「内部監査の緊急課題」 –(シリーズ6)今こそ監査員はリーダーシップスキル向上を目指すべき (その2)
IRCA ジャパンのテクニカルエグゼクティブであるRichard Green がISO 専門誌、月刊アイソスに連載した「内部監査の緊急課題」もいよいよ最終回となりました。このシリーズの締めくくりであるシリーズ6は、今まで見てきたさまざまな課題解決のために必須の要素であるリーダーシップに関する課題です。附属書SL に基づくマネジメントシステムにおけるリーダーシップ、そして監査員としてのリーダーシップについて見ていきます。
附属書SL に基づくマネジメントシステムにおけるリーダーシップ
その1で提示した優れたリーダーシップの指標は、ありとあらゆる企業に適用することができるのですが、ISO マネジメントシステムの第三者認証を取得している組織に対してはリーダーシップに関する特定の要求事項があります。
ISOの世界では、リーダーシップに関わる要求事項は組織のすべての階層に適用されるのですが、リーダーシップに関して語るとき、トップマネジメントに焦点を絞りがちです。「トップマネジメント」は附属書SL の21の共通の用語と定義の中に含まれているので、その意味は附属書SL に基づくすべての規格に共通のものです。トップマネジメントは、「最高位で組織を指揮し、管理する個人又はグループ」と定義されています。この場合、認証の適用範囲が重要となります。第三者認証がグループ内の1つの工場のみを対象としているなら、トップマネジメントは工場を管理し、指揮する人々ということになります。しかし、もし認証が組織全体に関連する場合は、トップマネジメントはCEO や組織の役員会ということになります。
だれがトップマネジメントであるかにかかわらず、トップマネジメントには課せられた特定の義務や責務があります。いまやトップマネジメントが実施しなければならない活動があるので、監査員は、トップマネジメントが責務を果たしているかを確認するためにトップマネジメントを監査しなければならなくなりました。
では、トップマネジメントの果たすべき責務とは何でしょうか。
トップマネジメントは、マネジメントシステムに関するリーダーシップとコミットメントを、下記の事項により示すよう求められています。
- マネジメントシステムの方針とマネジメントシステムの目的が確立され、組織の戦略的方向性と整合していることを確実にする
- マネジメントシステム要求事項と組織のビジネスプロセスとが統合していることを確実にする
- マネジメントシステムに必要な資源が利用可能であることを確実にする
- マネジメントシステムが意図した成果を達成することを確実にする
- マネジメントシステムを有効にマネジメントすること、マネジメントシステムの要求事項に適合することの重要性を周知する
- マネジメントシステムの有効性に寄与するよう人々を指揮し、支援する
- 継続的改善を推進する
- その他の関連する管理層が、自らの責任領域においてリーダーシップを示すよう支援する
上記のうち最初の4つは、「確実にする」という言葉で終わっています。これは、トップマネジメントは組織の他の人にその活動を委譲することができるということを表します。つまり、これらが行われたことを確実にしさえすればよいということになります。後ろの4つの活動については、トップマネジメントはほかの人に委譲することができません。これらは自分自身で実施する必要があります。逆にいうと、監査員は、トップマネジメントが自らの責務を果たしていることが確認できる証拠を獲得するためにトップマネジメントを監査しなければならないということです。もしトップが責務を果たしていない場合は、これを報告し、是正処置を取らなければならないということになります。
トップマネジメントにはまた、組織の目的に沿ったマネジメントシステムの方針を設定する義務があります。方針は、マネジメントシステムの目標を設定する枠組みを与え、適用される要求事項を満たし、マネジメントシステムを継続的に改善することへのコミットメントを含むものでなければなりません。監査員は、方針が文書化した情報として存在し、組織内に周知され、必要に応じ利害関係者にも公開されていることを検証しなければなりません。
監査員は、トップマネジメントが組織内の関連するマネジメントシステムの役割について、責任と権限を定め、周知しているということも確認しなければなりません。これには、関連する国際規格の要求事項にマネジメントシステムが適合していることをトップマネジメントが確実にし、マネジメントシステムのパフォーマンスをトップマネジメントに報告する責任と権限を任命していることを確認することも含まれています。
附属書SL に準拠する規格はまた、トップマネジメントは組織のマネジメントシステムを、あらかじめ定められた間隔でレビューし、マネジメントシステムが引き続き適切、妥当、有効であることを確認することを要求しています。監査員は、マネジメントレビュー会議に関連する文書化した情報の内容に注意を払うべきでしょう。附属書SL 準拠の規格はマネジメントレビューで取り扱わなければならない (最低限の) 議事の項目の詳細を規定しています。マネジメントレビューでは、これらの議題とその他の議題 (ビジネスに固有の課題) が検討されていて然るべきと考えます。また、トップマネジメント層からは全員もしくは全員に近い参加があり、ありとあらゆる議事項目が包括的に網羅されている証拠もあることが当然期待されます。これらのうちの何かが不足しているようであれば、十分なリーダーシップがあるか疑わしいということになります。
勇敢であれ
ISO 19011 には、監査員に望まれる行動がいくつも提示されています。これらの行動のうち、トップマネジメントを監査する際にもっとも重要なのは、おそらく「不屈の精神をもって行動する acting with fortitude」というものです。これは、そうすることが必ずしも人の歓心を得ず、場合により、ときには論争や対立を生むことがあっても、責任をもって、倫理的に行動する能力を意味しています。
