確認を行い、定期的に妥当性を再確認する。
8.5.1 Control of production and service provision
Controlled conditions shall include, as applicable:
f) the validation, and periodic revalidation, of the ability to achieve planned results of the processes for production and service provision, where the resulting output cannot be verified by subsequent monitoring or measurement;
同じく、実務者向けワークショップの資料から、FAQ もこちらでご紹介しています。
また、プロセスアプローチ、組織の状況、利害関係者、適用範囲、認証範囲、リスクに基づく考え方、リスク及び機会、トップマネジメントの役割、及びその監査/審査、支援、組織のマネジメントシステムに対する影響、監査/審査に対する影響、その他について、「ISO 9001:2015 アップデート審査員トレーニング」参加者からのご質問とその答えをこちらでご紹介していますのでぜひご覧ください。