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全員参加の改善活動実現のために: 株式会社ディスコにおける事例 – PIM 対戦観戦記

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全員参加の改善活動実現のために: 株式会社ディスコにおける事例 – PIM 対戦観戦記

IRCAジャパンのOEA (Organisation Employing Auditors) 組織である株式会社ディスコは、半導体製造をはじめとする精密加工に使われる装置の設計製造販売と関連サービスを提供する企業です。株式会社ディスコでは、2003年より、PIM (Performance Innovation Management) と呼ぶ活動を導入しています。この活動を含め、ディスコ社では、トップマネジメントから、一般社員まで、全員が積極的に参加することが自然と促される仕組みが構築され、本社のみならず、国内の各工場や世界各地に広がる支社でも活発に活動が行われています。そして、その活動の中でもほかに例を見ないユニークな試みがPIM 対戦です。

組織が存続し、成功し続けるために

組織が成功し、成功し続けるためには何が必要でしょうか。組織の内外の状況は刻々と変わっています。変化する状況を受け、改善し、変化し、進化し続けることこそ、組織が存続し、成功し続けるためのカギとなります。

では、組織が改善し、変化し、進化し続けるためには何が必要でしょうか。

製品及びサービスのみでなく、事業活動全体、組織自体のクオリティ向上による持続的成功達成への指針を提供する『ISO 9004:2018 品質マネジメント 組織の品質 持続的成功を達成するための指針』の「箇条11.2 改善」には、改善について次のような手引があります

改善とは、パフォーマンスを向上させる活動である。………

組織は、次の事項によって、改善を組織文化の一部として確実に確立することが望ましい。
a) 人々が改善の取り組みに参加し、その達成の成功に貢献するための権限移譲
b) 改善を達成するために必要な資源の提供
c) 改善に対する表彰制度の確立
d) 改善プロセスの有効性及び効率を改善するための表彰制度の確立
e) 改善活動へのトップマネジメントの積極的参加

では、どうすればこれを実現する改善の組織文化を醸成することができるでしょうか。株式会社ディスコの取り組みはそのヒントになるかもしれません。

株式会社ディスコにおける2つの仕組み


株式会社ディスコには、例えば「企業活動すべてを一級のものとし、わたしたちの存在が社会・ステークホルダーから歓迎されるようになる」と明記された、ディスコの普遍的価値観、DISCO Values という、すべての企業活動が拠って立つ基盤があります。そして、これに基づく2つの仕組みがあります。

1つは社内通貨のWill、もう1つはPIM (Performance Innovation Management) 活動です。

まず、一方の柱であり、社員1人ひとりのパフォーマンス向上の動機付けに大きく寄与する仕組み、社内通貨Will について簡単に説明します。

自らのパフォーマンス向上を促す仕組みー社内通貨Will

ディスコ社には、Will という社内通貨を用いた個人別採算制度があります。ディスコ社内では、すべての仕事にWill が伴うと言います。だれかに何かを頼むときは、Will を払って、仕事をしてもらう。反対に、だれかに頼まれ仕事をすれば、Will が支払われます。社内の会議室を使うにもWill が必要です。仕事を依頼するときには、Will を使ったオークションを行います。取りたい仕事であれば、低い額でも受けたいと思うかもしれませんし、やるに値しないと判断したときは、高い額で落札できれば受けるかもしれませんし、高くても受けないかもしれません。

田村直様

内部監査にもWillが必要です。この監査員に監査をしてもらいたいと思えば、その監査員が納得するWill を支払わなければならず、反対に内部監査員はWill に見合った価値があると認められる監査をする責任が生じます。

ディスコ社の品質保証部システムグループリーダーであり、IRCA登録QMS 主任審査員である田村 直氏は、この個人別採算制度により、現実に、以下のような効果が上がっていると言います。

