リモート監査の長所と短所
リモート監査は「新しい常識」なのか?CQIのAudit Special Interest Groupのメンバーであり、International Project のクオリティリーダーであるIRCA登録 Associate Auditorの Rasoul Aivazi が、遠隔地から監査を行うことの利点と欠点について考察しています。
現地監査からリモート監査へのシフト
Independent International Organisation for Certification (IIOC) が実施したリモート監査と現地監査に関する調査では、2019年以前は、リモート監査はわずか2%しか行われていなかったことが明らかになっています。新型コロナウイルス感染症の大流行を受けて、リモート監査が著しく増加し、2020年には38%に跳ね上がったことは驚くべきことではありません。
国際的な日本企業の本社で内部監査の実施を担当する石油・ガスプロジェクトのクオリティリードとして、私は2020年に現地監査からリモート監査に突然シフトするのを目の当たりにしました。それ以来、リモート監査や混合/ハイブリッド型での監査の実施に携わっています。リモート監査の準備や実施は、ある意味では容易なのですが、一方で、まったく効率的に機能していないケースもあることも目にします。
では、リモート監査の長所と短所、そしてリモート監査が必要なときに最大の効率を提供するためのヒントとは何でしょうか。
リモート監査の長所
リモートで監査を行う大きなメリットの一つは、時間と費用の節約です。2019年の年間出張費は1兆3,000億米ドルと推計されています。Statista Research Departmentによると、渡航制限やあらゆるセクターで在宅勤務が増加したことにより、この数字は2020年には5000億米ドルにまで激減したということです。経費削減だけでなく、移動が減ることで、二酸化炭素の排出が減り、環境にも良い影響があることは明らかです。
リモート監査への移行は、安全衛生の向上にもつながっています。労働統計局 (the Bureau of Labor Statistics = BLS) の報告によると、2019年の米国における年間労働現場事故 / 災害は280万件に達していましたが、2020年には6%近く減少しているとのことです。品質マネジメント (QM) 監査員は、リスクの高い設備や機械、化学物質、物質、プロセスを運用している企業に対応しますが、これらはすべて監査員のリスクを高め、結果として監査プロセスがスローダウンします。リモート監査は、安全に関わる時間とエネルギーを削減し、事業者と監査員の双方に対する負担が減ります。
最後に、多くの監査員がリモートでの業務遂行を希望していることが、昨年7月から8月にかけて実施された調査でも証明されています。つまり、79%の監査員がリモート監査または混合監査を支持していることが明らかになったのです。
リモート監査の短所
長所と同様に、リモート監査の実践に関しては、3つの明確な短所があります。
理想的なコミュニケーション手段は実際に顔を突き合わせて行うコミュニケーションです。なぜなら、ボディランゲージや言葉以外のシグナルから多くの情報を得ることができるからです。私は「空気を読む reading the air」という言葉を使っていますが、これは日本語の「kuuki wo yomu (空気を読む)」に由来しています。それは、他者からの非言語的なシグナルだけでなく、周囲や環境からのシグナルを受け取り、その場の空気を理解することを意味します。ボディランゲージや表情は重要ですが、周囲から拾うものはそれだけではありません。
データが明瞭でないこともまたリモート監査の欠点です。データを操作ができたり、わざとミスリードしたりする可能性があり、監査員には断片的な証拠しか残らないためです。これを防ぐには、質の良いICT (情報通信技術) を活用する必要があります。TeamsやZoomなどのライブビデオやデータストリーミングは、静的なデータを扱うよりも安全であり、データセキュリティの向上に役立ちます。
監査員の自主性や当事者意識の欠如が第三のデメリットです。リモート監査は、監査員の自由、当事者意識、プライドを奪い、監査プロセスを指揮する能力を低下させます。優れたICTはこれをある程度補うことができますが、被監査側と監査員との透明な関係の必要性がより一層重要になります。
未来の可能性
2021年の12カ月間について、約79%の監査がリモートまたはハイブリッドプロセスで実施されたということを示すデータを期待しています。この数値は、上記でお伝えした2020年7-8月期の調査データと一致しています。リモート及び混合監査の増加傾向は2022年も続き、さらに10%程度上昇すると予想しています。つまり、全監査の90%はリモートもしくはハイブリッドで実施される可能性が高いのです。
リモート監査と現地監査のどちらを行うべきか悩んでいる組織もありますが、経験豊富でパフォーマンスの高い企業は、今後も両方のタイプの監査を行うことで利益を得ることができるでしょう。混合監査は、より堅牢で監査員に優しい戦略を生み出す可能性があります。さらに、利用可能な最良のICTを使用し、新しい技術に対応することは、リモート監査業務を継続的に成功させるための重要な要素です。
最後になりましたが、Henzof NigeriaのMD兼CEOで、CQI Audit Special Interest Group (SIG) のメンバーでもあるChikaodili Hemson氏の言葉を紹介したいと思います。2021年11月に開催されたSIGの第1回ウェビナーでのプレゼンテーションで、彼女はこう語っています。「パンデミック は必ずやってきます。これまで通りのやり方ができない混乱の時は必ずやってきます。イノベーションは必ずやってきます。ですから、準備ができていようができていなかろうが、変化は避けられないのです。流れに乗るか、取り残されるか、どちらかです。リモート監査は未来です」