リモート外部審査 受審の記: 株式会社パスコ マネジメント事務局の小林さんに聞く
IRCA のOEA 参加企業の1つであり、地理空間情報サービスを提供する株式会社パスコはISO 9001、ISO 14001、ISO/IEC 27001、ISO/IEC 27017、ISO/IEC 20000、ISO 55001、その他、プライバシーマーク(JIS Q 15001)を含めて、全部で7つの認証を取得/維持しています。このため、新型コロナウイルスパンデミック下でも複数のリモート外部審査を受審し、その際にリモート監査の可能性を強く感じられたとのことでした。リモート外部審査のメリットとデメリット、それを踏まえたリモート内部監査の可能性など、同社の小林久芳さん (IRCA QMS Principal Auditor、ISMS 及び ITSMS Lead Auditor) に、率直な感想を伺いました。
リモート外部審査受審の経緯
新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴う緊急事態宣言を受け、経営者から3密状態による内部監査や外部審査の実施を回避するよう指示されました。弊社は審査機関3社とお付き合いがありますが、今般、そのうち2社でリモート審査を実施できました。1社は審査員が自社オフィスあるいは審査員の自宅から完全なリモートで実施、もう1社は、現地訪問を厳守するルールがあることから、審査員が弊社に来社された上で弊社会議室からリモートで審査して頂きました。
この度、リモート審査を受審し、弊社にとって大変メリットが大きかったこと、そして今の時代はここまでできるのだということを改めて実感したというのが正直な感想です。そして、これは内部監査や教育訓練など様々なコミュニケーション活動にも応用できるという感触を強く得られました。
リモート外部審査のメリット
● 複数の部署、在宅勤務者を含む多くの人が参加できる
会議室では人数が限られてしまいますが、リモート審査の場合、多人数が参加できます。これまで審査で応対できなかった受審メンバーが参加し、具体的な説明をすることも可能となりました。当然、在宅勤務の人も参加できます。特に、弊社の場合、中堅の女性社員が活躍しているプロセスもあり、育児をしながら審査に参加できることは大きいです。もちろん、途中でお子さんが騒いだり、邪魔が入ったりすることもありますが、リモート審査であれば参加できるので画期的です。
また、複数の地域拠点部署が「一緒に」審査参加もできます。つまり、営業など、同じ機能を担う拠点を同時に見てもらうことができるため効率的ですし、営業プロセスの全体像もつかんでもらいやすいです。また、リモート上で複数の会議室間を瞬時に切替して、審査に途中参加することも可能となるため、推進事務局のモニタリング作業で重宝しています。
執務室や倉庫、電算室等、現地のライブ映像を通したオンサイト審査は当初の期待を超えて相当有効と感じています。
● 審査員及び事務局の負担の軽減
そして、もっとも実感したのが、審査に伴う審査以外の負担の軽減です。審査員、そして認証機関と受け入れ側、双方の事務局のいずれも、リモート審査によって間接的な業務負担が大きく軽減されます。
現地審査の場合、審査員の移動にはコロナ感染のリスクだけでなく、通常の場合でも、事故による負傷あるいは死亡、疾病、交通機関の遅延による計画の変更、その他様々なリスクがあります。リモート審査はそういった労働安全を含む様々なリスクに対するリスクヘッジとなるだけでなく、交通機関や宿泊施設利用のための諸々の手配の必要もありません。したがって、審査員にとって、本来の審査業務以外の負担が大幅に軽減されると思います。
もちろん、受け入れ側の事務局にとっても同じことで、まず、移動がないので日程の調整が簡便になります。それから、来社された審査員に対する諸々のお世話の必要がなくなります。以前に比べると、審査員が先生という意識は薄れてきており、負担は減ってきているとは思いますが、それでも審査員が作業を行う会議室の手配、昼食の支援、お出迎えと名刺交換、その他、細々した対応が必要であり、事務局側の労務負荷が高いです。リモート審査の場合には細々した対応が省力化できるため、事務局自身が直接、審査に係れる時間を大幅に増やせました。
そして、会議室については、当然、通常の業務を実施している他部署も使うわけですから、審査のために会議室を多数、長時間押さえることで、これまで発生していた社内の軋轢がなくなるのはとてもありがたいことでした。
リモート審査のデメリット
以上のように、弊社の場合、リモート審査はメリットのほうが大きいというのが実感です。デメリットとしては、審査環境を整えるため、また審査環境を使いこなす教育訓練への投資が必要であり、どちらにも新しいIT スキルが必要となります。審査品質についても、弊社の業務自体がこういった審査環境に適していることもあり、あまり問題はありませんでした。ライブの撮影の機能も相当向上していました。
ただ、今後、リモート審査に係るノウハウは蓄積していく必要はあります。
それから、カメラレンズを通すと視界が制限されます。従ってウォークスルーによる現地審査は従来と審査感覚が多少なりとも異なると考えています。また、弊社の場合はそれほど多くはありませんが、撮影禁止の個所や、電波が届かない個所があるといった問題もあります。
なお、今回、新規拡大の部署があり、従来なら実地審査ですが、リモートで審査となり、今後、立ち返って、現地での審査が必要となる可能性があるという議論もありました。しかし、受審側の組織としては、情報サービス分野はリモート審査で概ね可能であると考えています。
今後への期待
内部監査の場合、上期は机上監査 (文書や記録の監査) で実施しましたが、下期はウェブ会議システムを活用して、対面でのリモート内部監査を実施する予定です。
内部監査でも有効な方法であることが確認できました。これまで拠点に足を運んで監査を行うことが前提でしたが、今後は出来る限り、必要な範囲でリモート監査へ移行していく予定です。これにより、移動を含めると1日、1日半が必要なところを、正味の監査時間のみで対応できるため、生産性や効率性が格段に向上します。
第三者認証審査に関しては次の移動先への電車の時間などを気にする必要がありませんので、審査員も受審側も余裕をもって対応できたように思います。コミュニケーションはリモート審査のほうが改善したと感じました。
また、以前、第三者審査員の方たちから連日移動で大変だと聞いたことがあります。これまでは、それはやむを得ないこととして受け入れられていたとしても、世代交代していけば、そのような考え方も変わるのではないでしょうか。新型コロナウイルスが収束したら、現地訪問必須に戻るのではないかとも言われていますが、審査を受ける側としても逆戻りしないよう期待しています。
他にも今後の展開、取り組みとして、ウェブ会議システムは様々なトレーニング(実地研修)に使っても有効だと考えています。現在、社内トレーニングをリモートでの実施に移行すべく検討しているところです。