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今こそ遠隔 (リモート) 審査/監査を

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今こそ遠隔 (リモート) 審査/監査を

新型コロナウイルス (COVID-19) のパンデミックは近年では前例がない事態であり、比較的新しい取り組みであるマネジメントシステムの評価及び認証にとっては初めての重大な試練となっています。s2a2s Ltd. のオーナーでありプリンシパルコンサルタントであるポール・シンプソン Paul Simpson, CQP FCQI が適合性評価組織の遠隔 (リモート) 審査に伴うリスクと機会について検討しています。

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第三者認証審査と遠隔審査の要求事項

現在のマネジメントシステム評価認証のシステムは、第三者認証機関が審査員を認証顧客のサイトに派遣し、審査を実施することにより成り立っています。審査では、スタッフと顔と顔を合わせて面談し、現場で稼働中のプロセスを観察します。

現在、コロナウイルスの感染に焦点が当てられていますが、そのほかにも環境コスト、時間の浪費、そして審査員が顧客のサイトまで車を運転していくことに伴う安全衛生上のリスクがあります。遠隔審査を効果的に運用することができれば、認証に関連するこれらのリスクをすべて排除することができます。

認定された認証機関に対する要求事項を提供する規格は 『ISO/IEC 17021:2015 適合性評価 – マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項』です。この規格は、2011年版以降、認証活動には遠隔審査が含まれるとしています。現地審査の実施に関する要求事項への注記に、「In addition to visiting physical location(s) (e.g. factory), ‘on-site’ can include remote access to electronic site(s) that contain(s) information that is relevant to the audit of the management system.  物理的な場所(例えば,工場)への訪問に加え, 現地 には,マネジメントシステムの審査に関連する情報を包含している電子的なサイトへの遠隔アクセスを含めることができる。」という記述があります。

ISO/IEC 17021の最新版 (2015年版) では引き続き遠隔審査について述べられていますが、評価活動の大部分は対面で行われるという前提で現地審査の要求事項が主となっています。

認定機関と認定審査

対人間の距離 (social distancing) が必要であり、不要不急以外の移動は避けなければいけないという状況下で、認定機関は、試験及び校正機関のためのISO/IEC 17025と認証機関のためのISO/IEC 17021を含む適合性評価規格に対する組織の認定を続けています。新型コロナウイルスに関連して、UKASの3月17日のアップデートでは、 UKAS はすべての評価を遠隔で実施し、市場に適切なレベルの信用と信頼を提供するとしています。この措置は、少なくとも 2020年5月31日*まで継続するということです。この期間は継続的なレビューの結果、変更の可能性があります。
* 3月30日付のアップデートで期間が2020年7月31日まで延長されました。

国際認定フォーラム (IAF = International Accreditation Forum) の『ID3 認定機関、適合性評価機関及び認証された組織に影響を及ぼす非常事態又は特殊な状況の管理に関する参考文書』(英語版) (日本語版) のガイダンスに従って、認証機関は『ISO 9001:2015 品質マネジメントシステム』などのマネジメントシステム規格に対する認証をサポートするための遠隔審査を実施する方法を模索しているようです。移動制限などの「非常事態」に対応するためのIAF ポリシーでは、認定機関に対し、認定を継続するリスクを評価することを要求しています。認定機関はマネジメントシステムが引き続き有効であることを検証するための短期的な代替の方法を定義する必要があります。

第三者審査の必要性

世界的な規模のパンデミックの脅威は、長年、企業のリスクマネジメントにおける検討事項でした。クライアントのところに要員を派遣することに収入のかなりの部分を依存している認証機関のような組織にとって、パンデミックとそれに続くロックダウンによる影響は破壊的です。

それではなぜ、評価の継続性を確認し、認証に引き続き信頼を提供する余地がなくなったのでしょうか。信頼が必要でなくなったわけではありません。むしろ、世界がパンデミックと格闘しているときこそ、信頼は必要とされています。個人保護具や医療機器はまさに、第一線のスタッフと患者を今後、数週間、数か月にわたり安全に保つために必要な規制適合評価の2つの領域です。

認証業界におけるICTの活用

認証業界は、新しいテクノロジーの採用を急いではいませんでした。なぜなら評価活動の大部分は現地で行われることが当然とされていたからです。しかし、IAF は『IAF MD 4 認証審査/認定審査を目的とした情報通信技術 (ICT) の利用に関するIAF 基準文書』(英語版) (日本語版) を通じて、遠隔審査の要求事項を公開しています。MD4の序文で、IAFは、適合性評価をより効果的かつ効率的に行うために情報通信技術 (ICT) が提供する機会を活用することが重要であるとしています。この文書では、第三者マネジメントシステム審査や製品適合審査の観点から、さまざまなICTツールについて説明しています。

