TOP > 専門情報 > 技術|規格 > 品質マネジメント規格の未来の方向性

品質マネジメント規格の未来の方向性

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
品質マネジメント規格の未来の方向性

Introduction はじめに

2020年5月4日、ISO 品質マネジメント及び品質保証委員会 (TC/176) は当委員会が担当する規格に今後含まれることが予想される内容を示唆する重要な文書を配布しました。

この文書がなぜ重要なのかというと、TC 176の3つの小委員会は ISO 9000と10000シリーズの規格を担当しており、このシリーズ規格には、世界でもっとも利用されている規格である「 ISO 9001 - 品質マネジメントシステム - 要求事項」や、「ISO 9004 - 品質マネジメント – 組織の品質 - 持続的成功達成のための指針」が含まれているからです。

このプロジェクトは、さかのぼること、2017年9月、TC/176が品質、品質マネジメント及び/または品質マネジメントシステムに影響を与える可能性のある世界環境の傾向を特定することをテーマにしたワークショップを開催したときに始まりました。

このワークショップからのアウトプットは、新しく設立された TC/176 のタスクフォース (TF4) に引き渡されました。TF4 は、ワークショップで特定された検討事項が規格策定時に見逃されることがないよう、ISO/TC 176の規格策定者に向けたガイダンスを開発するために設立されたグループです。

TC/176 の規格策定者は、担当する品質マネジメント規格の次の版にこれらの「将来のコンセプト」に関連する要求事項を必ず入れなければならないというわけではありませんが、これらのコンセプトを定義し、明確にするためにつぎ込まれた投資を考えると、これらのコンセプトを含めないことは考えられません。

Future concepts  将来のコンセプト

TF 4が特定した8つの将来のコンセプトの草案における優先順位は以下です。

  1. customer experience
2. people aspects
3. change management
4. integration
5. knowledge management
6. emerging technologies
7. ethics and integrity
8. organizational culture
1. 顧客体験 (カスタマーエクスペリエンス)
2. 人々に関する側面
3. 変更マネジメント
4. 統合
5. 知識のマネジメント (ナレッジマネジメント)
6. 新しいテクノロジー
7. 倫理と誠実さ
8. 組織の文化

1. Customer experience 顧客体験 (カスタマーエクスペリエンス)
顧客体験 (カスタマーエクスペリエンス) とは、製品/サービスに関連する一連の活動における顧客のあらゆる認識、印象及び反応のすべてを合わせたものです。顧客体験には、最初に製品またはサービスを見つけたり探したり調査したりすることから、製品またはサービスをショッピングし、購入して、使用すること、そしてそのブランドとのその後の関係までのすべてが含まれます。

2. People aspects 人々に関する側面
人々に関する側面とには、業務を実施する人々の能力、人々が関心をもつもの (例えば、動機と好み)、人々の違いと関係 (個人の違いと社会的行動)、そして組織がいかに人々から最良のものを引き出しパフォーマンスを向上させることができるか、これらすべてが含まれます。

3. Change management 変更のマネジメント
変更のマネジメントは、組織のアイデンティティの要素 (ビジョン、使命、文化及び価値基準)、方針、戦略や目的及び/またはプロセスの移行や変革を開始し、展開し、実装し、伝達するための体系的な (すなわち、確定した計画にしたがって、効率的に実施する) アプローチとして認識されています。

4. Integration 統合
統合マネジメントシステム (IMS) は複数のシステムとプロセスを1つの完全な枠組みに統合し、組織が統一された目的のもと、単一のユニットとして機能することを可能にします。マネジメントシステムを統合することにより、組織はシステム、戦略的方向性、目的と、組織の状況をより適切にそろえることができるようになります。

5. Knowledge management 知識のマネジメント (ナレッジマネジメント)
知識のマネジメントは、組織が知識 (ナレッジ) をつくり、利用する方法に焦点を当てた分野です。このコンセプトそのものは新しいものではありませんが、現在では、例えば、ビッグデータ、機械学習、ブロックチェーン、倫理規定、著作権及び知的財産などの利用に関連して検討しなければならない重要な側面があります。

6. Emerging technologies 新しいテクノロジー
組織のQMS に将来的に影響を与える可能性がある新しいテクノロジーが数多くあります。デジタル化の範囲は、すべての組織内、あるいは組織間で着実に拡大しています。インテリジェントネットワーキングの利用は企業にとって多くの可能性をもたらし、人工知能 (AI) は急速に変化するデータに基づいた意思決定をします。

7. Ethics and integrity 倫理と誠実さ
倫理と誠実さは組織が持続的な成功を達成する能力にとって非常に重要です。持続的成功を達成するには、すべての決定、活動及び利害関係者との相互作用が、道徳的かつ専門的な行動の原則と整合していなければならないからです。この行動原則は、適用されるすべての法律と規制をサポートするものであり、組織の文化、価値基準及び姿勢の基盤となるものです。

