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ホーソン効果 - 内部監査から正確な結果を得るために必要なこと

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ホーソン効果 - 内部監査から正確な結果を得るために必要なこと

quality.org の英文記事はこちら

監査を行うこと自体が監査の結果に影響を与えてしまうのであれば、どうすれば確実に正確な結果を得られるでしょうか?ホーソン効果とも呼ばれるパラドックスについて説明します。

ホーソン効果とは?

監視されていると感じたことはありますか?そう感じることは自然な人間の本能であり、人はそれによって自分の行動を変える場合があります。一部の研究者たちは、この現象をホーソン効果と呼びます。

ホーソン効果は内部監査にも影響を及ぼします。監視されている人たちが、そのために行動を変えるなら、通常の業務状況を反映した正確な監査結果を得ることはできません。

ホーソン効果が発見されるきっかけとなったのは、1924年から1927年にかけて、米国イリノイ州のホーソン工場で働く労働者を対象に、職場の照明の明るさを変えると労働者の生産性に影響があるかどうかを調べる目的で実施された調査でした。照度を変えると生産性が向上することが観察されました。しかし、調査が終わると生産性は下がりました。つまり、一時的に生産性が向上したのは、自分たちに特別な注意が向けられていることを意識した労働者のモチベーションが高まったことが原因であることが示唆されました。

清掃や作業スペースの移動など、他の方法で職場環境を変えた場合も、同様の効果が認められました。

ホーソン効果をめぐる議論

しかし、ホーソン効果には反対意見も多く、論争が繰り返されてきました。一部の学者は、ホーソン効果には裏付けが乏しく、多くの研究において同効果は現出していないと指摘しています。また、同効果は、1973年に マーティン・オーン (Martin Orne) が発見した実験者効果の一種に過ぎないと言う人もいます。

オーンは、心理学研究の参加者が研究の目的を知ることができれば、それに沿うように行動を変えるだろうということを提唱しました。

しかし、経験豊富な監査員でありアドバイザーでもあるアンディ・ニコルズ氏 (Andy Nichols CQP FCQI) は、ホーソン効果が現実に存在することに疑問の余地はないと言います。「車を運転していて、前方にパトカーやスピードカメラが見えたときのことを考えてみてください。制限速度を超えていなくても、ブレーキを踏んだり、アクセルから足を離したりするのではないでしょうか。自分が見られていると知ると、間違いなく行動が変わります」とニコルズは言います。

ニコルズはまた、学校や病院に対する規制当局 (たとえばイギリスのOfsted) の検査が、特にホーソン型の歪曲を招きやすいと指摘しています。「検査官は、典型的な一日を見ているわけではないだろうということを自覚する必要があります」とニコルズは言います。

影響を避けるには

そもそも監査を実施するということ自体が内部監査の結果に影響するというのは、明らかに望ましいことではありません。どうすればそれを避けられるでしょうか?では、気づかれないように、または離れたところから様子を観察すればよいのでしょうか?

ニコルズ氏は、こうしたアプローチは問題を悪化させるだけだと言います。「監査が実施されていることに誰かが必ず気づき、その話は瞬く間に広がります。その結果、従業員は以前よりも一層厳密に監視されているように感じ、疑い深くなります。ホーソン効果を最小限に抑える鍵は、関係者全員ができる限りオープンかつ正直であることです」と同氏は説明しています。

ニコルズ氏は、自分のアプローチは監査を受ける従業員からプレッシャーを取り除くことに尽きると説明します。「工場の現場で、何かを正しく行わないと自分が困ったことになると考えると、監査員が見ていることで従業員は行動を変えるに違いありません。しかし、経営陣が積極的に関与し、『この監査を実施するのは、今よりももっとよくなるためです』と言えば、従業員はそれが個人を責めるようなものではないことを理解し、防御的な反応はしなくなるでしょう」。

同氏によると、要請されて、または「自主的に」実施する内部品質監査は、認証機関による審査など外部から押し付けられる審査に比べて、ホーソン効果による歪みの影響を受けにくいといいます。

「そのようになる理由は、悪い結果が罰せられる形となる検査では、不適合を指摘されるなどの形で被るダメージがより大きくなるためです。このことから、私たち監査員は、監査対象の組織との関わり方を考え直す必要があることが分かります。監査対象となるのはプロセスや手順であって、それを実施する人ではないことを明確にする必要があります」と同氏は述べています。

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