ISO 21500 – プロジェクトマネジメントの手引 パート1
『ISO 21500:2012 プロジェクトマネジメントの手引』はプロジェクトマネジメントに関する手引を提供するISO 規格です。これまで国内ではあまり知られていませんでしたが、2018年、遅ればせながら、JIS Q 21500:2018 としてJIS 化されました。プロジェクトマネジメントの手法は、鉄道工事や再開発事業、あるいはオリンピックなどの大きなプロジェクトだけではなく、改善活動や監査活動など、一連のプロセスから成る組織内のさまざまな活動に適用、活用することができるものです。
ISO 21500とはそもそも何なのか、そのコンセプトとこれに係る要員の力量について、2回シリーズでお届けします
プロジェクトをマネジメントしたことのある人ならだれでも、このような芸術作品にも匹敵するようなプロジェクトを遂行することは簡単ではないことを認めるでしょう。プロジェクトのステークホルダに常に関与してもらうためには、効果的な計画の策定、限られた資源の組織化と管理、「最上級の」対人関係スキルが必要です。
幸いなことに、経験の浅い人たちにとって助けになる、十分に確立した手引、方法及びテクニックがあり、これらを正しく使えば、成功する確率は大幅に上がります。これらの中で随一と言えるのがISO 21500です。ISO 21500はガイダンス規格ですが、他のISO規格と同じく、どのようにするべきかということを規定するのではなく、何をする必要があるかということに焦点を当てています。
ISO 21500の策定は、2012年のロンドンオリンピックに向け、プロジェクトマネジメントの新しい国際規格をつくろうという英国の提案から2006年に始まりました。この提案は2007年10月に承認され、プロジェクト委員会 (PC) 236 がこの新しい規格策定担当として組織されました。そして、およそ5年後、2012年9月にISO 21500の最初の版が発行されました。
組織にとってのISO 21500:2012 の価値
ISO 21500に含まれる根本的な知識やグッドプラクティスに基づいてプロジェクトマネジメントシステムを設計することで、組織は堅固な基盤の上にプロジェクトマネジメントの取決めを構築しているという自信をもつことができます。この規格は認証規格ではないので、組織あるいはプロジェクトマネジャーがISO 21500に対して第三者認証を受けることはできませんが、この規格に従ってプロジェクトを遂行していることを実証することで、プロジェクトを適切に管理しているという保証を内部及び外部に与えることができます。
また、ISO 21500は、プロジェクトマネジメントの用語を共通化しました。16の主要なプロジェクト関連の用語が、特定の組織が使用している特定のプロジェクトマネジメントの方法論ということではなく、世界中で普遍的に使えるよう意識して定義されています。これらの用語には、「ラグ lag」、「リード lead」、「クリティカルパス critical path」及び「ワークブレークダウンストラクチャ work breakdown structure」などがあります。これらの用語の理解を共有することの利点は明白です。それぞれ独自の取決めでプロジェクトを管理する複数の組織が、例えば、新しい空港や高速道路など、1つのプロジェクトを協力して行う場合、すべての関係者がこれらの用語の解釈を同じくしていることがプロジェクトの成功には絶対に必要です。
正式なプロジェクトマネジメントに慣れていない組織に対し、ISO 21500はプロジェクトマネジメントを支える概念とプロセスに関する貴重な洞察を提供しています。
ISO 21500:2012 の構造
ISO 21500:2012 は4つの箇条と参照用の附属書が1つから成り立っています。
- 箇条 1 – 適用範囲
この箇条では、ISO 21500は公共、民間あるいは地域の組織を含むあらゆる種類の組織が使用することを意図していることを確認しています。さらに、この規格は複雑さ、規模あるいは機関に関係なく、あらゆる種類のプロジェクトに適用できることも確認しています。 - 箇条 2 – 用語及び定義
ここで定義されている16のプロジェクトマネジメントに関係する用語は以下です。
- 活動 (activity)
- 適用分野 (application area)
- ベースライン (baseline)
- 変更要求 (change request)
- 構成管理 (configuration management)
- 管理 (control)
- 是正処置 (corrective action)
- クリティカルパス (critical path)
- ラグ (lag)
- リード (lead)
- 予防処置 (preventive action)
- プロジェクトライフサイクル (project line cycle)
- リスク登録簿 (risk register)
- ステークホルダ (stakeholder)
- テンダー (tender) 及び
- ワークブレークダウンストラクチャ (work breakdown structure) - 箇条 3 – プロジェクトマネジメントの概念
