日本の品質に魅せられた英国人
今年、CQIは100周年を祝いますが、デイビッド・ハッチンス・インターナショナルの会長であるデイビッド・ハッチンス (David Hutchins, CQP FCQI) 氏はCQI のメンバーになって50年を迎えます。ハッチンス氏はキャリアの初期に品質に対する日本のアプローチの優位性を認められ影響を受けたと言います。CQIとの関わりについて、また、品質に対する日本のアプローチとの出会いについて、CQI のアリシア・ディマス (Alicia Dimas) がお話を伺いました。
quality.org に掲載の英文記事はこちら
CQIとの50年にわたる関わり
アリシア・ディマス (AD): CQIの100周年の年に、CQIメンバーとなって50周年をお迎えになるお気持ちはいかがですか。
デイビッド・ハッチンス (DH): 周年を迎えることで1つよいことは、過去を振り返る機会となるということです。今年の抱負は、CQI との協力関係を深めることで、願わくは私が長年にわたり培ってきた知識や経験を活かす活動ができればと思っています。
AD: この50年で特筆すべきことは何だったか教えていただけますか。
DH: 私が1969年にメンバーになったとき、メンバー間には大変仲間意識があり、お互いに競い合ってはいましたが、皆、仲よくしていました。すべてはメンバーによって運営されており、ボランティアでCQIを運営するメンバーにもっと頼っていました。CQI の年次総会に参加するだけでなく、かなりのメンバーが、ヨーロッパのさまざまな都市で開催される欧州品質機構の会議に毎年出席していたものです。
私がメンバーになったのは、自動車部品工場の工場長を辞めて、大学で教え始めるようになってすぐ後です。私は、自分がコースを適切に運営しているかを確認したいと思っていました。CQI の教育委員会の委員長をしていたブライアン・ジェニー (Brian Jenny) と知り合いになり、彼が私を委員会に招いてくれました。
私にとって特に印象深い出来事は、1974年にCQI Fellow になったことです。CQI Fellow として認められたことは非常に誇らしいことでした。
望むこと
AD: 将来に対し、どのようなことを期待していますか。
DH: メディアが、品質のプロフェッショナルにもっと光を当ててくれたらと思います。例えば、ロンドンの高層アパート、グレンフェルの火災のときなどもそうでしたが、何かが起こった際に品質関連の人がニュースなどでインタビューされることは滅多にありません。メディアから注目されるために私たちにできることはもっとあると思います。品質の必要性は決して減じていません。私たちは進歩に進歩を重ねるよう努め続けなければならないのです。
また、CQI が世界の品質のコミュニティとの絆を強くすることを期待しています。例えば、CQIはすべての品質のプロフェッショナルをまとめるために主導的な役割を果たすことができると思っています。これは簡単な仕事ではありませんが、できない話ではないと考えます。
品質の世界における変化
AD: 品質の世界ではどのような変化がありましたか。
DH: もともと、品質は軍の求めによるものであり、1974年までは完全に検査に基づくものでした。企業では、検査システムのほか、主任検査官の資格やひどい品質の製品を見分ける能力について妥当性確認が行われました。生産された製品だけでなく、組織のマネジメントシステムを確認するようになったのはもっと後になってからのことです。
私が自動車と船舶用のガソリンエンジンとディーゼルエンジンに使う高精度、大容量のピストン、ピストンリングとガジョンピンを製造する企業で生産技術者として働いていたとき、私の仕事は使い物にならない製品をつくらないようにすることでした。主任検査官の仕事は、私たちが使い物にならない製品をつくったら、それが出荷され顧客のところに行くのを止めようとすることでした。ですから、当時は品質という言葉は使っていませんでしたが、実際のところ、私の仕事は品質改善だったわけです。
衝撃的だった日本の品質
AD: 品質に対する日本のアプローチがあなたにとって重要なのはなぜですか。
DH: 私が生産技術者として、自動車や船舶のディーゼル産業のためのピストン部品を製造している会社で働いていた当時、私は日本製のホンダのピストンを分析しました。そのとき、私は本当にびっくりしたのです。その粒界構造は、マテリアル用の英国規格の中には見当たらないほど、優れたものだったのです。それと同じようなものをつくることは、我々にとってまったく叶わぬことでした。それは衝撃でした。どうやってこんなものをつくったのだろうか?日本人はどうやってこのようなレベルの品質を生むことができるのだろうかを、そのときから、私は猛烈に知りたくなりました。
しかし、英語で書かれたものは何もありませんでした。全部日本語でした。幸運にも、数年後、友人が石川馨博士を紹介してくれたのです。石川先生は日本の品質の父です。石川先生は英語で書かれた出版物をいくつか私に送ってくれました。そこに、私の生涯を変えた1文がありました。「私たちの品質へのアプローチは、各人が自分の仕事のエキスパートであるということ、ビジネスで自分たちをベストとするために私たちのやるべきことは、すべての人のすべての技能と知識を活用することだという考えに基づいている。」
日本の労働力に関する石川先生の論文を読んだとき、私は、自尊心もなく、自分が何をできるのかについて考えたこともなく、一日中ミシンの前に座っている人々について考えました。そんな人たちが生産性の向上に関与することができるとしたらどうだろうか?プロセスを改善できるとしたらどうだろうか?自分たちが製造している衣服に油のシミが付くのを防ごうとするように、あるいは折れる針の数を減らそうとするように?それ以来、私はこの考えに駆り立てられてきたのです。