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新しい働き方、新しい研修手法をリードする – BSI グループジャパン

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新しい働き方、新しい研修手法をリードする – BSI グループジャパン

新型コロナウイルスの感染拡大は世の中の変化の速度を大幅に加速しました。例えば、ビジネスにおいては働き方の変化、業務の遂行方法の変化が一気に進みました。そのような中、新型コロナウイルスパンデミックの前から働き方改革を進め、また、パンデミックの状況に対しては、いち早くトレーニングコースのオンライン化への転換を進めてきたのがBSI グループジャパン株式会社です。率先してこの変革をリードしてきたBSI Group, Global Training Director (元BSIグループジャパン株式会社代表取締役社長) の根本英雄氏に、どのように変化への対応を実現させてきたのか、新しいライブオンライン研修とはどのようなものなのかについて、IRCAジャパンの八井がお話を伺い、未来へ向けてのメッセージをいただきました。なお、このインタビューは、根本氏があと数日でBSI GroupのGlobal Training Director の任に就くため、渡英されるというあわただしさの中で行われました。

オフィスの移転と働き方

目に見える部分の変化と目に見えない部分の変化

IRCA八井: 本日は、欲張りに3つのテーマでお話しを伺いたいと思います。まず、今、日本でも世界でも、働き方の見直し、働き方改革ということが頻りに話題となっています。2019年に、移転されたBSIグループジャパンの横浜みなとみらいのオフィスに伺ったとき、時代を先取りした、フレキシブルな働き方を想像させる先進的なオフィスであることに感銘を受けました。このオフィス環境を整備したきっかけ、意図や目的はどのようなことだったのでしょうか?また、その意図や目的は達成されましたでしょうか?

BSI 根本氏: 根本的なきっかけはオフィスが手狭になったということです。常々言っていることですが、私たちはモノをつくっているわけではありませんので、私たちの事業にとって大切なアセットは従業員です。ですから、ここに大きな投資をしていく計画は当初からありました。毎年、20人から30人の新規ポジションをつくってきており、この4年間だけで社員が6割くらい増えました。それくらいの大きな投資をしていかなければいけないときに、以前のオフィスではとても収まりきらないということがありました。

BSI 根本氏

移転に当たっては、私が「こうする」というより、みんなでつくりあげるという形で進めました。そのときに掲げたテーマが「My spaceからour spaceへ」です。

外資系ではよく自分のパーティションのようなものがあり、家族の写真を立てたりしています。それも1つのよさですが、そこのサイロに閉じこもってはいい仕事ができないでしょというところから、「My space からour spaceへ」という展開を提案しました。そこで、移転をすることを前提に、「オフィスはどうあってほしいのか、どういう働き方をしたいのか、自分たちで決めてよ」ということで、移転の1年ほど前からオフィス移転のタスクフォースをつくり、ボトムアップで進めました。各部署から5、6人くらいずつ、マネジャーだけでなく、担当の従業員も含め集まり、プロジェクトメンバーは30人くらいいましたから、何か学園祭のような感じで、「どういうオフィスがよいか」、「どういうオフィスならみんなが喜ぶか」という議論の中から出てきたのが、6つのキーワードです。

1つ目は ‘open’、開放的で風通しのいいオフィスを目指す。それから、2つ目が ‘flexible’ なオフィス。柔軟性のあるオフィス環境ということで、必ずしも自分の席がなくてもよいということですが、ここは1つハードルとなりました。これは3つ目の ‘share’ にもつながっています。資源を共有する、有効活用ということですね。実は非常に紙が多かった。紙の山に埋もれて仕事をしていました。そこで、これを機にペーパーレスを進めようと、データ化を進め、最終的には紙を75% スクラップし、もう紙を持たないオフィスにしました。

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その次、4つ目が ‘happy’ な職場がいい、楽しく、みんなが喜んでくれて、お互いが感謝をしあうような、そういうオフィスを目指したいということ。そして、5つ目が ‘enjoy’ するということ。楽しみながら仕事をしたいということで、遊び心をもって、グリーンと青を基調にパークという名前を付けた共有の休憩スペースをつくりました。そして、海の見えるいちばん景色のよいところは管理職が独占するのではなく、従業員の皆さんが使えるスペースとなりました。