  • 仕事に対する主体性の向上
    オークションで仕事を依頼 → 仕事を受けるかは自分で選択 ⇒ Will は「意思」である
  • 不要業務の淘汰⇒ Willを払うに値しない仕事はなくなる
    例えば、会議室の使用にもWill が必要 → 無駄な会議が減る
  • 仕事の調整が可能← 自らが選択して仕事をする
  • 異動の自由 部署と異動希望者が合意すれば、部署を移ることができる。人件費がWill計上されるため、部門にとって必要な人材か (稼げるか) も採用基準になる。

Will はボーナスにも結び付いています。Will を稼いでいる部署、稼いでいる人はボーナスに反映されます。

何より、Will については個人単位で採算管理を行うため、自ずと従業員1人ひとりが経営者マインドをもつようになるということです。

以上のように、Will という制度は株式会社ディスコの業務に深く根付き、個人のパフォーマンス向上に対するモチベーションを上げる仕組みとして機能しています。そして、これが継続的な改善活動を推進するPIM活動と、それを華やかに彩るPIM対戦にも深く関わってきます。

全員参加の改善活動の仕組みーPIM活動

PIM (Performance Innovation Management) 活動は、「ずっと進化」するための仕組みとして2003年に株式会社ディスコに導入されました。製造現場において、ゼロディフェクト(不良発生率ゼロ)を目指して全製造スタッフが参画するのみならず、間接部門を含めたすべての部門において全員参加の改善活動が実施されています。

PIM活動では、まず部署や業務単位で定めた「あるべき姿」を基に目標値を設定し、短期間で振り返りを行います。その振り返りの中で、改善方法などに「自ら気づいていく」ことで、組織全体の進化が行われることを目指しています。このPIM活動に継続的に取り組むことで業務の効率化が進み、あらゆる場面で進化が感じられる組織づくりが進むとしています。

しかし、いくら全員参加と言っても、掛け声だけでは実現しません。このPIM活動推進のための動機付けの仕掛けが、ディスコ社独自の試み、PIM対戦です。

PIM活動を推進する仕掛けPIM対戦観戦記

『ISO 9004:2018 品質マネジメント 組織の品質 持続的成功を達成するための指針』 箇条8.4には以下の記載があります。

8.4 プロセスのマネジメント 8.4.3 より高いパフォーマンスを達成するために、組織の方針、戦略及び目標に従って、……プロセス及びその相互作用を継続的に改善することが望ましい。
組織は、人々が改善活動に積極的に参加し、自分が関わっているプロセスにおいて改善の機会を提案するよう動機付けることが望ましい。

田村氏は、「PIM の活動により、1人ひとりが改善マニアになっている」と言います。

その理由の1つが、PIM 対戦です。この対戦で争われるのは、ディスコ社ではMC (Method Change) と呼ばれる、各課、各部門で行われている改善活動です。

対戦では、各課から選ばれた選手がPPT1枚にまとめた改善 (MC) の提案とそれを実施してみた効果、今後の展開について、1分間でプレゼンテーションを行い、勝敗を争うのです。

今回訪問した東京の本社には、「PIM コロシアム」と呼ばれる、プレゼン用のスクリーンと、赤コーナー、青コーナーを設えた専用のフロアがあり、対戦のお膳立てが整えられています。PIMコロシアムには、PIM対戦の開始時間が近づくと三々五々と関連の課、あるいはその他の課や部門から、人々が観戦に訪れます。これらの観客も、後で述べるように、ただ観戦するだけではなく、Willがかかった投票という形で対戦に参加するので、それぞれが真剣な面持ちで対戦を観戦します。

ここで、重要なのは、トップマネジメントである関家 一馬代表取締役社長がPIM対戦には、毎回必ず、参加されるということです。関家社長は、本社のみならず、地方の工場、海外支社のPIM対戦にも出席されるそうです。そして、それには後段で述べるような理由があります。

写真説明: 対戦風景、向かって右側に青コーナー、左側に赤コーナーが見える。正面最前列に座る白いシャツ姿は関家社長。また、その後ろの列には、各部門長がズラッと座っているほか、毎回必ずと言っていいほど、顧客等、見学に訪れるステークホルダーがいるとのこと。

