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監査における言葉の壁を取り払う

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監査における言葉の壁を取り払う

>quality.orgに掲載された英文記事はこちら

半導体製造装置メーカー・株式会社ディスコ 品質保証部 ベンジャミン・クリフォード (Benjamin Clifford) さんが、今年のCQI 国際クオリティ賞の新人賞ファイナリストに選出されました。本稿では、クリフォードさんが監査に携わるようになった経緯と、多言語監査プログラムがどのように組織の水準を向上させているかについて解説します。

品質活動への参加を阻む障壁

W・エドワーズ・デミング博士やジョセフ・M・ジュラン博士といった品質マネジメントの祖は、真に品質向上活動の効果を発揮させるためには、従業員の全面的な参加が不可欠と指摘しています。しかし、組織が従業員の参加を促すプロセスを確立し、参加を阻む障壁をすべて取り除いて初めて、従業員は品質向上活動に参加できます。

最も多く見られた障壁は、コミュニケーション上における問題でした。

コミュニケーションの問題は、「情報交換の4 つのミス」に分類することができます。

  • 伝達ミス: 情報が十分に伝わらないこと
  • 誤解: 情報を正しく理解できないこと
  • 誤報: 正確性が検証されていない情報のこと
  • 不当表示: 意図的に虚偽または誤解を招くような情報を提供すること


これらは、製品不良や欠陥の原因の大半を占め、品質向上活動への従業員の参加を躊躇させる要因となっています。私は、お客様や海外拠点の従業員、日本の同僚と日々接する中で、これらの要因を排除し、品質マネジメントシステム全体のコミュニケーション向上に積極的に取り組んでいます。

その中で、最も効果的だったのは、監査プログラムの「多言語化」です。

監査への道のり

株式会社ディスコは、1937 年に設立された半導体製造装置・精密加工ツールのメーカーです。当社の製品は世界市場の約80%を占めており、15 カ国に50 以上のオフィスとおよそ6,000 人の従業員を擁しています。私は2017 年に品質保証部門に異動して以降、品質マネジメントシステム全体のコミュニケーションの改善を目標としています。

私は日本語と言語学が専門で、2015 年に翻訳・通訳として入社しました。社内コミュニケーションの媒介役として活動していく中で、私は入社後すぐにコミュニケーションが品質に与える影響の大きさに気付きました。最も顕著に表れたのが、海外拠点の内部品質監査での通訳です。

質疑応答のたびに通訳する必要があったため、コミュニケーションに2 倍の時間がかかり、また、通訳者 (私) も被監査者も品質に関する専門用語や質問の背景にある概念を理解していなかったため、監査員の質問の意図が伝わらなかったのです。私が監査を実施できれば、どんなにスムーズだろうと思いながら監査現場を後にしました。その後、品質保証部で人員募集があり、すぐさま応募し異動が叶いました。

その後1 年間、主任監査員になることを目標に、品質関連の学習資料を貪るように読みました。自費でジュランの『品質ハンドブック』を海外から輸入する形で取り寄せました (この投資は後に10 倍になって返ってきました)。いくつもの障害を乗り越え、ISO9001 や監査手法など、日本語での社内テストに合格しました。

ディスコの監査員養成プログラムはとても厳しいのですが、私の場合さらに厳しくなりました。会社は、英語対応のできる監査員の必要性を認識していた一方、英語を話す監査員一人だけで監査が完結するリスクも把握していたからです。日本語を母国語とする監査事務局には、私の監査所見の正確さと適切さを確認するのには困難がありました。

そのため、英語を母国語とする私がISO 9001とISO 19011 の概念を完全に理解しているか、必要な力量とコミュニケーション能力を有しているかについて、監査事務局は徹底的に確認する必要がありました。しかし、監査員養成プログラムの難易度が人より高かったにもかかわらず、私はこれまでのどの社員よりも早く主任監査員資格を取得できました。むしろより多くの課題があったことでよりよい監査員になれたのではないでしょうか。

私が主任審査員になり、監査プログラムを (通訳が不要となるように) 多言語化した年には、海外拠点での不適合件数の39%増加が確認されました。ISO9001 の規格に精通し、英語で対応できる監査員が在籍することで、海外拠点の業務に潜むリスクを特定する、より効果的な監査を実施できるようになったのです。

さらに、海外拠点が積極的に内部監査に参加するようになりました。過去の監査では、常に通訳を介して意思疎通を図るなど非効率的だったため、海外拠点から「時間の無駄」と思われることも少なくありませんでした。

しかし、言葉の壁がなくなったことで、今では「ちゃんと話を聞いてもらっている」と感じているようです。また、監査に積極的に参加することで、監査は業務上の改善点を洗い出す手段であると捉えるようになり、自律的な改善サイクルを構築できています。

品質を認識する

2022 年CQI 国際クオリティ賞の新人賞ファイナリストに選ばれたことを光栄に思います。異国の会社で品質保証の仕事をするのは大変なことですが、その努力を認めていただき、本当に感謝しています。

私と同じようなキャリアを検討している方には、品質監査員研修の受講と、ジュランの『品質ハンドブック』の購入を強くお勧めします。ISO9001 の規格に関する深い知識を得たことで、監査員としての能力を高めることができただけでなく、仕事を多面的に見て向上できるようになりました。私の仕事への取り組み方は常に、全体像を考慮したプロセスアプローチをしながら、潜在リスクを分析し、客観的な証拠に基づいて意思決定を行っています。

5 年前は、自分が品質に関わる仕事をするとは思ってもいませんでした。今や、他のことをやっている自分が想像できません。

CQI レポート The Future of Work 未来の働き方
IRCAテクニカルレポート:ISO22000:2018