遠隔審査と現地審査のバランスも、IAFのMD5:2019 (日本語版) で検討されており、品質、環境及び労働安全衛生マネジメントシステムの審査時間の決定について説明しています。この文書の箇条2.1.1 では、すべての種類の審査の審査時間には、認証顧客の (物理的または仮想の) 場所における現地審査の時間と、計画、文書レビュー、認証顧客の担当者とのやり取りのための時間と報告書の作成といった現地外の活動の時間が含まれると記されています。

遠隔審査がすぐに採用されたということは、これが満たされていないニーズ、つまり潜在的なニーズはあったのに、実現されていなかったことを示しています。私は、最近行われた2つの遠隔審査で第三者審査のプロセスが正常に完了した例を知っています。審査された組織のどちらも、審査は信頼できるものであり、自分たちにとって有益であったと信じています。いずれの場合も、テクノロジーへのアクセスとテクノロジーの利用の初期トラブルとも言うべき問題はありましたが、それらは克服され、審査プロセスに大きな障害は発生しませんでした。

遠隔監査のリスク及び機会

マネジメントシステム規格の認証の現行のプロセスが完璧なものであるとするなら、遠隔審査への移行は新しいリスクをもたらすことになります。そして、注目されているのは認証の信頼性と認証業界です。ISO 9001:2015を担当するISO の技術委員会であるISO TC 176は、認証機関やマネジメントシステム規格の認証に関連するその他の機関による規格の利用の信頼性に危惧の念を抱いており、ISO 9001ブランドの一貫性をあらゆる観点から検討するタスクグループをつくりました。これら信頼性に関わる問題があるということは、遠隔審査で期待される機会を提供するためには、テクノロジーの利用についてさらなるリスクの評価とリスクの確実な軽減が求められているということを意味します。

ISO の監査に関するガイダンス文書である『ISO 19011:2017 – マネジメントシステム監査のための指針』では、適切な監査方法を決定する責任は監査プログラムをマネジメントする人にあるとしています。監査プログラムをマネジメントする人は、定義された監査目的、監査範囲及び監査基準に応じて、監査を効果的かつ効率的に実施するための方法を選定し、決定する必要があるということです。

監査は、現地で、遠隔で、あるいはそれを組み合わせて実施することができます。これらの方法のどれを使用するかについては、適切なバランスをとり、とりわけ、関連するリスクと機会を考慮する必要があります。

遠隔審査の信頼性に対するリスクが高い適合性評価の領域があります。航空宇宙や医療機器など、リスクの高い産業では、(顧客の) 業界が調達する最終製品及びサービスの信頼性確保のためには、常に「実地で任務遂行する部隊」の要素があります。例えば、ポリ・アンプラン・プロテーズ (Poly Implant Prothèse = PIP) の豊胸用シリコンのスキャンダルは記憶に新しいものです。

認証業界が遠隔審査に二の足を踏む理由

業界が、少なくとも一時的に遠隔審査の使用に踏み切ったときに、なぜ認証機関はこの機会を捉えなかったのかというその他の理由について検討してみる価値はあります。理由のいくつかは以下のようなことだと思われます。

  • テクノロジーへのアクセス:審査は審査側と被審査側の協力がなければ成り立ちません。協力して審査を行うために利用できる複数のハードウェアとソフトウェアがあり、それを用いることにより、遠隔からの面談や電子 (及び他の) 文書のレビューを実施することができます。適合性評価機関は、自分たちのサービス提供のためには信頼できるソリューションにアクセスする必要があります。ISO の適用性の原則に照らせば、(認証機関が) 認証を求める組織にそのための多大なコストの負担を要求することはできません。
  • 信頼性:テクノロジーによるソリューションには、信頼性の高いハードウェア、ソフトウェア、さらにインターネットベースのソリューションの場合には、無線/電話及びブロードバンドのサービスが必要です。
  • 力量:遠隔審査には新たな力量と、今までとは別の方法を開発できる力量が必要です。審査員には以下が求められます。

◊ 選択されたテクノロジーによるソリューションを使って仕事ができる
◊ 遠隔から面談を実施する際には、言葉や視覚的な手掛かりを拾い上げることが難しいが、これに対応できる
◊ サンプルを選定し、審査証跡を追跡するための新しい方法を開発する必要がある。サンプルは代表的なものであり、自ら選び、審査プロセスを掌握し続けなければならない。

パンデミック後の遠隔審査の活用


パンデミックの影響が遠のき、遠隔審査が差し迫ったニーズではなくなったとき、私たちは適合性評価機関に圧力をかけ続ける必要があります。認証機関と認定機関は、今日のインターネット接続時代に適した状態に留まり続けなければなりません。遠隔審査が将来の適合性評価スキームの礎石となるように、審査プロセスのすべての側面を調整していかなければなりません。

遠隔審査の利用が増えることにより、適合性評価のリスク及び機会が生まれます。審査活動の信頼性を、少なくとも現在のレベルまで確保できれば、実証されたテクノロジーから現在実現している効率性を把握することができます。

CQI レポート The Future of Work 未来の働き方
IRCAテクニカルレポート:ISO22000:2018