IRCA-マネジメントシステム審査員/監査員の国際登録機関 > 情報メディア > ソートリーダーシップ > クオリティ戦略におけるメンタルヘルスの重要性

クオリティ戦略におけるメンタルヘルスの重要性

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
クオリティ戦略におけるメンタルヘルスの重要性

>quality.orgの英文記事はこちら 初出 2021年1月20日

英国Reconnect Studio のコンテンツ責任者であるイアン・ホーキンズ (Ian Hawkins) 氏が、ウェルビーイングに対するいくつかのアプローチと、なぜメンタルヘルスを考慮することがクオリティにおいて重要なのかを考察します。

メンタルヘルスへの取り組み方の変化

医療従事者や企業のメンタルヘルスへの取り組み方は、ここ数年で進化しています。私たちは、メンタルヘルスへの取り組みはもはや「全力で働くか、さもなくば、働かないか」という二者択一の問題ではなく、パフォーマンスに影響を与える要因の一つに過ぎない、より連続的なものであると考えています (他の要因としては、身体の健康、一時的なストレス要因、ライフイベントなどが考えられます)。したがって、単に問題が発生したときにそれに取り組む (その時には、根本的な原因を解決するには手遅れになっているかもしれません) のではなく、最適なメンタルヘルスの成果を積極的に目指すために、ウェルビーイングの観点からもっと話をするというのは理に適っています。

メンタルヘルスとウェルビーイング

最適なメンタルヘルスを促進するという考え方は新しいものではありません。メンタルヘルスは組織のパフォーマンスに影響を与えるため、クオリティの世界にも大きな関連があります。Boorman Review (Department of Health, 2009) は、健康とウェルビーイングの指標のスコアが高いNHSトラスト (NHSは英国の国民保健サービス) のほうが、患者満足度と急性感染症の減少を含む指標でより良いパフォーマンスを示すことを発見しました。同様に、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのマースデン (Marsden) とモリコーネ (Moricone) による実地調査では、2012年に英国の郵便事業を担うロイヤルメールがウェルビーイングへ4500万ポンド (約73億957万5千円) の投資を行ったところ、欠勤が減り、生産性が向上したことで、その後の3年間で2億2500万ポンド (366億2909万円) の投資利益を達成したことが明らかになっています。

教訓は明らかです。もしあなたの会社が仕事をするために人々を雇っているならば、ウェルビーイングはクオリティの重要な要素のひとつであるべきです。

[解説] ウェルビーイングとは?
最近、ウェルビーイング (wellbeing) というカタカナ語を見かけることがよくあります。何となくわかるような、わからないような言葉だと思います。ときどき、健康とか、幸福とか訳されていることがあります。ではなぜ、この記事中であえてこのカタカナ語を使っているのでしょうか。それは、この言葉がもつ以下のような意味を現時点では日本語で表すことが難しいためです。

Wellbeing はwell 「よく、健康に」とbeing 「ある、存在すること」が組み合わさってできた言葉です。しかし、ウェルビーイングとは、例えば単に病気や疾患がないということではありません。身体的、精神的、感情的、社会的な健康要因が複雑に組み合わさったものであり、幸福感や生活に対する満足度、メンタルな面と深く結びついています。つまり、ウェルビーイングとは、一定の尺度で測れるものではなく、自分が自分自身についてどのように感じているか (ある人にとっては快適な状態であっても、ほかの人の感じ方では違うかもしれません) に関連する言葉だと言えます。

ウェルビーイングへの挑戦

残念ながら、緊急事態が発生すると、ウェルビーイングという重要な事業は簡単に後回しにされてしまいます。世界保健機関(WHO)によると、新型コロナウイルス感染症が発生した際に、各国はメンタルヘルス関連のリソースをパンデミック対策に振り向けてしまいました。WHO事務局長のテドロス・アダノム・ゲブレイェソス (Tedros Adhanom Ghebreyesus) 博士は、次のように述べています。「私たちはすでに、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが人々の精神的なウェルビーイングに及ぼす影響を目の当たりにしていますが、これはほんの始まりに過ぎません。今すぐメンタルヘルスへの投資を拡大するための真剣な取り組みを行わなければ、健康、社会及び経済への影響は広範囲に及ぶでしょう。」と述べています。