そして、最後のキーワードが、 ‘energy’ でした。活力の溢れる、実行力のある、やる気が出るような、想像力が養われるような環境がよいということを、皆さんが力強く宣言してくれました。ですから、実際には、私はあまり何もしていないのです。

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家具を含め、どれにするかを決めたのも従業員でしたが、実は相当お金も掛かり、びっくりしたグローバルのCEOから何でこんなに掛かるのかと電話が掛かってきました。どうしてもこうしたいと、従業員の気持ちを代弁し、必要な投資であることを認めてもらいました。従業員にとっては、自分たちで決めたということで、自分事になり、愛着も湧き、オフィスを大事にしますし、また人にも見せたい気持ちも出てきます。

IRCA八井: オフィスが変って、スタッフの皆さんの働き方はどのように変わったと思われますか?

BSI 根本氏:  まずは、オフィスに行くと自分の席がないので、自分の今日のスケジュールを考えるところから始まります。だれと仕事をしようかという、今まで使っていなかった筋肉を使うことによって、いろいろな部門間でのコラボレーションが生まれたりするようになりました。そこがいちばん大きかったと思います。

それから、何かを決めるとき、会議をしなければいけないというとき、今はコロナなので状況は違いますが、部屋もキュービクルもないと、「ねえ、ねえ、これはどうなっていますか」、「ちょっと教えてもらえますか」ということが気軽にお互い声を掛け合えるようになりました。そして、以前は、例えば人事や経理は別の部屋にいたので、なかなか相談できないということがありましたが、そこの敷居が下がり、お互いにコミュニケーションが非常に円滑に進むようになったというのは、よく聞きます。

IRCA 八井: なるほど、オフィスの変化によって、スタッフの皆さんの働き方が変化してきたことが窺えますが、働き方の変化に対して根本社長がトップとして特に心がけていらっしゃることはありますか?

BSI 根本氏: 私たちのオフィスだ、私たちの職場だということを主体的になって、自分事として捉えるというように従業員のビヘイビアを変えるためにはマインドセットを変える必要があります。しかし、単に口で言うだけではマインドセットを変えることはできません。ですから、気付きを与える、権限を委譲する、ちゃんと準備をする、投げない、任せるという、一つ一つのことが重要です。このように目に見えないところと、オフィスのレイアウト変更のように目に見える形でまさに両輪で回していくことを心掛けてやってきました。

IRCA 八井:オフィスや働き方についてフロアのスタッフの方たちのお話を伺ったことがあるのですが、根本社長のアプローチは大成功されていると思います。

破壊的変化への対応、または組織レジリエンス

災禍の中を進み続ける力

IRCA 八井: ところが、そんな中でコロナがやってきました。研修事業について、BSIグループジャパンさんが止まることなく、思考を続けながら進んでいらっしゃったのを見ています。これに関連すると思われるのが、2019年に御社の20周年の記念セレモニーで聞いた組織レジリエンスという言葉です。そして、御社のウェブサイトでは自らを組織レジリエンスのソートリーダーとして位置付けられています。簡単に組織レジリエンスについて説明していただけますか?

BSI 根本氏: BSIには、ご存じのように規格を策定する部門があります。そこで組織レジリエンスの規格 BS 65000を2014年に発行しているということがベースになっています。組織を存続し、繁栄し続けることが非常に難しくなっています。例えば1950年代の企業の寿命は60年でしたが、5~6年前の統計では、18年、約1/3 と短命になっていました。そこで共通項を追究していったときに、この組織レジリエンスという概念が出てきたのです。

日本では、レジリエンスやレジリエンシーという言葉は、3.11 後に耳にすることが多くなりましたが、どうしても震災に対する回復力とか、瞬発力といった文脈で語られることが多いと思います。BSI の組織レジリエンスが決定的に違うのは、そういった事象に対して、いかに事前に準備をするのか、いかに順応する力をそもそも備えておくのかというところにフォーカスしているというところです。

