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ISO 25550 高齢化社会における労働力ーすべての年代がよりよく働き続けるために

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ISO 25550 高齢化社会における労働力ーすべての年代がよりよく働き続けるために

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昨年から今年にかけ、高齢化社会に関する指針を示す3つのISO規格が発行されました。Centre for Ageing BetterのAssociate Director for Workであるキム・チャプレン (Kim Chaplain ) さんに、働く高齢者が働き続けるために、これらの規格の中でも特にISO 25550が雇用主にとってどのように役立つかを伺いました。高齢化社会は高齢者だけの問題ではなく、あらゆる年齢層に関わる事項であり、これからの社会において組織が考えるべき課題です。

高齢化社会に関するISO規格

高齢化の進展は社会全体の課題です。3つの新しいISO規格 (英国では英国規格としても発行されています) は、人々がより長く働き続け、生活する上での課題と機会に対処するための指針を提供することを目的としています。

この新しい規格の1つ目は、職場で働き続ける人について取り上げています。2022年2月に発行されたISO 25550:2022 Ageing societies - General requirements and guidelines for age-inclusive workforce (高齢化社会-さまざまな年齢層を含む労働力のための一般要求事項とガイドライン) は、組織がさまざまな年齢層を含む労働力を、どのように育成、配置、維持、支援することができるかの指針を提供しています。これには、よりバランスのとれた職場づくりを支援する機会を年配の従業員に提供すること、年配の従業員の積極的な参加を奨励することなどが含まれます。

この規格は、年配の従業員を採用する際のベストプラクティスだけでなく、労働力である高齢者の確保に関する指針を提供しており、クオリティプロフェショナルにとって重要な意味を持つ可能性があります。

高齢の従業員の雇用維持

英国のCentre for Ageing BetterのAssociate Director for Workであるキム・チャプレン (Kim Chaplain) は、ISO 25550:2022はパンデミック後、特に重要になっていると考えています。

「私たちは昨年の夏、YouGov社を通じて2,000社弱の雇用主の代表サンプルを調査し、新型コロナウイルス感染症以降の、年齢に対する考え方や、年齢への配慮について雇用主はどのように考えるかについて調べました。その結果、雇用主は4つのグループに分類されました」と彼女は言います。「すでに非常にうまくいっている雇用主のグループと、この問題について考えている第二のグループ、そして年齢への配慮という点ではかなり頑なな二つのグループがありました。どのグループも年齢よりも人種に関する対応に重点を置いており、今後2年間は年齢に関して重要なことを行う予定はないと回答しています。

「雇用主と話すと、雇用主は年齢による差別の問題を認識しており、高齢者を尊重しています。しかし、50歳以上の従業員に話を聞くと、自分たちが労働市場を移動することは危険なことであると考え、多くの人が年齢による差別を訴えているのです」。

「複数の世代を含む労働力の強さについて、2020年12月に経済協力開発機構 (OECD) が発表した研究結果があります。私たちは、年配の労働者が若い労働者よりも優れていると言っているわけではまったくありません。しかし、この報告書で示された証拠に基づいて、複数の世代を含む労働力が最も生産的であると主張しているのです。

「雇用主は、組織内の年齢のバランスをどのように維持するかについて、真剣に考える必要があります。なるに任せていては維持できません。そのため、雇用主は今いる高齢の労働者をどのように維持するか、また、高齢の労働者が応募してくるよう、採用方法が可能な限り広範なものであることをどのように担保するかについて考える必要があります」。

「ISO25550のような規格は、組織に基本を見直させるものです。基本を見直すということは、プロセスを精査し、よりよい結果を得るためにプロセスを再編成し、そのエビデンスを示すということです。先見の明のある雇用主は、50〜70歳の年齢層の従業員を維持する必要があると考えており、ISO 25550はそのための道筋となるでしょう」と述べています。

【解説】インクルージョンとは?
今、さまざまな場所でインクルージョンという言葉を聞く機会があります。では、インクルージョンとは何を指す言葉でしょうか?もともとinclusion とは、ある集団や構造の中に含まれるという言葉でした。これが概念的に発展して、今では多様性 (ダイバーシティ diversity) と並立する言葉として使われ、日本にもSDGs やESGに関連付けられ、この概念が入ってきています。Oxford Dictionary には以下の定義が追加されています。

"the practice or policy of providing equal access to opportunities and resources for people who might otherwise be excluded or marginalized, such as those who have physical or mental disabilities and members of other minority groups."