PIM対戦では、全86部門が、15の「PIM推進委員会」に分かれ、毎月部門対部門の対戦が行われます。さらに、4つの推進委員会でひとつのグループとなる“リーグ”を形成し、そのリーグ内での順位を競う「PIM交流戦」が3ヶ月に1度行われます。

今回の観戦では、赤コーナー 総務部・人財部、青コーナー情報システム部・経理部に分かれ、対戦するプレゼンターの「リングネーム」を紹介するリングアナウンスを合図に、対戦が繰り広げられました。それぞれが手慣れた様子でコンパクトに要所をまとめたプレゼンを披露します。

各プレゼンが終わると、勝敗を決する、投票が行われます。観客は各自、社内で開発された社内アプリを起動したiPhone を使って、自分がよいと思ったプレゼンに対して、それぞれ思い思いの額のWillを賭けた投票を行います。ただし、勝敗はこれだけでは決まらず、関家社長の採点があり、これにより勝敗の逆転もあり得ます。優れた提案には社長によりGood、より優れた提案にはSuper Good が付けられ、特別にWill が進呈されます。また、各対戦において、まだ改善の余地を残していると判断した改善について、社長からどんどん鋭いコメントが飛び、さらなる展開についてのヒントが与えられます。また、関連する部門長への提案や指示が出されます。トップマネジメントと従業員が直接行うそのスピーディーなやりとりも対戦の重要な一部です。

一方、観客については、自分が投票した相手が勝った場合、負けた側に投票されたWillを原資とした配当を得ることができます。負ければ賭けたWillは没収ということで、毎月の採算にも影響があるため、観客も真剣です。

PIM対戦は、15年ほど前、4つの部署から始まり、2012年からは、PIM 活動を推進する活動として現在の対戦形式が始まったということです。2018年からは個人をランク付けする段位制度もできました。PIM活動自体もどんどん進化しているということになります。

対戦は、工場とも中継で結ばれているほか、社内の動画配信システムで配信され、あとからも視聴することができます。また、上に述べた推進委員会と交流戦のほかにも、対戦を自分たちで企画、実施することもでき、これも活発に行われているとのことです。

改善の文化とトップマネジメント

PIM対戦は、現場とマネジメント層、トップマネジメントが直に触れ合い、双方向でコミュニケーションする場となっています。従業員から改善案と、その実施の効果と今後の展開が提示され、トップマネジメントはその改善案を評価し、必要に応じ、さらによりよくするためのヒントが提示されます。一種のマネジメントレビューと言えるかもしれません。

そして、PIM対戦を観戦して、もっとも肝要であると認識したのは、地方や海外でのものも含め、すべての試合に関家社長自らが参加しているということ、そして、何より、評価できると判断された活動に対しては、相応の報奨、インセンティブが与えられるということです。これにより、社員1人ひとりが動機付けされ、積極的に業務パフォーマンスの向上、改善活動への参画が促される社内環境、文化が醸成され、このユニークな活動がトップマネジメント主導の『仕掛け』として機能していることです。

つまり、冒頭に挙げた ISO 9004:2018 「箇条11.2 改善」で述べられていた「改善を組織文化の一部として確立する」ことを実現するための1つの方策例と言えます。

『ISO 9004:2018 品質マネジメント 組織の品質 持続的成功を達成するための指針』の箇条7.1に、リーダーシップについて次のような指針が示されています。

7.1.1 トップマネジメントは、そのリーダーシップを通して、次の事項を行うことが望ましい。
a) 簡潔かつ容易な方法で、使命、ビジョン、価値観及び文化の採用を促進し、目的の統一を図る。
b) 人々が組織の目標達成に積極的に参画し、コミットメントする内部環境を生み出す。
c) トップマネジメントが確立したとおりに、目的及び方向性を促進し、維持するよう、適切な階層の管理者と励まし、支援する。

どのような形で従業員の積極的な参画を動機付けていくか、どのような形でインセンティブを与えるかは、組織の風土により、それぞれ違うでしょう。株式会社ディスコでの取組みはその1つの例を提示していると言えるでしょう。

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