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「内部監査の緊急課題」–(シリーズ2) よいガバナンスを支えるために内部監査員が実行すべきこととは? (その1)

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「内部監査の緊急課題」–(シリーズ2) よいガバナンスを支えるために内部監査員が実行すべきこととは? (その1)

IRCA ジャパンのテクニカルエグゼクティブであるRichard Green がISO 専門誌、月刊アイソスに連載した「内部監査の緊急課題」のシリーズ2はガバナンスに関する緊急課題です。シリーズ2の (その2) では、よいガバナンスとは何か、よいガバナンスに関する内部監査員の役割は何かを見ていきます。

「ガバナンス Governance」の語源をたどると、古代ギリシャ語で船の舵を取る「操舵手」を意味する言葉に行きつきます。
遡ること、紀元前5世紀、アテネの三段櫂のガレー船は当時、究極の兵器でした。速度が速く、操作しやすく、ふさわしい人が操れば、非常に実戦能力の高い船でした。軍団のそれぞれの船は操舵手に操られているわけですが、操舵手は単に経験豊かな船乗りというだけでなく、海戦に優れ、手本を示すことによりリーダーシップを発揮します。操舵手の役割は、船を危険から守ること、それと同時にチャンスが来たときには逃さずそのチャンスを生かすことでした。

基本的に、これは現代のガバナンスの役割でもあります。
船を座礁させる砂洲や岩礁に代わり、現在のトップマネジメントは、事業戦略に含まれている通り、重大なリスクへの組織の露出を最小化し、迅速かつ効果的に現実の問題を取り扱いながら進路を取ることが必要です。交戦中の敵は、組織の競合相手であり、満足させなければならない将軍たちは組織のステークホルダーであり、最終目的地は企業ビジョンの実現です。

よいガバナンスとはどのようなものでしょうか?

組織のガバナンスがうまく行っているか、そうではないかを評価するためには、監査員はまず「よい」ガバナンスとはどのようなものかを理解していなければなりません。
ISO におけるガバナンスの定義は、「組織が導かれ、指揮され、制御され、説明が果たされる方法」です。つまり、ガバナンスはそれぞれの組織の中心にあるものであり、組織の理念、目的及び信念を内包しています。これが重要であると考えるなら、監査員はよいガバナンスと悪いガバナンスを識別できることが大切です。それでは、組織がよいガバナンスを推進しているということを示唆する指標にはどのようなものがあるでしょうか。

よいガバナンスをもつ組織では;
  • 組織のステークホルダーを考慮して決定した事項がどのような結果となったかについて進んで説明し、責任をもつ
  • ステークホルダーは組織の意思決定のプロセスを追跡することができ、理解することができる
  • 組織の決定事項は関連の法令や判例に適合し、組織の能力に見合っている
  • すべてのステークホルダーのニーズに応えるとともに、相反する利益に迅速、適切かつ敏感に対応する
  • すべてのステークホルダーが、組織の意思決定のプロセスにおいて自分たちの利益が考慮されていると感じている
  • ステークホルダーにとって可能な限り最良な結果をもたらすよう、利用可能な人材を含む、資源及び時間を有効に使用する
  • 主要な決定に影響を受けたり、関心を持つ人たちへ意思決定に参加する機会を与える

残念ながら、必ずしもすべての組織がこれらの特質を示しているとは言えません。

ガバナンスがうまく行かなかったら

ガバナンスに起因する深刻な事件がないまま1週間が過ぎることはほとんどありません。食品安全への脅威、安全衛生関連の事故、欠陥製品、倫理的に不適切な行動など、私たちが長年信頼してきた組織やブランドが突如、好ましくない理由で注目の的になることがあります。
権力の濫用と受け取られる行為や重大な事件が続くのを受け、組織の行動やパフォーマンスの改善に対する社会の要求が高まってきています。本来その組織が奉仕すべき人々の利益よりも自分たち組織の利益を優先するビジネスリーダーに対して現代のステークホルダーはますます不寛容になってきています。不適切な行為があれば、政府、規制当局、株主や一般大衆は、組織を率いる最終責任をもつ人に説明をするよう今までに増して強く求めるようになっています。規則違反をしたり、不必要なリスクを取ったりした人々には制裁金、風評ダメージ、実刑判決が待ち受けています。

よいガバナンスを支える内部監査員の役割

内部監査員は、組織のステークホルダーに代わり、会社のガバナンスを評価する立場にあります。監査員と同じようなレベルで事業にアクセスできる人たちはほとんどいませんから、実際に現地にいることができない人たちの利害が守られるようにすることは私たちに課せられた責務です。

2014年 CQI (Chartered Quality Institute = 王室公認品質協会) は力量のフレームワークを導入しました。このフレームワークはすべての品質専門家、例えば品質役員、品質マネジャー、品質技術者や品質監査員は、ガバナンス、保証及び改善を理解しなければならないということを伝えています。これを理解しやすくするために、CQI は力量のフレームワークの各課題について関連する2つのカギとなる質問を提起しています。


ガバナンスに関連する2つのカギとなる質問は、「経営層の意図は明確化されているか?」と「経営層の意図は目的に合致しているか?」です。私たちは内部監査員として、これらの質問への答えを探さなければなりません。そして、万が一、調査の過程で組織のガバナンスがうまく機能していないと判断したら、勇気をもって対応しなければなりません。CQI のモデルでは、このような場合、監査員がリーダーシップの能力を発揮することを求めています。

次回は

次回は、ガバナンスに関するこの2つの質問「経営層の意図は明確化されているか?」と「経営層の意図は目的に合致しているか?」の答えを考えていくとともに、現在ISO で開発が進められているガバナンスに関する国際規格について見ていきます。

シリーズ2 その2はこちら

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