ISO 9004:2018 – 品質マネジメント – 組織の品質 – 持続的成功達成のための指針
組織がずっと成功し続けるためにはどうすべきかという手引を提供するISO 9004の改訂版 が2018年に発行されました。ISO 9004は要求事項ではなく、ISO 9001 やISO 14001 などのような第三者認証の対象となる規格ではありません。そのため、どのような規格か、どのように使うことができるのかがあまり知られていないかもしれません。ISO 9004とはどのような規格なのか、ご紹介します。
ISO 9004の目的の変遷
多くの人が「ISO 9001 – 品質マネジメントシステム – 要求事項」をISOの中でもっとも価値あるものと考えていますが、品質能力を実証しようとする組織にとっては、ISO 9004こそ有用な投資であるという主張も説得力をもってなされています。
もともとISO 9004が1987年に発行された当時、その目的はISO 9001への適合を達成した組織が品質パフォーマンスをより改善していくにはどうしたらよいかを説明することでした。9004はISO 9001に追加するものとして、品質コストの削減や品質の継続的改善の達成に関する指針を提供するものでした。しかし、2009年の大改訂後、9004の目的はQMSのパフォーマンスの改善から、持続的成功を達成するためには組織をどうマネジメントしていくのかへと大きくシフトしたのです。組織の持続的成功を、品質マネジメントのアプローチを用いて実現しようというのです。つまり戦略、リーダーシップ、資源、プロセスに関して、長所と短所、改善の機会を特定して対処していくということです。
>>CQI ガイド: ISO 9004:2018 持続的成功を達成する
そして、2018年、さらに抜本的な改訂が行われました。ISO 9004の最新版には、組織のすべての階層の管理層が、ISO 9000に明示されている品質マネジメントの原則を参照し、持続的成功達成をサポートするための明確な手引が含まれています。トップマネジメントは、顧客及びその他の利害関係者のニーズと期待を満たすこと、そして、すべての階層の管理層が組織の直面する内部及び外部の課題を認識し、プロセスと活動を変わり続ける組織の状況 (context) に適応させることに注力しなければなりません。
「組織の品質」と「組織のアイデンティティ」
新しく2つの重要な概念が導入されました。「組織の品質」と「組織のアイデンティティ」です。
組織の品質とは、「持続的成功を達成するために、組織固有の特性がその顧客及びその他の利害関係者のニーズ及び期待を満たす程度 the degree to which the inherent (もともと備わっている、持ち前の、受け継がれている) characteristics of the organization fulfil the needs and expectations of its interested parties」であると定義されてます。持続的成功を達成するために、組織はその製品及びサービスの品質を改善する以上のことに注力する必要があります。組織は、(単に顧客だけなく) 利害関係者のニーズと期待を満たすことに注力しなければなりません。これは簡単なことではありません。なぜなら、複数の利害関係者のニーズと期待はいつも一致しているとは限らず、対立することもあるからです。また、利害関係者のニーズと期待は時を経て変化します。この変化するということが特に重要です。利害関係者の求めるものが変わったのに、変化した要求を無視し、最初の成功のときと同じ方法で仕事をし続けたため失敗した組織の例がたくさんあります。例えば、モトローラ、コンパック、ノキア、トイザらスなどです。同様に、利害関係者の声に耳を傾け、成功を持続させるためにビジネスを適応させていった組織の例もあります。例えば、ウェスタンユニオン、シェル、ナショナルジオグラフィックやアメリカンエキスプレスです。
組織の品質を高めることは、持続的な成功を達成するために大いに役立ちます。組織の明確なアイデンティティを確立することも同様に重要です。ISO 9004では組織のアイデンティティは4つの要素の相互作用の結果であるとしています。4つの要素とは、組織の使命、ビジョン、価値観及び文化です。使命は組織の存在意義を表出するもので、トップマネジメントが示します。ビジョンとは、組織がどのようになろうとしているのかを示すものであり、トップマネジメントが決定します。価値観は、原則と思考のパターンを表すものであり、組織の文化の形成に大きく関わります。組織の文化とは組織が定める「基準/標準」ですが、ある時点において組織に存在する信念、歴史、倫理観、姿勢や行動を表すものです。
