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HLS (上位構造) からHA (整合のとれたアプローチ) へ: 附属書SL の新たな試み

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HLS (上位構造) からHA (整合のとれたアプローチ) へ: 附属書SL の新たな試み

改訂された附属書SLに新しく導入された整合のとれたアプローチ (Harmonised Approach) の開発と、解決すべき課題を、CQI のテクニカルアセッサー、そしてIRCAのLead Auditor であり、マネジメントシステムの独立コンサルタントであるHoracio Martirena氏が概説します。

quality.org に掲載の英語原文記事はこちら

※ 2021年5月6日に日本語の標題と一部訳語を変更しました。

はじまり: 2つの規格

21世紀に入るまで、ISOマネジメントシステム規格は2つしかありませんでした。ISO 9001 (品質) とISO 14001 (環境) です。この2つの規格は、Plan、Do、Check、Act から成るPDCAサイクルという同じモデルに基づいていました。箇条のいくつかはマネジメントの同じ基本概念に対応していますが、方針、目標、文書及び記録の管理、内部監査、力量及びマネジメントレビューなどについて、関連する要求事項は異なっていました。

ISO は、この2つの規格に同一の中核となるテキスト、共通の用語及び中核となる定義を定めることを決定しました。しかし、このプロジェクトは終了せざるを得ませんでした。というのは、ISOが、将来的にはほかにも多くのマネジメントシステム規格が発行される可能性があり、品質委員会や環境委員会だけでなく、すべての専門委員会がこの共通テキストに合意する必要があるということを認識したからです。

上位構造 (High Level Structure = HLS) の誕生

この問題を取り扱うために、合同技術調整グループ (Joint Technical Coordination Group = JTCG) が設置されました。JTCGのメンバーは、マネジメントシステム規格を開発した、あるいは開発中のすべてのISO委員会の委員長でした。その結果が、2013年に発行されたいわゆるHLS、つまり附属書SL です。このプロジェクトに参加した技術委員会は10にも満たず、ISO 9001とISO 14001 の代表が強い影響力を持っていました。

HLSは、マネジメントシステム規格にいくつかの新しい概念を導入しました。そのいくつかをご紹介しましょう。

  1. 組織の状況 (箇条4): これは組織の持続可能な発展 (sustainable development) を確実にするために必要なことに (経済、環境、社会という3つの要素で) 対応しています。これは監査員にとって、非常に難しい課題であり、徹底したトレーニングが必要です。さもないと、監査員は、マネジメントシステム規格の他の要素とつながりのない、単なるエクセルのシートを見ることを習い性にしてしまうかもしれません。

  2. リーダーシップとコミットメント (箇条5): トップマネジメントは、従業員やその他の利害関係者に対し、リーダーシップとコミットメントを示さなければなりません。これはすばらしい要求事項です。しかし、実証するのは難しい。監査員は、従業員に、トップマネジメントはリーダーシップとコミットメントを発揮していると感じるかどうか尋ね、その回答とトップマネジメントの回答を比較しなければならないでしょう。通常、これらの要求事項のすべてに文書化した情報があるわけではないので、監査員にとって自分のスキルを示すのはかなり難題です。

  3. 文書化した情報の管理 (複数の箇条): この変更は、重要なのはメディアの種類 (書面、写真、ビデオなど) ではなく、メディアに含まれる情報であるということを明確にするために導入されました。ですから、「文書」と「記録」の代わりに、組織は文書化した情報を保持し、維持しなければなりません。「保持 retain」と「維持 maintain」の違いについて混乱も見られました。

  4. 外部委託 (箇条8): 過去数十年にわたり、企業は自社のプロセスの一部を代行して行うよう委託することを選ぶようになっていました。外部委託に関する要求事項は、購買プロセスとのつながりを確立することなく導入されました。

  5. リスクに基づくアプローチ (箇条6): 重要な追加事項であり、議論の的となっています。リスクの定義は極めて不可解です。「不確かさの影響」や「リスク及び機会」という言葉がさまざまに異なる解釈を引き起こしています。

私の考えでは、リスクとはプロセスの結果の不確実性です。結果は実際に期待されたとおりになることもあれば、期待よりもよくなることも悪くなることもあります。したがって、結果が:

  • 期待通りであれば、すべてが順調であり、この結果を次のプロセスのインプットとすることができます。
  • 期待より悪い場合について、組織はこれらの脅威にどのように対応するかを事前に計画し、予想外の悪い結果の影響を軽減させます。
  • 期待よりもよい場合について、組織は予想外のよい結果からどのように利益を得るかを事前に計画しておくことが望まれます。これは、利益を得ることができると意図も計画もしていなかった機会となるでしょう。


では、規格にすでにリスクの概念に組み込まれているのに、なぜHLSは「リスク及び機会」と記載しているのでしょうか。「脅威及び機会」と変更するか、「機会」は削除して「リスク」だけにして問題を解決すべきでしょうか。

考えられるもうひとつの選択肢は、リスクはネガティブなもの (つまり脅威) のみとするということです。産業セクターによっては、リスクの定義のネガティブな部分のみを使用しており、適用される法的要求事項においてもそのように使われているので、今後もそのようにすると主張しています。

しかし、この場合の機会とは何でしょうか。機会には2種類あると主張する人もいます。意図せず、また計画していない (期待したよりもよい結果から生じる) 機会と、監査やマネジメントレビューなどの活動から生まれる、意図的で計画された改善のための機会です。ちょっと混乱しそうです。

HLSの導入から8年が経って、1. と2. の概念はあまり問題なくマネジメントシステム規格に入りましたが、3. と4. と5. はさらに明確化する必要があることがわかりました。

整合のとれたアプローチ (HA) の誕生

現在、48のマネジメントシステム規格がISO から発行されています。そのほとんどすべてがHLS に従っています。HLSは、多くの技術委員会の参加を経て、最近見直しと改訂があり、ISO 9001とISO 14001 の影響力が弱まりました。新しい改訂版でHLSは整合のとれたアプローチ (Harmonised Approach = HA) と呼ばれています。48のすべての規格は、ISO規格の改訂プロセスに従ってHA に移行しなければなりません。

新しいHAはHLSの3つの課題を解決するでしょうか?

文書化した情報の管理については、保持 (retain) と維持 (maintain) は使われておらず、HAでは「適用範囲は文書化された情報として利用可能でなければならない」などの文言に置き換えられました。文書と記録の区別や保持と維持の違いを理解する必要はありません。問題は解決しました。

外部委託は、「外部から提供されたプロセス、製品及びサービス」に関する要求事項に置き換えられました。マネジメントシステム規格に関連する外部から提供されたプロセス (以前は外部委託されたプロセスと呼ばれていました)、製品、サービスは、管理が必要な場合があります。たとえ明示的には言われていなくても、これらの管理はマネジメントシステム規格の適用範囲に含まれなければなりません。問題は解決しました。

しかし、リスクについては定義を明確にするためのコンセンサスが得られず、変更されませんでした。この問題は未解決のままです。ISOは、この懸案事項に対して早急に対策を講じるべきでしょう。

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