しかし、もし政府がなかなか学ばないというのであれば、実業界はより目的意識を持って行動しなければならないのは明らかです。

具体的にどのような要因が、「最適な」ウェルビーイングから「不十分な」ウェルビーイングへと針を進ませるのでしょうか。予期せぬ変化はたとえそれがポジティブなものであっても、ストレスになることを私たちは知っています。また、行為主体性(agency 個人が自分の状況をどの程度コントロールできるか)が関係してくることも分かっています。

多くの企業で展開されているリモートワークへの急激なシフトを考えてみましょう。2019年の時点では、在宅勤務が許可されることは特典の1つと考えられ、従業員がワークライフバランスを改善するために交渉して得るものでした。働く人々は、リモートワークが自発的なものである場合は、ボーナスであると考えていました。しかし、リモートワークが強制されるようになった今、働く人々を取り巻く環境は変化しています。同僚との気軽な対面での打ち合わせで期待できる非公式なサポートのメカニズムはもはやなく、地域によっては移動の制約があるため、行為主体性も不足しています。

このような状況下でのメンタルヘルスへの影響は突然起こるかもしれません。早くも2020年4月の時点で、世界5大医学雑誌のひとつであるランセットに 「英国のメンタルヘルスが新型コロナウイルス感染症以前の傾向と比較して悪化していた」という信頼できる調査結果が出ていました。

現在、ワクチンの投与が行われているため、2021年にはより「正常な」働き方に戻るという楽観的な見方もあります。しかし、これまでと同様、クオリティにおいては、単に過去に戻るのではなく、より良い未来を創造することが求められているのです。企業が業務に対する統制力を取り戻すにつれ、メンタルヘルスとウェルビーイングが職場で中心的な役割を果たす機会が明らかに増えています。

ウェルビーイングを推進するには

突然の変化や行為主体性について企業ができることはほとんどないかもしれませんが、企業主導の会員制組織であるBusiness in the Communityが指摘しているように、「プレッシャーと仕事量は、仕事上のメンタルヘルス不調の最大の要因」であり、これらの要因は企業経営者の管理下にあると指摘しています。

さらにBusiness in the Community では、ウェルビーイングについて「個人の精神的、身体的、社会的、経済的な健全性と個人のウェルビーイングは相互に支えあう関係」であると定義しています。企業は従業員のウェルビーイングをどのようにサポートできるのでしょうか。

Mental Health at Workは、メンタルヘルスに関する公益団体「Mind」が監修する取り組みです。このリソースには、雇用者とメンタルヘルス専門家双方による最新の調査結果に基づく6つの推奨事項があり、そこには組織としての自信と能力を高めること、内部及び外部報告を通じて透明性と説明責任を高めることが挙げられています。

職場におけるウェルビーイングの問題に対処するためのポリシーをまだ持っていない企業は、誰もがプレッシャーを感じている今、従業員の健康管理を確実に行うために、このようなリソースを活用する必要があります。

ワークライフバランス

ワークライフバランスにおいて重要なのは、「バランス」が最適な言葉であるということです。先に引用したランセットの論文では、「女性、若者、就学前の子どもを持つ人々のニーズを重視する施策は、将来の精神疾患を予防する上で重要な役割を果たすと考えられる」と記しています。ここでは、ウェルビーイングを促進する上で、経営者ができる最も重要なことのひとつとして、「共感をもって聞く」ことを強調しています。

2020年、私たちは、他者や自分自身をケアするための構造がストレスにさらされ、引き裂かれているのを目の当たりにしました。また、病気や死別に直面し、関係を再構築せざるを得なくなった方も多いのではないでしょうか。2020年、仕事とプライベートの関係が激変したことを考えると、雇用主は、労働者間に意図的な対立を生み出すような状況を設定することは避けるべきでしょう。例えば、顧客とのミーティングに出席するため、学校の演劇を見に行けないといったことです。

再び、行為主体性の問題に戻ります。まったく選択肢がない状態と無限の選択肢による混乱の間には幸福な中間地点があります。例えば、Deloitte Centre for Healthcare Solutions のホワイトペーパーには、「自分のメンタルヘルスとウェルビーイングを管理するために積極的に行動できる従業員は、職場でベストを尽くすことができる」とあります。したがって、よりよいウェルビーイングを実現するためには、雇用主は最低限、従業員が自分にとって適切な判断を下せるようなリソースとサポートを提供する必要があるのです。

CQI レポート The Future of Work 未来の働き方
IRCAテクニカルレポート:ISO22000:2018