この箇条では、プロジェクトをマネジメントする際にもっとも重要な概念を説明しています。これには、例えば、以下のものなどが含まれます。
- プロジェクトガバナンス
- プロジェクト環境
- プロジェクトライフサイクル及びプロジェクト要員の技術
- 行動及び状況に関する力量 (21500のJIS訳ではコンピテンシ) - 箇条 4 – プロジェクトマネジメントのプロセス
この箇条において、個々のプロジェクトフェーズ (段階と呼ばれることもある)、あるいはプロジェクト全体に適用されるべき39のプロジェクトマネジメントプロセスを特定しています。これらのプロセスは2つの観点から考察することができます。最初の観点は、マネジメント観点で、39のプロセスを次の5つのプロセス「群」に整理しています;
- 「立ち上げ」(Initiation)
- 「計画」(Planning)
- 「実行」(Implementing)
- 「管理」(Controlling)
- 「終結」(Closing)
2つ目の観点は、39のプロセスを対象別に10の対象群としてグループ化するものです。対象群は以下です。
- 「統合」(integration)
- 「ステークホルダ」(stakeholder)
- 「スコープ」(scope)
- 「資源」(resource)
- 「時間」(time)
- 「コスト」(cost)
- 「リスク」(risk)
- 「品質」(quality)
- 「調達」(procurement) 及び
- 「コミュニケーション」(communication) - 附属書 A – 対象群に対応付けられるプロセス群のプロセス
附属書 Aでは5つのマップ (図) がされ、それぞれ、各プロセス群に関連するプロジェクトマネジメントプロセスを規定する単一の論理的順序を矢印で示しています。ただし、このルートはあくまで目安であり、どのプロジェクトマネジメントプロセスが必要か、また、特定のプロジェクトのためにどの順番でプロセスを走らせるかを決定するのは、組織、プロジェクトマネジャー、及び/またはプロジェクトチームです。
他のプロジェクト関連規格とのつながり
国際標準化機構 (ISO) は、ISO 21500を他の関連する規格と整合するように設計しています。関連する規格には、例えば以下のものも含まれます:
- ISO 10005 Quality management systems – Guidelines for quality plans (ISO 10005 品質マネジメントシステム – 品質計画書の指針)
- ISO 10006 Quality management systems – Guidelines for quality management in projects (ISO 10006 品質マネジメントシステム-プロジェクトにおける品質マネジメントの指針)
- ISO 10007 Quality management systems – Guidelines for configuration management (ISO 10007 品質マネジメントシステム – 構成管理の指針)
- ISO 31000 Risk management – Principles and guideline (ISO 31000 リスクマネジメント-原則及び指針など
なお、ISO 21500は現在2012年版ですが、これの改訂版、ISO/AWI 21500 – Project, Programme and Portfolio Management – Context and Concepts (ISO/AWI 21500 – プロジェクト、プログラム及びポートフォリオマネジメント – コンテキスト及び概念) がISO 技術委員会 (TC) 258が担当する新規プロジェクトとして準備段階であり、今後、置き換えられることになります。
パート2では
本シリーズの次の記事では、プロジェクトの役割及び責任、プロジェクトの制約とプロジェクト要員の力量 (コンピテンシ) のバランスに関係する ISO 21500の指針を検討していくとともに、ISO 21500の対象群と、それに関連するプロジェクトマネジメントプロセスをより詳細に見ていきます。
パート2はこちらから
執筆者について: 本記事の執筆者 、Kingsford Consultancy Services 社の代表取締役であるRichard Green氏は、IRCA のQMS プリンシパル審査員、CQI のCQP (Chartered Quality Professional) MCI、British Computer Societyの Chartered IT Professionalであるとともに、英国商務局 (OGC) の開発したPRINCE 2 のProject Management Practitionerであり、コンサルタント、あるいは各種セミナーの講師として活躍するほか、ISO 19011 をはじめとするさまざまな規格の策定にも参加している。また、2017年と2018年にはCQI の国際クオリティ賞の審査員も務めている。