監査から説明責任を引き出すには―根拠と証拠の提示
Lead Auditor であり、Accredia (アクレディア) の審査員、コーチ兼トレーナーのRiccardo Bianconie (リッカルド・ビアンコーニ) 氏は、監査プロセスにおいては注意深く聞くことがいかに重要かを概説し、また、組織の取締役会とプロセスマネジャーが説明責任を果たすことを助ける監査にするための方法を提唱しています。
監査の価値とは?
監査の価値は、運用上の管理策、製品及びサービスの仕様、法的または契約上の義務、そしてそれらが周知され、組み込まれ、適用される方法にどのような不一致があるかを明らかにすることにあります。
監査は、業務レベルとトップマネジメントが意思疎通を図るための非常によい方法でもあります。監査では、両者の間にしばしば存在する多くのフィルターを通ることなく、関連性のある重要な情報が得られ、時には、本当に必要な部署に特別な予算とサポートが得られます。
監査員がこのような情報、すなわちプロセス、製品、またはサービスの不整合や非有効性を示す「証拠」を見つけた場合、組織がこれらの問題に対する正しい行動の「答え」、すなわち成功の基盤であるコミットメントと説明責任をいかにして得ることができるかということが問題となります。
監査が効果的に行われ、組織が納得できる答えを得るために、どのように監査を実施すべきかは重要な問題です。監査プロセスを設計する際の最も重要なステップの 1 つは、目標を設定し、監査チームが監査プロセス全体を実行する力量を備えているかを確認することです。
ただ聞くのではなく、傾聴する
まず、力量に焦点を当てましょう。監査プログラムマネジャーは監査員に、プロセス、マネジメントのテクニック、テクノロジー、リスク、および管理策に関する知識を求めます。これらは主要な問題と考えられています。まさにこのアプローチは、監査の設計をする上で最大の失敗つながる可能性があります。技術やマネジメントの能力は必要ですが、それだけではありません。
では、監査とはいったい何なのでしょうか。監査 (audit) の語源であるラテン語の「audire」は、「聞く」という意味です。したがって、監査とは、すべてのコミュニケーション技術の中で最も重要なツールである「傾聴する listening」ことをマスターしなければならないプロセスなのです。
傾聴するとはどういう意味でしょうか?動詞「聞くhear」と「傾聴する listening」には違いがあります。「聞く hear」は、誰かが聴覚を持っているということを意味します。言葉、音、または音楽を知覚できるかということです。音や言葉が喜びや意味をもつときに限り、これが傾聴すること (listening) へと発展します。
傾聴とは、人に「波長を合わせて tuned in」いる、あるいはお互いに信頼し合っていることが前提となります。監査員は、被監査側の心に寄り添い、監査報告を行うときには報告に対する被監査側の内なる反応を考慮に入れるべきです。 これは「非技術的スキル」の領域です。
監査員のトレーニング、選択、資格認定においてこの能力が適切に考慮されることはめったにありません。トレーニングコースの中で、このような能力の構成要素を神経言語プログラミング (NLP) トレーナーなどのコミュニケーションの専門家が教えることはめったにありません。この能力に十分な時間が割り当てられることは稀です。教室の外に出るや否や、そのような学習はすぐに忘れられてしまいます。
受け止め方
2つ目の、そして同様に重要な問題は、自分について他の人が判断を下すことについて、私たち全員が抱く感じ方です。
これは、コミュニケーションスキルに関連する非常に現実的な問題です。被監査者にとって、不適合の声明とは、自分の能力不足を指摘されることに他ならないのではないでしょうか?