つまり、「身体的あるいは精神的な障碍を持つ人々や、その他マイノリティグループなど、集団や構造から排除されたり疎外されたりする可能性がある人々に対して、機会や資源への平等なアクセスを提供すること」が新しい意味としてインクルージョンという言葉に与えられ、すでに定着しているということです。これら排除/疎外される可能性のある人々には性別、年齢、あるいは人種など、その他いろいろな人々が含まれるでしょう。また、それぞれの国、社会、組織でも異なっているでしょう。インクルージョンは、日本ではビジネス上の文脈で語られることが多い言葉ですが、もっと幅が広く、また排除/疎外される人々だけでなく、健常者と呼ばれる人々、あるいはマジョリティとされる人々、優位な性別の人々、若年層を含むあらゆる年齢層の人々にも大きく関連する概念です。

CQI IRCA はEDI (Equity, Diversity, Inclusion) を重視すべき大きなテーマと捉え、取り組みを始めています。

数字で見る

「世界人口の見通し: 2019年改訂 World Population Prospects: the 2019 Revision」のデータによると、2050年には世界の6人に1人が65歳以上の高齢者となり、2019年の11人に1人から増加するとされています。同資料では、80歳以上の人口が2019年の1億4300万人から2050年には3倍の4億2600万人になると予測しています。また、2018年には、史上初めて65歳以上の高齢者が5歳以下の子供を上回ったことも報告されています。

人々は長生きするだけでなく、より長く職場に留まるようになっています。英国の財政学研究所 (Institute of Fiscal Studies) の調査によると、英国では2018年12月から2020年10月にかけて国民年金の受給年齢が65歳から66歳に引き上げられたことで、65歳男性の就業率は7.4%、女性は8.5%上昇したそうです。つまり、国民年金受給年齢が65歳のままだった場合よりも、2021年には65歳の男性で2万5000人、女性で3万人が多く雇用されていることになります。同調査によると、2021年半ばまでに65歳の男性の42%、65歳の女性の31%が有給労働者となっており、いずれも1970年代半ば以降のどの時点よりも高い割合となっています。

新型コロナウイルス感染症の影響とISO規格の意味

労働市場を揺るがしているのは、年金受給年齢の引き上げだけではありません。新型コロナウイルス感染症も間違いなく影響を与えており、あらゆる年齢層の人々がワークライフバランスの改善を考えていることは間違いないでしょう。チャプレンは、選択肢を検討しているのは若い従業員だけではないと考えています。

「新型コロナウイルス感染症では高齢者がより多く一時帰休となりましたが、職場復帰を見ると、一時帰休した高齢者のうち戻ってきた人は少なく、余剰人員となった人が多くいます」。全体として見ると、50代以上の労働市場が特にうまく機能していないことがわかります。

「労働市場から退いた50代以上の人たちに話を聞くと、もっと柔軟性があれば、戻っていく気になるのにということです。私たちは、年配の労働者のための優れた取り組みに関して5つの基準を設けていますが、この基準の中で年配の労働者が最も好むのは、自分の状況に共感し、より柔軟な対応をしてくれる雇用主です。

「ISOの規格は、それ自体では求職者や雇用主にとって何の意味もありませんが、ISO規格を達成することにより得た優れた取り組みは、年配の労働者の雇用を促進するでしょう。それは、あなたの会社は異なる属性を持つすべてのグループのために具体的な取り決めをしている、インクルーシブな会社であることを証明するものです。」

【参考】ISO 25550 の箇条をご紹介します (日本語訳は便宜的なものです)。単に高齢者の雇用という問題だけでなく、これからの社会におけるあらゆる年齢層にとっての組織の在り方に関する指針が提供されていることがわかります。
ISO のウェブサイトのプレビュー版より
Foreword まえがき
Introduction 序文
1 Scope 適用範囲
2 Normative references 引用規格
3 Terms and definitions 用語と定義
4 Guiding Principles 指針の原則
5 Leadership and age-inclusive organizational culture リーダーシップ及びさまざまな年齢層を含む組織の文化
6 Workforce planning, recruitment / re-entry and work allocation 人材の計画、採用/再就職及び業務配分
7 Work design 業務の設計
8 Health and wellbeing 健康及びウェルビーイング
9 Career development キャリア開発
10 Knowledge management and intergenerational collaboration ナレッジマネジメント及び多世代間のコラボレーション
11 Digitalization of workplaces and innovation 職場のデジタル化及びイノベーション
12 Succession planning 後継者育成計画
13 Transition to retirement 定年退職への移行
14 Continuing in the workforce 労働力として継続する
15 The value of the ageing workforce’s ecosystem to the organization 高齢化した労働力のエコシステムが組織にもたらす価値
16 Financial literacy planning and benefits and rewards 財務リテラシーの計画及び福利厚生と報酬
17 Continual improvement – assessment tools 継続的改善-評価ツール
Annex A Concepts and effects of ageing 附属書A 高齢化の概念と影響
Annex B Individual continual career development planning 附属書B 個人の継続的なキャリア開発計画

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