8. Organizational culture 組織の文化
組織の文化とは、その組織に固有な集合的な信念、価値基準、態度、マナー、習慣及び行動のことです。経営層は、自らが発展させ、促進する文化を通じて、組織のアイデンティティを確立します。

Structure of the draft 草案の構造

TF4の草案の本文は、以下の構造に基づいて、将来の8つのコンセプトの各々を詳細に探求しています。

  • コンセプトの詳細な説明
  • そのコンセプトが、クオリティの観点からなぜ重要なのかの説明
  • 影響を受ける関連の利害関係者の特定
  • 各コンセプトがTC/176の各小委員会に適用可能か、また、その与える影響に関するサマリーの提示
  • 各小委員会にとって、将来のコンセプトに対応することの利点の特定
  • 将来のコンセプトを明確にするために使用できる参照先の特定
  • 将来のコンセプトに関連するさらに詳しい情報へのリンクの提示


上記はどういうことかを示すため、草案の顧客体験 (customer experience) のセクションの内容を詳述する実際の例を示します。

Customer experience 顧客体験

大枠として、顧客体験 とは、製品/サービスに関連する一連の活動における顧客のあらゆる認識、印象及び反応のすべてを合わせたものであるとしています。顧客体験には、最初に製品またはサービスを発見して調べることから、製品またはサービスをショッピングし、購入して、使用すること、そしてそのブランドとのその後の関係までのすべてが含まれます。

これを次の一連の段落でさらに展開され、顧客体験のコンセプトが包含するものを詳しく説明しています。

草案では、これに続き、なぜ顧客体験が重要なのかを提示します。曰く:

  • 顧客体験は顧客満足を改善するための重要なカギであり、
  • 組織の製品及びサービスを他社の製品及びサービスと差別化するものであり、
  • 顧客のロイヤルティ (組織に対する顧客の信頼や愛着) を生み出し、
  • 信頼と個人的なつながりを築き、
  • 顧客の支持や紹介が増える


次に、該当する関連の利害関係者を特定します。顧客体験に関する主要な利害関係者は当然、顧客です。しかし、顧客体験はロイヤルティに影響を与えるので、ビジネスパートナー、サプライヤーや株主にも影響を及ぼす可能性があると認識されています。

おそらく次のセクションが、もっとも重要です。TC/176 の規格開発者が各規格に顧客体験をどのように組み込むかを概説しており、規格の将来の版がどうなるかを推定することができるからです。

TF4 は以下を示唆しています。

  • ISO 9000 箇条 3.1 – 顧客重視: この箇条は顧客体験を含むように範囲を広げる必要があるでしょう。
  • ISO 9000 箇条 3 – 用語と定義: すでにある顧客満足と顧客サービスの定義をレビューするとともに、顧客体験の新しい定義を含めることができるでしょう。
  • ISO 9001: 適合性にフォーカスした現在のやり方は限定的で、高い顧客満足や顧客の喜び、または組織の持続的な成功につなげるには不十分です。なぜなら、顧客体験全体を考慮しておらず、また顧客体験を強化することは目指していないからです。
  • ISO 9004: ISO 9004はすでに「顧客体験」のコンセプトを取り込んでいますが、組織と顧客/その他の関連する利害関係者間の相互作用のマネジメントに焦点を当てる、より具体的な推奨事項を含める余地があります。
  • ISO 10001, 10002, 10003, 10004, 1008: 次回改訂の際に、顧客体験を追加することを検討します。


次に、これらの変更を行うことにより得られると思われるメリットについて、小委員会ごとに詳述しています。各セクションの最後には、使用されている参照先を特定し、詳細情報へのハイパーリンクが表示されています。

この構造はその他7つの将来のコンセプトそれぞれで繰り返されます。

Conclusion まとめ

草案文書の附属書 Aにも、予想される変更の手がかりがいくつかあります。ここでは、TC/176 の9000及び10000シリーズ規格すべてと、将来の8つのコンセプトが相互参照されています。これにより、TF4が将来のコンセプトが、どのISO の品質マネジメント規格に関連すると見ているかを迅速に参照することができます。

TF4は、ISO 9001は、8つ、すべてのコンセプトにマッチするとし、それぞれに関連する要求事項が組み込まれる可能性があると示唆しています。一方、ISO 9004は将来のコンセプトの 1、2、3、6、7及び8にリンクづけられており、ISO 9004では統合や知識のマネジメントに対応する必要はないとTF4は見ています。

ISO 9001の次の版の作成は間もなく開始される予定であり、最終的に発行される段階で、この規格に将来のコンセプトが実際にいくつ組み込まれるのかを見ていくのは興味深いです。他方、ISO では大きな変更のあとはマイナーな変更となるとする一般的なルールに従うなら、次の版はマイナーな変更のみとなるはずですが、将来のコンセプトの作業が行われた今、ISO は次の10年間、この最良の部分を「いったん保留にしておきたい」と実際のところ思うでしょうか。結果を見守るしかありません。

※IRCAの各詳細は下記よりご確認頂けます。

ホワイトペーパー無料ダウンロード