多くの場合、組織では、プロセスの責任者が指摘事項をよりソフトな分類とするために奮闘したり、交渉したりしているのを目にします。それが甘い格付けの問題が存在する理由です - 被監査側の要求する好意に応えるため、監査員が監査所見を不当に分類してしまうのです。
被監査者にとって、指摘事項の分類は自分の沽券に関わる問題と捉えられがちであり、また同時に、取締役会で自分を正当化するときに関わってくる問題でもあるのです。それは、ボーナス及び/または仕事で優秀なプロフェッショナルとして認められるというご褒美を失うことを意味するかもしれません。
監査所見の伝え方によって、被監査側が監査の過程で苦しむことが多々あるのも事実です。この状況によって、怒りの反応と組織全体に関する悪い答えが導かれ、いやなムードと間違ったマインドセットが被監査側の組織の行動不良につながります。
監査員が悪いのでしょうか?まったくそんなことはありません。問題は、監査を終了するために行われる手続きです。不適合という言い方は、時に監査プロセスを拷問として認識させてしまうことになります。
では、何を変える必要があるのでしょうか?その答えは、この最終会議でのアプローチを変え、「拷問」を監査員と被監査側の両方の説明責任と専門性を高める機会に変えることです。
危機的状況の発見
監査は、危機的な状況を見つけ出し、整理するのに役立ちます。危機的な状況として、次の 4 種類を考慮する必要があります。
- 刑法に違反する行為
- 人または他の資産を、安全またはセキュリティ上の差し迫ったリスクに過度にさらす状況
- 民法に違反するが、個人または資産にとって差し迫って重要ではないもの
- ビジネスに損失 (評判と信頼性、人々の関与、資産または製品またはサービスの価値の喪失、競争力の喪失) をもたらす可能性のある、未知の、あるいは適切に管理されていないリスク
最初の2つについては、発見したら、即座に封じ込めの行動を起こさなければなりません。このようなリスクの高いケースでは、言葉遣いや認識がどうのこうのと言っている場合ではありません。ともかくそのような状況を止めることが肝要です。事態を収拾すれば、他の事態と同じように管理することができます。
次の2種類の監査のアウトプット (そして封じ込め後の最初の2種類) は、最も頻繁に発生すると考えるもので、より「スマートな」コミュニケーション形態を採用する必要があるものです。 この「スマート」アプローチにはどのような効果があるでしょうか?
その答えは、取締役会と管理職の説明責任 (accountability) を向上させ、あらゆる組織分野における真の改善に影響を与える優れたマインドセットにつながるということです。
説明責任の向上
私たちは、この説明責任の向上にどのように貢献することができるでしょうか。1 つの方法は、監査に新しい終了のフェーズを導入することです。終了のその段階では、所見は分類せずに、それぞれの所見をよりよく理解するために、必要な証拠によって裏付けられた、簡単な説明をそれぞれ述べるようにする必要があります。
その後、取締役会、トップマネジメント、プロセスの責任者に対し、状況を分析し、調査を深め、監査報告書に描かれている状況に実際にどのようなリスクが紐づけられるかを決定し、最終的にその状況の分類 (格付け) を行うように求めます。
次に、説明責任を果たす回答をするための場が組織に与えられ、監査プログラムマネジャーは主任監査員の助けを借りて、これらの回答を評価します。
深い調査に裏付けられた優れたリスク分析は、根本原因分析を行うという決断につながるか、あるいはまず是正処置を生み出す可能性のある事実を考慮することにより、最終的に状況を好転させることにつながるのです。このパターンに従わないという決定の正当性は明確に示されなければならず、組織が出した答えは説明責任を果たす上で極めて重要なポイントになるでしょう。
この方法なら、誰も言葉や判断によって傷つくことはありません。問題領域の責任者は、状況を分析し、適切な方法で問題を解決する能力を示す役割を担うことになります。こうすれば、マネジメントシステムの真の成熟につながります。
説明責任は取締役会だけでなく、管理職やプロセスの責任者にも課せられていることが明確になり、組織のアウトプットの質に関する最終的な責任は彼らに帰することになるでしょう。 これができない場合、不適合は単一の不具合ではなく、マネジメントシステム全体に影響があるでしょう。
このアプローチにおける「厄介の種」はどこにあるのか?
答えは、監査チームに求められるのは、組織にとって本当に意味を持つ重大な状況の証拠を記録し、監査チームの懸念を裏付ける根拠と証拠を示すことであるということです。判断しないということは、監査員にとっては大変なことです。
組織にとってもっとも難しいのは、技術上及び管理上のノウハウを明確に示すことでしょう。最初の所見云々ではなく、体系的、包括的、かつ説明責任を果たせる方法で答える能力こそ、本当に評価される要素でしょう。