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医薬品製造とクオリティプロフェッショナル - 国際的枠組み PIC/Sに対応するために

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医薬品製造とクオリティプロフェッショナル - 国際的枠組み PIC/Sに対応するために

グローバル化が進む医薬品製造とそれを取り巻く国際的な枠組み

医薬品製造は生命やQOL に直結する業種ですから、日本ではPMDA (Pharmaceuticals and Medical Devices Agency 独立行政法人医薬品医療機器総合機構)、アメリカではFDA (Food and Drug Administration食品医薬品局)、英国ではMHRA (Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency 医薬品・医療製品規制庁) など、各国それぞれの規制当局、査察当局によって厳格に規制され、国ごと、地域ごとのさまざまな規制や法律に縛られています。

ところが、それと同時に、医薬品業界は、大事なところは国際的に合わせていこう、命を助けることが一番重要であるという原点に立ち返ろうという国際的な取り組みがいちばん進んでいる業界のひとつでもあるのです。これには、医薬品製造は、メガファーマと呼ばれる巨大製薬企業による国を超えた企業の合併に伴い、発展途上国の中小の工場を含むサプライチェーンのグローバル化が急速に進み、国や地域の枠組みを越えた厳格な管理が必要な業種のひとつであること、またエボラ出血熱、あるいはSARS、MARSなどの新型インフルエンザや新型コロナウイルス感染症など、国境を越えた新しい伝染性疾患の感染拡大の脅威とそれに伴う各国の協力の必要性が高まっていることなども関係していると思われます。

このような国際的な協調や協力を図る枠組みの例としては、各国の医薬品承認審査の基準の合理化・標準化を目指すICH (International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use 医薬品規制調査国際会議) や各国の査察基準を整合させるためのPIC/S (Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme 医薬品査察協共同スキーム) などがあります。ICHの定める品質に関するガイドラインには従来のGMPにはなかったマネジメントシステムの考え方が加わっており、これに基づく査察*ではマネジメントシステム監査の手法も一部参考にされています。

これらの枠組みでは、医薬品の製造そのものだけでなく、試験/治験を含む開発、使用する包材、輸送、保管など、関連の事項も網羅されており、このような国際的な要求事項に対応し、そして何より、それを海外からの査察官/監査員に対して実証できるクオリティプロフェッショナルの養成が急務です。

* 実際の査察に用いられる規範は国ごとの法令 (GMP) です。EU諸国ではICHガイダンスがEU-GMP (Eudralex - Volume 4 – Manufacturing Practice guidelines) に引用されており、このEU-GMPが、各国の規制当局の法令を超えた協調の場であるPIC/Sが規定するGMP に反映されています。PIC/S加盟各国はPIC/S GMPを自国の事情に合わせて活用していますが、日本ではPIC/S加盟から7年が経過したこの8月1日に、 日本のGMP規範にあたる「GMP省令」を改正し、PIC/S GMPとの整合化が図られたところです。今回の改正では品質マニュアル作成が法的な要求事項となっています。

医薬品に関するクオリティプロフェッショナルのための研修コース

CQI|IRCA は医薬品の品質に対する審査員/監査員のための「CQI and IRCA認定 医薬品GMP 審査員/主任審査員研修コース (5日間コース)」の基準を専門家の協力の下、作成、更新し続けており、これに適合する研修機関及び研修コースを認定しています。このコースは審査/監査を実施する人のみならず、査察や監査への対応をする人にとっても大変有用です。ただ、残念ながら、日本国内にはこのコースの認定をもっている認定研修機関はありません。したがって、このコースに参加しようとする場合は、海外の認定研修機関による研修コースを受講する必要があります。

しかし、これは逆に言うと、日本語に翻訳された解釈ではなく、規格が書かれた言語による、要求事項の意図を踏まえたトレーニング、海外の査察官や監査員の求めるものを理解するための助けを得る絶好のチャンスでもあります。

なお、CQI|IRCA の認定を受けた研修機関のひとつである、英国の研修機関 Inspired Pharma Training 社は、ここ数年にわたり、毎年3月に大阪において5日間コース (逐次通訳付きの6日間で実施) を実施しています。次回は2023年3月6日 ~ 11日に開催の予定です。また、同社では以前から実施していたオンラインのバーチャルコースを拡充し、その結果、時差の影響もものともせず、世界各国からこれまで以上のたくさんの受講者が集まっているということです。もちろん日本からも受講が可能です。