単なるコンセプトだけではなく、分析ツールも提供しています。この分析ツールでは、人々、プロセス、製品、リーダーシップという4つの体系だったカテゴリーを、ファイナンスやイノベーションなどの16の要素と掛け合わせて分析します。これは当社のウェブサイトで公開していますので、お時間があるときにやってみてください。

>組織レジリエンス

これは認証を超えた取り組みですから、それを我々はソートリーダーシップと言っているのです。そして、2017年から Organisational Resilience Index年次報告書を毎年出しています。2021年度版は今年の3月に出ました。世界のCEO クラス、もしくは役員クラス500人以上に電話や、Teams などで話を伺いました。日本企業も53社含まれています。経営幹部の階層での組織レジリエンスに対する評価ということです。

今年のトレンドで言われていたのはコロナの対応です。例えばサプライチェーンの問題ですが、これをセクター別に出し、自動車、航空業界、食品、建設、ヘルスケアといった業界にスポットを当てて、組織レジリエンスの観点からどのようにコロナに対応されたのかという興味深い内容になっています。この年次報告書は無料でダウンロードできますので是非ご覧ください。

IRCA 八井: ご説明、ありがとうございます。年次報告書、ぜひ拝見します。

ところで、ちょっと余談ですが、コロナが始まったとき、BSIさんにはなぜかたくさんマスクがあったと伺って、驚いたのですが、もともと感染症をリスクとして想定し、用意してあったということですか?

BSI 根本氏: はい、組織レジリエンスの一環、BCPの対応として、たくさん用意してありました。移転のタイミングでも見直しを行い、実は新オフィスのパークに設置したベンチの中にマスクをたくさん保管してありました。

IRCA 八井: 社員さん自身も、「なぜかうちにはたくさんマスクがあったんです」とびっくりされていました。

BSI 根本氏: はい、たくさん寄付もしました。近隣の病院、それから当初は中国でマスクが手に入らないというのがあったので、BSIの中国オフィスにもかなり出しました。その後BSI ドイツにも出しまして大変感謝されました。

IRCA八井: なるほど、そうだったのですね。これはもっとアピールされてもよかったのではないですか?

そして、研修についてなのですが、御社ではパンデミックに素早く対応して、オンラインのコースを始められましたが、パンデミック後もこの方向性は続けられるのでしょうか?

 >BSIの "ライブ" オンライン研修

BSI 根本氏: はい。ちょっと背景をお話しします。

BSIでは、パンデミック前にすでにAdobeのオンライン研修システムを導入して、受講者に対する案内の仕方など、オンライン研修のガイドラインもありました。そこが非常に大きかったと思います。BSIは各国の拠点間のつながりが非常に強いのです。ウォールームを設置して、各国間で毎晩のように情報の共有を行っていました。2020年の1月の段階で、中国がどうもおかしい、これは絶対日本も同じような状況になるぞということで準備を始めました。弊社にもフレックス勤務や在宅勤務という制度自体はありました。これを全社に導入すると決めたのは同年2月18日ですから、結構早かったのではないかと思います。「出社するな」というメッセージをいち早く打ち出し、研修についても「オンライン研修のシステムはあるのだから、それでやりましょう」と言いましたが、すぐにマインドセットを変えることは困難で、スイッチを入れる必要がありました。

戦争に譬えることはあまりよいことではないかもしれませんが、サービスを止めずに進めるのだというとき、私は「これはある意味戦時中であり、こういう時はバンカーメンタリティ (bunkerは弾を避けるための塹壕のこと) をもってはいけない。バンカーから飛び出して、弾を避けながら、挑んでいかなければいけない」という話を社内でした覚えがあります。しかし、「他社さんはもうサービスを止めています。なんでそこまでしてやらなければいけないのですか?」というコメントや質問が上がり、すぐに受け入れられたというわけではありませんでした。

そういった中で信念をもって、なぜこういうことを私たちはやらなければならないのか、これが1~2か月で収束するような事態であれば、止めてもよいかもしれないが、これは明らかに数年単位の事象であり、それに備えるというのは、まさに組織レジリエンスだと思ったのです。社内で侃々諤々の議論がありましたが、最終的にはこの考え方が受け入れられ、非常に心強かったのは言うまでもありません。

