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能力実証型審査 - 持続的成功を確かなものとするために

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能力実証型審査 - 持続的成功を確かなものとするために

2025年、4月、CQIの監査ネットワークおよびデミング・ネットワークの活動を日本の登録メンバーのために日本で展開することを目的として、有志により当該ネットワークの日本サブグループが結成されました。日本サブグループでは、ワーキンググループ活動として、東京大学名誉教授・飯塚悦功博士が提唱される、「能力実証型監査(Capability Demonstration Audit)」に基づき、組織の競争優位と組織改善に貢献する監査のあり方を検討しています。本稿では、日本サブグループのメンバーが、「能力実証型監査」の概念を概観します。

こちらの記事は世界に向け、CQI のウェブサイトにも掲載されています。

日本サブグループについて

CQI監査ネットワークおよびデミング・ネットワークでは、2025年にJapan Subgroupを設立し活動を開始した。 参加する品質専門家はISO認証制度における「監査のあり方」について、現行制度の課題を感じている。その中で飯塚悦功博士の行った、組織の持続的成功(Sustained Success)、及びこの考え方を展開する「能力実証型監査(Capability Demonstration Auditing)」の考え方に関する2つの講義を受け、ワーキンググループで実現に向けた活動を行っている。

監査は如何にあるべきか

品質マネジメントの成熟度のグローバルな向上、組織の複雑化、そして前例のない速度で進む社会技術的変化は、従来の「適合性重視型監査」が前提としてきた仮定を崩壊させつつある。

認証監査は歴史的に、文書への適合、手順の遵守、是正処置の証拠に重点を置いてきた。しかし、このようなアプローチでは、今日の動的な環境に直面し、組織が期待する持続的成功に、貢献することは困難になっている。

飯塚悦功博士による「能力実証型監査」に関する日本語の参考文献で強調されているように、マネジメントシステム認証は、単なる適合確認ではなく、組織が長期的なパフォーマンスを可能にするマネジメントシステムを設計し、運用し、継続的に改善する能力を評価し、公式に認証する社会的仕組みとして理解されるべきである。 

この視点は、監査の目的を、文書化されたシステムの「存在確認」から、変化する条件の下で価値を持続的に提供できる組織の能力を評価し、組織の期待に応えるものに進化させることを求めている。

 

持続的成功

変化する事業環境に適応し続け、顧客やステークホルダーに受け入れられることが持続的成功である。持続的成功のためには、事業構造を理解した上で、どの能力で競争優位を維持・強化するか、その能力をマネジメントシステムにどのように実装するか、レジリエンス、環境変化への適応・イノベーションし続けることも求められる。

能力実証型

従来型の監査は、定められた要求事項への適合証拠を確認することが一般的である。すなわち、手順の有無の確認、文書のレビュー、記録のサンプリング、不備の特定などである。これは一定の価値を持つ一方で、以下のような本質的な限界を抱えている。

  • 過去の実績に焦点が当たり、将来への備えが不十分である
  • 不適合を回避すること自体が目的化し、改善を促進しにくい
  • 組織の実質的な能力よりも文書を評価し、形式的な適合を実質的成果よりも優先してしまう

飯塚博士は、現在のマネジメントシステム認証の実務が、ビジネス上の圧力、不適合指摘への忌避、低負荷のサーベイランス監査への期待などを背景として、文書化された適合性の「準形式的評価」に陥りがちであると指摘している。その結果、実質的なマネジメント能力を構築しないまま、証明書を取得する組織が生まれてしまう。 

しかしながら、組織は持続的成功を希求している。

従って、これに応える現代の認証は持続的成功を齎すことのできる組織能力の証明として再定義されなければならない。
これは、監査の視点を「どのような文書が存在するか?」から「組織が「持つべき能力・持てる能力」を明確にし、それがシステムに組み込まれて適切に運用されているか?」へと転換することを意味する。 

監査では、マネジメントシステムが次の点を満たしているかを評価する必要がある。

  1. 目的志向:組織の戦略的意図や価値提案と整合しているか 
  2. ケイパビリティ基盤:成功に必要な強みを確保する構造になっているか
  3. 将来志向:適応、イノベーション、問題の再発防止・未然防止能力を示しているか

この転換により、監査は過去を取り締まるだけの活動ではなく、過去および現在のデータを確認し、それを用いて組織の未来を確かなものにするための手段となる。

能力実証型監査の定義

能力実証型監査は、「何を」「どのように」評価するかを再定義する。
プロセス成果物への適合を確認するのではなく、将来のパフォーマンスと持続的成功に必要不可欠な能力を、組織が備えているかどうかを実証することを目的とする。 