CQI and IRCA認定 医薬品GMP主任審査員研修コース

> 日本で開催される逐次通訳付き2023年3月6 ~ 11日のコース

> その他の開催日程やオンラインのバーチャルコース

またInspired Pharma Training 社はCQI|IRCA 認定コース以外にも、GMPやGDPあるいはResponsible Person のためのコースやQMSのコースなど、医薬品業界に特化したさまざまなコースをバーチャルで実施しています。

>さまざまなコースが確認できるInspired Pharma Training 社ウェブサイトトップページ

医薬品製造におけるクオリティプロフェッショナルの役割

一方、国内に目を転じると、水虫薬への睡眠剤混入という未聞の事故を発生させ、過去最大の行政処分を受けた小林化工や、昨年来、何回にもわたり製品の回収を繰り返し、同じく行政処分の対象となったジェネリック大手の日医工など、品質管理に疑問を抱かせる事例も発生しています。しかし、これらの問題は、単に定められた手順を守るように従業員を教育すれば解決するような問題なのでしょうか。問題の根っこには組織そのものの体質、文化、すなわち安全を含む品質、顧客重視を必ずしも第一としていない企業風土があるとしたらどうでしょうか。

CQI|IRCAは、クオリティプロフェッショナルはこのような文化、風土を変えていくことができる力量をもつべきである、またもつことができると考えています。2015年にCQIが発表した、クオリティプロフェッショナルに求められるリーダーシップについて述べる『21世紀のクオリティを主導する Leading Quality in the 21st Century』には以下の記述があります。

>『21世紀のクオリティを主導する』

「経営幹部リーダーは品質以上に財務実績に関して主たる責任を問われるものであるという事実をクオリティプロフェッショナルは完全に受け入れなければなりません。つまり、経営幹部リーダーは、ともすると自らが下す決断がもたらす結果について完全には認識していないこともあり得るということを意味しているのです。経営リーダーは、自らが下す決断如何に拘わらず、品質は確保されるものと無意識のうちに想定している可能性があり、それによりリスクへの暴露が高まることもあるのです。この問題に対応するため、品質リーダーは、どのような圧力が上層部のステークホルダーにかかっているのかを理解しようと努力し、決断に先立って行われる議論の中に品質に関わるリスクと機会も含めるにはどうすればいいかを学びとろうとしています。

このためには、品質リーダーは、自らの組織全体の能力を把握する必要があります。これにより信用を築く力が増し、信用が強固になれば、品質リーダーは『厄介ごとの前触れ』としてばかりではなく、変化を促す媒体として効果的に仕事ができるようになるのです。ここで品質リーダーに必要なことは、バリューチェーンの端から端までの全体に渡って人々と協働して取り組みを進めることです。また、組織の中の人々が、今までとは異なる考えかたができるよう、現状に疑問を呈することができるよう、そして、他の産業や制度のよい考えを自らも採用できるようにするため、組織内の人々を鼓舞し、動機づけし、指導しなければなりません。その一方で、品質リーダーも、個人として、また品質部門として、常に学び続け、順応し続ける必要があります。『何を残し、何に疑問を呈するべきかを学び、順応を促さなければ』ならないのです。」

監査員を含むクオリティプロフェッショナルは、ここに記述されているように、組織の中の人であるとともに、事実に基づいて考える人 (Fact-Based Thinker) として、組織内外のステークホルダーの代弁者 (Stakeholder Advocate)、すなわち組織の良心として行動する人であるべきでしょう。

CQI|IRCA における医薬品の品質グループ

CQI|IRCAには、医薬品業界に所属する審査員/監査員、品質担当者も多数登録しています。そして、CQI|IRCAのおける医薬品のクオリティプロフェッショナルに特化した活動としては医薬品 SIG (Special Interest Group) であるPharmaceutical Quality Group (PQG) があります。これはCQI|IRCAの登録メンバーからなるボランティアグループが運営するグループであり、30年以上の歴史をもち、製薬のガイドラインや規格としてPS 9000、PS 9004、PS 9100などの文書を作成し、発行しています。

> PQGについて

> PQG のウェブサイト

IRCAに登録することにより、この医薬品SIG をはじめとする、さまざまな業界あるいは業界を横断してクオリティのリーダーシップをとるグローバルコミュニティのメンバーとなることができるようになるのです。

>Special Interest Groups (SIGs)

* この記事は、IRCAジャパン メンバーズサポーター 坂井盛さんのお話しを参考にIRCAジャパンが構成しています。
CQI レポート The Future of Work 未来の働き方
IRCAテクニカルレポート:ISO22000:2018