つまり、組織の文化は組織の使命、ビジョン及び価値観と同じ方向を向いていなければなりません。さもないと、トップマネジメントは文化を変える必要がありますが、これは困難極まりないことは皆さんご存じのとおりです。したがって、トップマネジメントは、使命、ビジョン及び価値観を決める際には、自分の組織の文化を理解している必要があり、定められた間隔で、そして状況 (context) が変わったときには必ず、使命、ビジョン、価値観及び文化を自らレビューしなければなりません。
4つのアイデンティティの要素が特定されれば、組織は方針と戦略を4つの要素とすり合わせる必要があります。そして、重要な成功要因のプロセス、管理方法及び測定を設計し、実施し、維持することにより、戦略が確実に遂行されます。
自己評価ツール
組織はISO 9004について、第三者 (外部) 認証を取得することはできませんが、ISO 9004の附属書Aの自己評価のツールを用いて、自分たちのパフォーマンスを自ら判断することができます。その際には、自分たちのパフォーマンスを自分たち自身の視点からだけではなく、利害関係者の視点から検討する必要があるでしょう。自己評価モデルでは、組織は自分たちの現在の状態をもっともよく表していると思うものを一連の記述の中から選択して、持続可能な成功への道のりをどこまで進んでいるかを判断することができます。成熟度のいちばん下のレベル (レベル1) の組織は、ある特定の活動をしなければならないということに気付いてはいるというレベルです。これは「基本レベル」です。いちばん上のレベル (レベル5) の組織は、それらの活動を日常的に行っているのみならず、積極的に、学び、改善し、その領域でイノベーションを行っています。このレベルは、「ベストプラクティスレベル」です。
評価する領域は幅広く、以下のものがあります。密接に関連する利害関係者、外部及び内部の課題、使命・ビジョン・価値観及び文化、リーダーシップ、方針及び戦略、目標、コミュニケーション、プロセスのマネジメント、プロセスの決定、プロセスの責任及び権限、プロセスのマネジメント (すり合わせ及び連携)、プロセスのマネジメント (より高いパフォーマンスの達成)、プロセスのマネジメント (到達したレベルの維持)、資源のマネジメント、人々、組織の知識、技術、インフラストラクチャ及び作業環境、外部から提供される資源、天然資源、組織のパフォーマンスの分析及び評価、パフォーマンス指標、パフォーマンスの分析、パフォーマンスの評価、内部監査、自己評価、レビュー、改善、学習及び革新 (イノベーション)。
自己評価は、定期的に実施し、事業改善計画となる結果を報告します。
持続可能な開発目標とISO 9004
2015年、世界のリーダー150人が国連に参集し、人類が直面するもっとも喫緊の課題のいくつかに対応するための計画を策定しました。その結果が15か年計画であり、17の持続可能な開発目標 (SDGs = sustainable development goals) を含んでいます。この17の開発目標は、貧困を終わらせることと経済成長を達成する戦略は密接に関連しているとして、気候変動と環境保護に取り組みながら、教育、健康、社会的保護 (social protection: 社会保障 social securityとほとんど同義)、そして就業機会などのさまざまな社会ニーズに対応するものとなっています。
ISO は現在、これらの目標 (SDGs) に貢献する能力という点からすべての規格を分類しています。ISO は、ISO 9001とISO 9004 のどちらも産業、技術革新とインフラを支援するものと考えていますが、ISO 9004はこれに追加し、社会の不平等を減らすとともに、働きがいと経済成長を促すものであるとしています。このため、卓越性を達成するだけでなく、卓越性を維持することこそが将来の繁栄のためのカギであり、自分たちが生き残るための前提条件であると認識している組織にとって、ISO 9004はより適切な選択肢となり得ると言うことができます。