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隠された次元を探る パート5: 文化に基づくクオリティと諸刃の剣

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隠された次元を探る パート5: 文化に基づくクオリティと諸刃の剣

quality.org の英語原文記事はこちら

IRCAに登録の Associate Auditor で国際プロジェクト品質リーダーのラソール・エイヴァジ (Rasoul Aivazi) と日本で働いた経験も豊富で現在もAudit SIGで活躍するリチャード・ブレット (Richard Brett) が、品質には日本の哲学がいかに内在しているかを探ります。

ラスール・アイヴァジ氏はCQI Audit SIGとDeming SIGのメンバ-であり、リチャード・ブレット氏は以前はGSKにおいて Japan Quality SMEと監査マネージャーを務め、現在はAudit SIGの副委員長を務めています。

「諸刃の剣」とは、プラスとマイナスの両方の結果や影響を持つものを表わすのに使われる言葉です。それは、何かが有利になることもあれば、不利になることともあるということを意味します。 日本は多くの分野において、その比類のない品質で世界にその名を轟かせてきました。しかし、その成功や見事な職人技の裏には、独自の長所とともに潜在的な欠点を伴う文化的規範や価値観が複雑に絡み合っています。

はじめに

日本で成功したいと願うプロフェッショナルにとって、日本の文化的規範や価値観を理解し、尊重し、思慮深く行動することは非常に重要です。完璧さと調和を追求するあまり、イノベーション、敏捷性、個人のウェルビーイングの必要性を押しのけてしまわないよう、バランスを取ることも同様に重要です。

昨今の日本の指導者の中には、『既成概念にとらわれずに考え』、よりよい道を探ることができる人がいます。若い世代のリーダーは、プロジェクトや職場環境において、チームメンバー、会社、そしてクライアントや顧客とWin-Winの状況を作り出す必要があります。

10の原則の文化的影響

本連載のパート3とパート4で取り上げ、下の表で再度示しているように、日本でプロフェッショナルとして成功するための道しるべとなる10の重要な文化的影響があります。それに加えて、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」(過剰は不足と同じくらい有害である)というよく知られたことわざがあります。簡単に言えば、過剰は逆効果になる可能性があるということです。つまり、何事もほどほどにすること、最後の一滴でコップを溢れさせることだってあるのです。

日本の現役世代は、経験豊富な人から、中堅、若者まで、グローバルコミュニティと関わるための新しく、より優れた戦略を考え出しています。日本の労働文化のよい面を強調することは不可欠ですが、その課題に取り組むことも同様に重要であると認識しています。

10の原則の文化的影響の表
表1

10の原則に対する意見の例

中堅そして若手管理職世代の日本人からの意見をいくつか紹介します。

  • 私たちは10の原則(表1に概略)を高く評価しています。もし日本が江戸時代(1603年から1868年まで)のように鎖国を続けていれば、これらの原則を応用することで、私たちの生活を大きく向上させることができたかもしれません。しかし、今日のグローバル市場では、これらは私たちの競争力を低下させる可能性があります。

  • 「モノづくり」と「コダワリ」の原則は、十分な対価を伴わない過剰なサービスにつながりかねません。

  • コダワリの実践は、オモテナシの精神と相まって、高い顧客満足度につながっています。しかし、これらは報われない努力に変わることも多いのです。

  • 忍耐 (patience) と粘り強さ (peristence)、ガマンとニンタイを養うことは、有益ではありますが、過度のストレスと見せかけの回復力へと導き、「過労死」に代表される心身の故障につながる可能性があります。

  • 顧客がもっとも重要であるという考え方は、日本における顕著なビジネス哲学と倫理的アプローチを強調しています。それでも、顧客、サプライヤー、同僚が同等にみなされ、同じレベルの敬意と配慮をもって扱われるよう、バランスを保つべきです。

文化的特性が日本社会に与える影響

この分析では、パート3とパート4で取り上げた文化的属性のニュアンスに富んだ長所と短所を探り、それらが現代の日本社会に与える影響についてバランスの取れた見解を提供します。

a)細部へのコダワリ (obsession) を取り入れる: 「コダワリ」は完璧さへの献身を意味します。ビジネスの文脈において、日本のエンジニアリングから料理まで、このことがはっきりと見て取れます。

利点: 高品質の製品とサービスを提供できる。これは、信頼性という日本人の評判の根幹を形成しています。

欠点: このような完璧主義は、開発期間の長期化、コストの上昇、市場の変化への迅速な適応不能につながる可能性がある。また、顧客からの変更要求に対応する際、作業工程が重くなる。

b) 協調 (collaboration) と調和 (harmony)(ワとチョウワ)の促進: 「ワ (和)」は調和 (harmony) を表し、「チョウワ (調和)」はバランスを取ることを意味します。プロフェッショナルの領域では、こうした概念はチームワーク、コンセンサスによる意思決定、伝統的な手法と現代的な手法の融合という形で現れます。

利点: 争いのない安定した職場環境をもたらす。深い人間関係、長続きするパートナーシップ、上下関係の尊重を育む。

欠点: コンセンサスを求めるあまり、個人の自主性が阻害され、意思決定が遅くなることがよくある。また、対立や議論を避けることで、人々が異なる視点を持つことを妨げることもある。

c) 上下関係や伝統を重んじる(ケイゴとギリ): ケイゴは敬意を表す言葉を使う技術であり、ギリは社会生活上の義務を指します。これはどちらも社会規範、エチケット、己の義務を果たすことの重要性を強調しています。

利点: ビジネスが円滑に進み、忠誠心と長期的な付き合いを育む。

欠点: 特に、確立された規範や上司の意見に異議を唱える場合、オープンな対話やイノベーションを妨げる可能性がある。

d) 忍耐 (patience) と粘り強さ (persistence)、ガマンとニンタイを身につける: これらの美徳は、歴史的に日本人が自然災害や経済不況、その他の逆境を乗り越えるのに役立ってきました。

利点: これは長期的な計画、プロジェクトに対するコミットメント、市場の変動に耐える能力につながる。

欠点: 不測の事態が発生した際に、迅速な方向転換が妨げられたり、困難な状況下で人々が正当な懸念を表明することが阻害されたりする可能性がある。

e) 第一印象を大切にする: お辞儀の仕方から名刺の出し方まで、日本では第一印象が重要視されています。

利点: プロフェッショナルとして関わる当初から、尊敬と信頼の文化を育む。

欠点: 場合によっては、その後のやり取りに影を落としたり、最初の会議に参加する際に過度のプレッシャーが掛かったりすることがある。

この議論は8月の「パート 6 - 文化に基づくクオリティと諸刃の剣」に続きます。

謝辞: 本シリーズのこのパートは、岩本博之、菅野亮、渡邉慎也、古賀稔広といった著名な専門家のチームによるレビューとコメントを受けています。著者は、ご提供いただいた多大な貢献と専門知識に感謝し、心から敬意を表します。

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