ところで、Adobeのオンライン研修システムはあったのですが、そのシステムがあまり機能しないことがわかりました。そこでZoomに切り替える必要があったので、思い切って投資をして、一気に100ライセンスを契約しました。そして、コンテンツはあるのだから、これを画面越しに提供すればよいのだろうと始めたところが、そんな単純な話ではありませんでした。コンテンツをライブのオンライン研修に合ったものにつくりなおさなければいけなかったのですが、そこで、研修チームのメンバーは大変なリーダーシップと実行力を発揮し、一気に60コースを用意してくれました。それが決め手だったと思います。チームには本当に感謝の言葉しかありません。

IRCA 八井: バンカーの話も含め、共感します。根本社長がスタッフの状況を理解し、ビジネス環境、世の中の環境を把握して、CQI|IRCAで言うところの GAI、Governance、Assurance、Improvement を達成していらっしゃることがわかりました。何と言ってもCQI|IRCA が真ん中に据えている、Leadershipを実現されていると思います。

これからの取り組みについて

研修におけるAI の活用

IRCA 八井: 最後にこれからのことについて伺います。AIや機械学習、ロボット工学など、新しい技術が活用される社会になり、CQI|IRCAもクオリティ4.0と呼ぶ概念の定義を始めています。御社でも、AIを活用した研修や試験の検討を始めていると伺いました。これからどのような方向に研修を進めていかれるのでしょうか?

>クオリティ4.0とは何か

BSI 根本氏: まず押さえておきたいことは、「オンラインの研修は代替品ではない」ということです。私も自ら、2日間の内部監査員コースを受講者と一緒に受けたのですが、ものすごく利便性を痛感しました。受講者からのフィードバックを聞いても、これはもうアドオンで提供し続けなければならないものであることは自明です。止めるという選択肢はまったくありません。これからも通常のサービスとして提供し続けます。

それを前提として、AIなどの新しいテクノロジーの領域で私たちの将来が決まってくると思っています。自分たちがある意味のプラットフォーマーになることを目指しています。例えば、今、取り組んでいるのはAdaptive AI です。これには2つあり、1つはrecommendation するというものです。これはAmazon Prime で「あなたの好みの映画はこれですよね」というようなものをトレーニングで提供する。それから、コンテンツそのものの学習をさせながら、各学習者、個人個人の力量に応じたコースを提供する。知識のレベル感は人それぞれです。例えば、主任審査員の資格を持っているが、10年前のものですという人と、まったく新規でトレーニングを受けて、これから審査員補になりたいという人がいる。そういったときに、バリデーションをしながら、「この人はこのフェーズ飛ばしてもよい」ということで、個人個人に合ったトレーニングコンテンツをどんどん提供するということです。小テストをして、計測をしながら、新しいコンテンツ、もしくは新しいモジュールを受講してもらうというのは、今、まさにやっている最中です。

IRCA八井: そこまで行っているのですね。

BSI 根本氏: ビデオのオンデマンドのものは各社さん出していますが、コースに来ないと勉強ができない。要するに個人学習ができるようなコンテンツというか、プラットフォームはマーケットに少ないです。そこがひとつ、私たちが力を入れていかなければいけないところだと思っています。これはもうBSI 全体、グローバルの戦略の中に入っています。

IRCA八井: 根本社長は8月9日にもうイギリスに実際、行かれるということですが、どのポジションに就かれるのですか?

BSI 根本氏: まさに、BSI Groupのトレーニングビジネスのヘッドとして、今お話ししたようなことを各国と協力しながら実行していくという立場になります。日本発のいろいろなことを展開し、日本の業界のために寄与できればという気持ちで行ってまいりますので、引き続きIRCAジャパンとも協力しながら進めていけたらといいと思います。

IRCA八井: ありがとうございます。これからが楽しみです。今後のご活躍をお祈りしています。本日は渡英前のお忙しい中、本当にどうもありがとうございました。

CQI レポート The Future of Work 未来の働き方
IRCAテクニカルレポート:ISO22000:2018