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安心して発言できますか?

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安心して発言できますか?

quality.org の英語原文記事はこちら

「心理的安全性」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?品質と心理的安全性にはどのようなつながりがあるのでしょうか?品質マネジメントトレーナー兼コーチのアラン・クラーク (Alan Clark CQP FCQI) が「あなたは職場で問題やミスを指摘できると感じますか?」と問いかけます。

心理的安全性とは?

公共サービスであれ、企業であれ、問題が迅速に処理されていれば防げたはずの、公正さを無視した末のお粗末なドタバタ劇を耳にしないことがありません。残念ながら、問題が発生しても無視されたり、否定されたりすることがあまりにも多くあります。

問題が迅速に処理される職場環境は、「心理的安全性」があると表現されています。この言葉は、1954年に米国の心理学者カール・ロジャーズ (Carl Rogers) によって初めて使われ、1960年代には経営学でも使用されるようになりました。エイミー・エドモンソン (Amy Edmonson) 教授がこの言葉を、「アイデアや疑問、懸念、あるいは間違いを声に出して発言しても罰せられないと人々が信じられること」と定義したのは1999年のことでした。

残念なことに、私たちはパンデミックのとき、犯罪行為、政治の場など、公的な場で常に「認めようとしないこと」を目にします。不正行為が起きてから時には何年も経った後に、公的な調査が行われるのを私たちは何度見てきたでしょうか。

人命にかかわる医療現場でも、否認や隠蔽が見られ、問題を報告した医療従事者を脅すといったこともあります。

優れた品質を提供しようと努力するクオリティプロフェッショナルにとって、これは大きな課題です。

たとえパフォーマンスの測定がモニターされ、記録されていたとしても、タイムリーな対応がなければ意味がありません。特にそれが顧客、消費者、サービス利用者に直接関係する場合は、その人たちが影響を受けることになります。

では、ちょっと時間をとって、単刀直入な質問をしてみましょう。あなたの組織では、「問題がある」と誰もがどの程度安心して発言できますか?

安全と感じられる文化を創造する

あまりにも多くの企業で、従業員は問題があることを認めるのは心理的に不安だと感じており、真実を受け入れることを拒否する態度が蔓延しています。

問題が迅速に認識され、対処されなければ、世の中のどんな短期目標、インセンティブ、説明責任も何の役にも立ちません。

Lean Enterprise Institute のウェブサイトに掲載された記事を読んで、私はトヨタの理念と文化に由来する概念である「Go and See すぐに見に行く(現地現物)」という迅速な対応がいかに重要であるかを思い出しました。

ジェフリー・K・ライカー (Jeffrey K Liker) 著『ザ・トヨタウェイ第2版』によれば、トヨタは「トヨタウェイ2001」の家の図に示された基本理念によって、世界最大の自動車メーカーとなったということです。

この家の2本の柱は「継続的改善」と「人間性尊重」ですが、これらは「チャレンジ」、「改善」、「行って見て学ぶ (現地現物)」、「チームワークと説明責任」、「人を尊重し、育てる」という基盤によって支えられています。

5つの基盤はどれも重要ですが、「行って、見て学ぶ」と「人を尊重し、育てる」ことの両方が、心理的に安全な環境を作り、人々が早い段階で問題に取り組み、改善を実行することを促すカギとなるように私には思えます。

常に改善し続ける

このことは、品質の第一人者であるW・エドワーズ・デミング博士によって支持されています。博士は1982年に出版した著書 Out of the Crisis (邦題: 『危機からの脱出』) の中の、有名な「マネジメントのための14の原則」の原則5 で「品質と生産性を向上させるために、生産とサービスのシステムを絶え間なく永遠に改善し、その結果、コストを絶え間なく減少させよ。」と述べています。

トヨタだけを見る必要はありません。貧しい農家で育ったデミングは、食卓に食べ物を並べるためには勤勉な労働が必要であることをよくわかっていました。しかしこの考え方は、当時も今も管理者層の多くに正しく認識されず、実践もされていません。

そして、デミングの原則8があります。「恐怖を駆逐し、全員が会社のために効果的に働けるようにせよ。」

要は、今日でいう心理的安全性を採用するよう促しているのです。デミングはまた、「恐怖があるところには、間違った数字が生まれる」とも言っています。つまり、デミングは、自分の仕事やミスについて正直になっても大丈夫だと人々が感じられることが重要だと言っているのです。

リーダーが人々の意見に耳を傾け、人々が安心して改善点を提案できるようにすれば、仕事はより効果的に遂行されるでしょう。

これはデミングの原則7「リーダーシップの何たるかを学び、発揚せよ」につながります。「監督の目的は、人や機械、機器がより良い仕事をする手助けをすることであるべきだ。生産労働者の監督と同様に、管理者の監督も全面的な見直しが必要だ。」

考え方を応用する

デミングの考え方を応用するには、あらゆるレベルの管理者が自らをコーチとみなし、人材やプロセスを開発すると同時に、仕事に密着してその仕事を真に理解する必要があります。

リーダーシップの話となると、トヨタに話が戻りますが、ライカーは、トヨタではトップに至るまで全員が天性の長期的なシステム思考の持ち主だと言います。創業当初のトヨタでは、創業者である豊田佐吉が仏教を信仰していたことから、システム思考が自然な全体観に近いという明確な利点がありました。

説明書通りで失敗のない「インスタントプリンの素」を求める気持ちを取り除くことは、人々がシステムの改善に取り組み、失敗から学ぶことができる心理的に安全な職場環境を作るために不可欠です。失敗から学ぶこと避けられないことです。なぜなら、現実の世界は今やVUCA (Volatile 変動、Uncertain 不確実、Complex 複雑、Ambiguos 曖昧) と呼ばれる状態だからです。システム思考はVUCAな時代を理解するのに役立ちます。

心理的安全性へ

クオリティプロフェッショナルは、組織の心理的安全性の向上への動きを促進する役割を担うことができます。クオリティプロフェッショナルは、顧客満足度を高め、ひいては収益性を向上させるためには、継続的な改善が不可欠であることを理解しています。継続的な改善が効果的であるためには、システム思考を用いなければならないと提唱することができます。

顧客満足度と収益性の向上を推進力として、クオリティプロフェッショナルは、継続的な改善を支援し、歩留まりの悪いプロセスから生じる無駄を削減するための状況を作り出し、あるいはその事例を作ることによって、徐々に (!) 組織に影響を与えることができます。

要するに、クオリティプロフェッショナルとして、ビジネスオーナーとして、取締役あるいは管理職として、あなたの組織で以下のことを展開するよう努めてください。

  • 恐怖心を取り除き、心理的安全性を作り出す。
  • 長期的なシステム思考の視点。
  • 継続的に改善する。
  • あらゆる階層でのコーチングによるリーダーシップ。


これらすべての分野における展開は、永続的な成功のための重要な要素です。

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