トップマネジメントを監査するということは、多くの監査員にとって心配の種でしょう。トップマネジメントのうちの、より見識のあるメンバーは、監査されることは自分たちのパフォーマンスをチェックする貴重な機会であり、小さな問題が大きな問題に発展するのを防ぐということを知っています。他方、監査は自分たちの権威に対する脅威であり、自分たちの能力に対する挑戦だと見做すメンバーもいるでしょう。これは理解できることです。批判されるのが好きな人はいません。しかし、選択肢はないのです。トップマネジメントを監査しなければならないのです。ですから、監査員は、経営を担当する人々と面談するときには、プロとして行動することが非常に重要です。監査員は、監査とは価値を与えるものであり、有益な時を過ごしたと相手に感じさせるようにしなければなりません。そのためには、監査員は、トップマネジメントとの面談に先立ち、計画を立て、トップマネジメントが話し合いたいと望むような話題を承知している必要があります。末端の生産ラインにおける些細な問題ではなく、方針、戦略及び目的といった戦略的事項に的を絞るべきです。私たちは、役員室で話されている言葉を理解し、話すことができることを実証しなければなりません。怯えて、監査計画について妥協したり、見当違いになることを自らに許してはいけません。また、プレッシャーを掛けられても、決して、所見について誤った報告をしてはなりません。監査員は楽だなんて誰が言ったんでしょう。
監査員としてのリーダーシップを示す
これまで、(実質上、組織のリーダーシップチームである) トップマネジメントと監査員の関係について私たちは見てきました。私たちは、組織のリーダーたちがステークホルダーのニーズと期待を満たすような形で活動しているかどうかを決定するために何を探したらよいのかを明らかにしました。認証機関にとっては、トップマネジメントが満たさなければならない (つまり、私たち、監査員がミーティングの際にチェックしなければならない) 要求事項が規定されています。他方、認証されていない組織でも、この判断を伝えるのに利用できる指標がたくさんあります。
さて、ここで、被監査者のリーダーシップの能力に対して私たち自身のリーダーシップの能力について考えるときが来ました。監査員であることは非常にやりがいのある仕事ですが、同時に非常に困難な仕事です。プレッシャーがかかり、考えの不一致や意見の相違が起こる可能性が多分にあり、もし提起した所見に事実誤認があることが被監査者側により示された場合、ただちに信頼が損なわれる可能性があります。多大な報酬があるわけでもなく、長時間労働で、努力が常に認められているとはいえない。それでは、どうして監査員をやっているのでしょうか。
私自身に関して言うと、私はいつも、自分が重要な変化をもたらすことにより、自分の働く組織をよりよい場所にしたかったからというのが答えになります。これを達成するために、私は自分のリーダーシップのスキルを意識して向上させ、変化に必要な力をもつ地位の人たちを納得させなければなりませんでした。リーダーシップスキルの向上は、トレーニングと実践経験により達成されます。
附属書SL 準拠の規格が導入されている今、すべての監査員は、自分自身を振り返り、自分自身の能力について正直な査定を行うことに時間を割くべきです。もし、ご自身がメッセージを伝えることにいつも四苦八苦しているようでしたら、今こそリーダーシップスキルの向上を目指すべき時です。
結論
監査における緊急課題について語るこのシリーズでは、監査の役割、特に内部監査の役割が組織にとってどれほど重要かということを力説してきました。非常に多くの場合、内部監査は、認証機関の審査に比べて劣るように見做されてきました。しかし、これは間違った考えです。第三者審査が重要なのは、組織が認証を取得し、維持することができるかを決定するからですが、内部監査は適切に計画され、十分な資源が与えられていれば、組織に対する潜在的な見返りはもっとも大きいのです。ISO 19011 の新しい版では、これをどのように達成するかについての優れた手引が提供されていますから、監査プログラムを策定し、監査を実施し、また、監査員の力量を評価する人たちはISO 19011 の新しい版を読まれるようお勧めします。
私たちは、監査員として常に自分たちの働きに見合うだけの評価を受けているとは言えませんが、正直なところ、幾分かは私たち自身のせいであることは間違いないでしょう。私たちは常によいパフォーマンスを上げているとは限りませんが、それはときには不十分なトレーニングと指示のせいですし、また、よいパフォーマンスを上げたときにもいつも成功を声高に主張するわけではないので、私たちがよくやっているということが組織内で広く知られていないのです。未だに、私たちは、同僚を捕まえて、間違いを探し出そうとする警察官のようなものと思われることがしばしばです。私たちはこの見方を変えていく必要があります。私たちは、同僚の仕事がお粗末だと示したいがために同僚の間違えを見つけようとして、せっせと働いているわけではありません。実際には、私たちは、他の従業員グループのだれもできない方法、問題がふとしたきっかけで大きな問題に発展する前に見つけ出すというやり方で組織を守っているのです。見識のあるトップマネジメントは、内部監査は自分たちや組織をトラブルから守っていることを知っているので、内部監査を活用しているのです。
謝辞
お忙しい中、このシリーズをお読みいただきありがとうございました。このシリーズをおもしろかったと思っていただき、実際に役立てていただくことができれば幸いです。しかし、何よりも、このシリーズによって、監査員は組織にとって非常に価値のあるスキルと知識をもつ重要なビジネスプロフェッショナルであるということを監査員の皆様ご自身が確信していただけたらと思います。このことを忘れないでください。そして、ご所属の組織にもこのことを忘れさせないようにしてください。監査員としてのキャリアにおける皆様の成功をお祈りしています。
リチャード・グリーン