危機管理に関する規格類と英国規格協会の取り組み
BSI (英国規格協会) が英国内の組織に対して、危機管理関連の規格の無料公開を始めました
現在、世界中を席巻するCOVID-19 (新型コロナウイルス感染症) のパンデミックは組織に壊滅的な影響を与えつつあります。地域の工場から、グローバルなコングロマリットまで、この影響から逃れられる組織はほとんどありません。生産の多くはゼロまで削減され、ロックダウンが売り上げに悲惨な結果をもたらしています。長年献身的に勤めてきた従業員が、自らには何の落ち度もないのに経済的な打撃に苦しんでいます。
このような激動のときにあって、組織が外的な要因から自分たちを守るためにできることは限られています。競合する他社と比べて、存続する可能性がもっとも高い組織は、実効性のある危機管理体制を整えている組織です。実効性のある危機管理体制があったとしても、被害を受けること自体を防ぐことはできませんが、被害を最小限に抑えることはできます。
前例のない事態においては、前例のない行動が必要となります。英国では、国家規格機関であるBSI (英国規格協会) が稀有な決定をし、事業破綻の回避を支援する目的で、英国内の企業に危機に関連する一連の規格の包括的なポートフォリオ (Crisis Management Portfolio) が無料で提供されました。
4月6日に始まったこのスキームでは、組織はBSI に組織の詳細を登録さえすれば、規格が提供されます。また、BSI は内閣府民事緊急事務局 (Cabinet Office Civil Contingencies Secretariat) の一部である緊急計画カレッジ (EPC = Emergency Planning College) と提携して、事業継続と危機管理に関する一連のベストプラクティスを示すウェビナーを提供しています。
Crisis Management Portfolio
では、どのような規格が提供されており、それらは何に関するものなのでしょうか。これらのうちのいくつかはすでによく知られていますが、中には驚くようなものも含まれています。
事業継続とレジリエンス (立ち直る力)
1. |
|
|
2. |
BS EN ISO 22301:2019 Business continuity management systems — Requirements |
|
3. |
BS EN ISO 22313:2020 Business continuity management systems. Guidance on the use of ISO 22301 |
|
4. |
ISO/TS 22318:2015 Guidelines for supply chain continuity |
|
5. |
ISO 22316:2017 Organizational resilience. Principles and attributes. |
リスクマネジメント
6. |
|
|
7. | BS 31100:2011 Risk management - Code of practice and guidance for the implementation of BS ISO 31000 BS 31100:2011 リスクマネジメント BS ISO 31000運用のための行動規範及びガイダンス (BS 規格 英語版のみ) この英国国家規格は、BS ISO 31000 リスクマネジメント – 指針で規定されている効果的なリスクマネジメントの主な原則をどのように運用するかについて実際的で特有の手引きを提供しています。 |
コミュニティのレジリエンス
8. |
|
|
9. | ISO 22330:2018 Guidelines for people aspects of business continuity ISO 22330:2018 事業継続における人々に関する側面のための指針 (JISQ なし、英語版のみJSA から入手可能) この国際規格は、重大な出来事 (incident) により影響を受けた人々に対する準備とマネジメントのために方針、戦略及び手順を計画し、策定するための指針を提供しています。これには、重大な出来事の直接的な影響への対処、混乱期における人々のマネジメント、通常のビジネスに戻った後にも従業員へ引き続き行うサポートが含まれています。 |
|
10. | ISO 22395:2018 Community resilience. Guidelines for supporting vulnerable persons in an emergency ISO 22395:2018 コミュニティのレジリエンス 緊急事態時における弱者支援の指針 (JISQ なし、英語版のみJSA から入手可能) この国際規格では、自然災害や、(意図的な場合も、意図的ではない場合も) 人により引き起こされた緊急事態に際して、もっとも弱い人たちを特定し、接触し、コミュニケーションをとり、支援するための指針を提供しています。また、緊急時における弱者への支援提供を継続的に改善するための指針も含まれています。 > 本規格は現在、ISO のウェブサイトで無料で閲覧可 |
緊急事態マネジメント
11. |
|
組織がこれらの規格類を普段の状態のときにBSI の規格ショップから買おうと思ったら、非登録メンバー向けの合計金額は 2,000ポンド (約 27万円) 以上になるでしょう。
他の国家規格機関も同様の取り組みをするでしょうか?
BSI の規格部門の部長であるスコット・スティードマン Scott Steedman は、「COVID-19 (新型コロナウイルス感染症) によって、準備しておくことと、事業継続と危機管理の重要性の意識が高まっています。BSIが今回提供する 規格にはこれらに関する専門的な手引きが含まれており、私たちはそれを適用しなければならない人たちの手に渡しているのです。これにより、産業界は今、このときに助けとなる手引きと専門知識に簡単にアクセスできるようになります。私たちがこれらの規格を無料で配布することにより、英国中の中小企業や組織が今直面している経済危機を乗り越えるよう願っています。」と語っています。
アップデート情報
BSI がこれらの規格を公開することを決定してからほんの数日ですが、この先行する取り組みは組織や専門機関によって温かく歓迎されています。
ISO、IECのほか、AFNOR (フランス)、NBN (ベルギー)、ABNT (ブラジル) とUNI (イタリア) など、いくつかの国家規格機関がBSI の例に倣い、限定的な公開を行っています。公開されたものの中には、上記の一般的な規格だけでなく、医療機器、特に換気装置、その他の呼吸装置、個人用保護具に関する非常に具体的で高度な技術規格も含まれています。
これに関連する情報はISO のウェブサイトに掲載されています。
> RESOURCES AND RESPONSE TO COVID-19
また、上記記事中に記載していますが、ISO 自身が新型コロナウイルスへの対応に関連する規格類を無料で公開しています。以下をご参照ください。
> COVID-19 Response: Freely available Standards