飯塚博士は、能力実証型監査を次のように定義している。

「規格の意図に適合し、期待されるパフォーマンスを継続的に提供できるマネジメントシステムを、組織が設計・運用・改善する能力を有していることの証拠」 

このモデルにおいて、監査の目的は不適合が存在しないことを証明することではなく、能力が存在することを証明することであるが、組織自身が、マネジメントシステム(MS)が成功に必要なケイパビリティを体現していることを、体系的に実証することが期待される。 

監査員は、監査が本質的にサンプリングに基づく活動であることを踏まえ、「重要性」と「代表性」という視点から特定されたMSの重要要素に注目して、能力を評価する。

能力実証型監査が評価するもの

能力実証型監査では、次の2つの中核的な問いを評価する。

  • 将来のパフォーマンスおよび持続的成功に必要な能力を組織は備えているか
    能力には、技術的力量、組織文化、学習能力、リスク感知能力、リーダーシップのコミットメント、戦略的整合性、レジリエンス、イノベーション、プロセス能力などが含まれる。
  • マネジメントシステムは、現在の不適合を是正するだけでなく、将来の不適合を予防できる保証を提供しているか 
    是正処置は過去から学ぶことを示すが、予防は将来をマネジメントする能力を示す。


成功のためには、組織が期待するMSの能力モデルを明確に定義し、監査員と被監査組織の間で「有効なMSとは何か」について共通理解を持つことが不可欠である。なぜなら、QMSの有効性は、事業構造、価値提供、競争優位性、環境変化との整合性に大きく依存するからである。

持続的成功との関連性

飯塚博士は、「持続的成功」を:
「事業環境の変化に効果的に対応しつつ、顧客価値を継続的に提供している状態」
と定義している。

持続的成功には、次のような能力が求められる。

  • 事業構造:ステークホルダーとその関係性、特にバリューチェーンの理解
  • 顧客価値:何を提供・販売しているのかの明確化
  • 競争優位性:成功を決定づける組織の強みの把握
  • システム化:能力を日常のシステムプロセスに組み込むこと
  • 変化とイノベーション:変化やディスラプションへの建設的対応

したがって、監査は「書類が整っているか」ではなく、「事業戦略と整合したマネジメント能力が実装されているか」を評価しなければならない。

持続的成功の観点から、監査は次の点を評価する必要がある。

(a) ISO規格の意図を満たす能力
条文ごとの形式的適合ではなく、特にISO 9001:20154.14.3に示される戦略的文脈、利害関係者のニーズ、適用範囲の考え方といった根本原則の達成。

(b) QMSを革新・適応・変革する能力
静的なシステムでは将来のパフォーマンスは保証できない。システムは継続的改善、能力開発、変化からの学習が可能でなければならない。

(c) パフォーマンスを持続できるという信頼性
その信頼は、過去の実績ではなく、実証された能力に基づかなければならない。

監査の目的の再定義

能力実証型監査は、監査を「従来型」から組織の未来を監査する活動へと変革する。
従来型監査(traditional audit = TA)は、文書確認、適合性の証明、不適合回避、記録サンプリング、過去の検証を中心とする。
一方、能力実証型監査(CDA)は、価値創出能力の評価、適合を確認しつつ能力を証明すること、強みの実証、記録および能力ドライバーのサンプリング、そして過去の学びを将来の保証につなげることに焦点を当てる。

CDAとTAの主な相違点は以下のとおりである。

  従来型監査(TA 能力実証型審査(CDA
基本特性 規格(ISO9001等)への要求事項への適合・不適合の有無確認が中心 事業の持続的成功に必要な組織能力を備え、発揮できているかの実証
監査基準 規格要求事項への適合が、文書・運用の証拠で立証されていること 事業目的達成に必要な能力が、MSに実装・発揮されていることを実証できること
評価視点 要求事項に「書いてあるか」「実施しているか」が目的化しやすい 「何のためのMSか」「何を達成する能力か」という目的起点で評価
被監査組織の姿勢 不適合を出さないことに注目し、受動的に対応しがち 組織自らが必要な能力と仕組みを説明・実証する能動的姿勢
トップマネジメントの扱い トップインタビューを実施するが、その内容が部門別監査や焦点設定に十分反映されないことがある トップの事業観・戦略・課題認識を起点に、審査全体の焦点や部門確認に一貫して反映
審査員と組織の関係 審査員が基準に照らして指摘する「指摘型・対立的」構図になりやすい あるべき能力像を共有し、被監査側が能力を主体的に説明・実証する対話型の「認識共有型」


このように、監査は組織改善と競争優位をもたらす戦略的ツールとなる。

謝辞
日本サブグループのメンバー一同は、東京大学名誉教授であり、元デミング賞審査委員会委員長、卓越した品質の専門家である飯塚悦功博士に、心より感謝の意を表したい。本稿の執筆および最終化にあたり、博士から頂いた卓越した洞察、示唆に富むフィードバック、そして計り知れないご指導に深く感謝する。
CQI レポート The Future of Work 未来の働き方
IRCAテクニカルレポート:ISO22000:2018