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優位に立つ: ISO 45001

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優位に立つ: ISO 45001

英国規格協会 (British Standards Institution = BSI) とISO 45001 の認証を取得したCBRE GWS EMEA が、世界初のグローバル労働安全衛生規格であるISO 45001を先駆けて採用している組織が直面している難題はどのようなものかを語り、アドバイスを提供しています。

*quality.org に掲載の英文記事はこちらから。

ISO 45001:2018 が発行され、BS OHSAS 18001 (労働安全衛生マネジメントシステム) から新しい規格への移行が世界中で本格化しています。

「ISO 45001 は安全衛生のベストプラクティスを定めるグローバル基準です。これは安全の水準を押し上げるのみならず、最も重要、かつ画期的だと思うのは、身体と精神、両方の健康についても求められる水準が押し上げられているということです」と、英国規格協会の安全衛生部門のグローバル製品推進部のケート・フィールド (Kate Field) は言っています。

彼女は、また、労働安全衛生の向上は、ビジネスに対しても有形のメリットをもたらすものだとも主張します。

「適切で安全な仕事を提供することにより、自分たちのビジネスは社会的責任を果たしているということを見せることができます。世界では、才能ある人材に関して非常に激しい奪い合いがあり、このような姿勢を見せることは、人材の維持、採用、生産性を高める正真正銘のチャンスとなります。」

BSIでは、3月12日の新規格発行以来、すでに82のクライアントがこの新しいOHS 規格への認証を達成しました。これらの組織にはいくつかの共通した特性があります。まず、新しい規格を他に先駆けて採用することは自分たちの評判を高める可能性があり、営利上の便益があるという認識があること。2番目に、これらの組織の大部分はISO 9001 の認証をもっていること、つまり、ISO マネジメントシステム規格の上位構造になじみがあるということです。3番目に、ISO 45001 についてトップマネジメントのコミットメントと積極的な関与があるということです。

BSI をはじめとするグローバルな認証機関では、BS OHSA 18001 からISO 45001 へ移行した組織が共通して直面している難題があることに気付いています。

「BSIは、ISO 45001 を策定した専門委員会に参画しており、リーダーシップと働く人の参加に関する箇条5は、なかなか難問であることはわかっていました」とフィールドは言いますが、おしなべて組織は、管理職以外のスタッフの参加を推進するようになってきていると付け加えました。

「もっと驚いたのは、箇条7.2の力量に関してのことです。力量は18001 にもありましたし、新しい要求事項ではありません。しかし、組織が働く人たちの力量を効果的に保証できておらず、力量の証拠として適切な文書化した情報を保持していないことがあるのがわかりました。」

この問題に対処するため、フィールドは最前線で働くスタッフをそのスタッフ自身の仕事のリスクアセスメントに参加させるよう助言します。また、スタッフが仕事をしているときにリーダーがスタッフと話をする機会をもつといった簡単なことを勧めています。これと並行して、組織はソフトウェアソリューションを用いて、力量に関するオンラインの記録を保持するといったこともできます。「バランスを保つことが大事です。安全衛生は、膨大な量の紙や煩雑な事務仕事をつくりだすものではありませんが、力量に関する証拠の保持は必要です」と言います。

OHSAS 18001 で認証されている企業に対しては、3年間の移行期間が終わる前に、適切に移行を実施できるよう、移行トレーニングのニーズと資格要件を満たす監査員を特定するため、早めに計画を立てるようアドバイスしています。

ISO 45001 の採用を検討しているけれども、OHSAS 18001 の認証をもっていない企業も途方に暮れる必要はありません。すでにISO 9001 あるいはISO 14001 のシステムがある企業は有利な立場にあります。「ISO 45001 について興味深いのは、他のISO 規格と同じ上位構造に従っているということです。これらの規格に基づくシステムをすでにもっている組織は、共通の構造や言葉や共通の要求事項にはなじみがあるでしょう」とフィールドは言います。

「これらの他のマネジメントシステム規格になじみがない組織には、ISO 45001の採用は恐ろしく見えるかもしれませんが、そんなことはないということを理解する必要があると思います。労働安全衛生については、組織がすでに取り組んでいるたくさんの法的要求事項がありますし、45001 の要求事項を満たすためには既存のプロセスとシステムの多くを使うことができます。」

フィールドは、新しい規格を適用するための行動計画を設定するためのギャップ分析を実施するために外部組織を使うことをアドバイスしています。

継続的改善

新しい規格は、組織が継続的改善を追及するのに役立ちます。イノベーションや敏捷性、先見性が成功のために必要な要素となりつつある世界において、継続的改善はますます重要になるとフィールドは考えています。

「ISO 45001 はこのことを認識し、組織が継続的に改善するよう、特にテクノロジー、イノベーションそして新しい知識を用いて継続的に改善することを奨励しています」と言います。「ISO45001は、継続的改善は組織の文化に関わるものだと認識しているという点で、ISO 9001 よりも一歩先を行っていると私は思っています」。

CBRE GWS EMEA は、ISO 45001 に照らして認証された世界最初の企業のうちの1つです。CBRE GWS EMEAを審査したのは英国規格協会 (BSI) です。安全衛生はこの不動産サービス企業の日常のビジネス活動において不可分なものとなっています。

「この規格に適合した最初の企業の中の1つになることが業務上、営利上、どちらにとっても重要だと思いましたし、我々はそれを成し遂げる自信がありました」とCBRE GWS EMEA のQHSE (品質、衛生、安全、環境) 部門長のリチャード・ホワイト (Richard White) は言います。

「我が社では、統合マネジメントシステムのアプローチを取っており、品質についてはISO 9001 、環境はISO 14001、そして安全衛生については現在はISO 45001 について認証されています」と同社の規格保証部門長であるリサ・レイン (Lisa Lane) は言います。「我々にとっては、H&S (安全衛生) リスクはすでにこの統合マネジメントシステムのアプローチに埋め込まれたものでしたから、とても簡単なことでした。」

CBRE GWS EMEAが重きを置いたことの1つは、この規格に使われている新しい用語をトップマネジメントが確実に理解するようにすることでした。したがって、より広いビジネスの視点から見た (business context) リスクと機会の理解を一層深めることに注意を払いました。

「顧客、サプライチェーン、ステークホルダーやその他さまざまな要素に関連する日常の業務で遭遇するリスクと機会に対して感じる『第六感』を十分に活用することです。『リスクと機会』や『ビジネスの文脈 (business context)』が何を意味するのか、そしてそれが実際にはどのような形を取って現れるのかを認識することこそ、私たちが取り組まなければならない重要な事柄なのです」とレインは言います。

CBRE GWS EMEA は2018年の全般的なビジネス目標と新しいビジネス戦略をQHSE プログラムと一致させました。審査に関しては、「したがって、ビジネスが成り立つところと、QHSEプログラムをどのようにビジネスの成長とビジネスリスクのマネジメントに役立てることができるかの結び付きを実証するのは簡単なことでした」とホワイトは言います。

重視した2つ目の点は、従業員が各々の日常の役割を安全衛生に関連付けることによって、より積極的に関与するようにすることです。これには、チームミーティングの際の安全衛生 (H&S) に関する説明会、特定のH&Sメッセージを伝達する際のリスク対応者の関与や新しい考え方の導入などが含まれます。

「従業員に話しかけ、経営層は労働安全の活動はあなた方はまさに毎日やっていることだということを知っています。あなた方にとっては当然のことかもしれないが、あなた方のやっていることは本当にすばらしいことなので、それを大いに売り込みましょうと言いました」とホワイトは言いました。こうすれば、従業員は証拠を洗い出し、審査員にその証拠を提示する自信をもつことができます。

ホワイトは、新しい規格を最初期に採用した組織となるために重要な役割を果たすのはリーダーシップであるということを強調しました。「私たちは、認証審査の際に多くのビジネスリーダーを参加させ、我が社ではビジネスリーダーが安全衛生プログラムを主導していること、自分たちの安全衛生プログラムはビジネスと結びつき、実際にすべてが効果的であることを審査員に実証しました。」

もっとも重要なアドバイス

ISO 45001 の認証を達成するために組織がやらなければいけないこととしてCBRE GWS EMEAのチームが第一に挙げるのは、統合、簡素化とオーナーシップ (責任の所在をはっきりさせること) です。

既存のプロセスに規格を取り込むことは組織にとって利点があります。「単に規格の要求事項を満たすためだけに手順を導入するのはやめるべきです。自分たちのビジネス運営モデルを見て、うまくできていることを見て、それを反映させるべきです」とレインは言います。

ホワイトは、「やっていることは正しくビジネス上の理由に基づいていることをまず確認し、次に、これが規格に沿っていることを確認してください。

「冗漫で、複雑な文書類をつくることは意味がありません」とホワイトは言います。「本当にシンプルにすべきです。簡略にし、人々が理解できるようにしなければなりません。そうすれば物事ははるかに単純になります」。

レインは、人々が自信を持つようにすること、安全衛生のマネジメントに責任を持つようにすることの重要性を強調しました。「なぜなら、究極的には従業員がカギを握っているからです。従業員こそが、よいことを推進し、悪いことが起きないようにすることができる人々だからです」。

経営層が安全衛生の責任を自分のものとしていることも企業にとって益があります。「経営層が、何がリスクか、優先順位をどう付けるか、ビジネスサイクル全般にわたってリスクマネジメントをどのように継続的に改善していくかを知っていれば」とホワイトは言います、「安全衛生、とりわけ45001の視点から見た安全衛生のオペレーション上の真のオーナーシップによって、認証取得を目指す企業にとって物事ははるかに楽になります」。

CBRE GWS EMEA にとって審査機関であるBSI とよい関係を築くことも大切なことです。

「単にチェックリストにチェックマークを入れるのではなく、厳しく、私たちに挑戦してくるような審査員を派遣してもらうことは私たちにとって非常に重要です。BSI は私たちに挑戦してきます。これはよい関係であり、満足しています」とレインは言います。

同社は、従業員の積極的な関与に重きを置いて安全衛生への対応を推し進めることを計画し、顧客やサプライヤーと主要な安全衛生上の情報交換を推進しています。

「現在、私たちは主要部門を拡大しています。ですから、認証プロセスの一部として私たちが定めているのと同じ基準を新しいビジネス分野にも生かすことができるようにしています」とレインは言います。ホワイトは、同社の構造と信念を新入社員の行動に埋め込むことは引き続き優先事項であるということを付け加えました。

「チームとして現在、検討していることの1つは、従業員の積極的な関与をより深めていくための新しい方法を見つけることです。仮想現実 (VR) や拡張現実 (AR) といったテクノロジーをトレーニングプログラムに組み込むことも、従業員に正しく安全な行動をトレーニングするための革新的でおもしろい方法ではないかと検討しています」とホワイトは言います。

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