持続可能性を取締役会に持ち込む
企業の持続可能性は、取締役会の活動の中心に据えられるべきだと、CQIの持続可能性 SIG (Special Interest Group) の委員長のゾイ・コントディモウ (Zoi Kontodimou) は述べます。
ESGの来歴
ESG (Environmental, Social, and Governance) とは、2004年に国連が発表した報告書『Who Cares Wins』の中でつくられた用語です。企業は、ESG方針や原則を実施し、関連する課題や結果を、年次報告書などと同じ投資家向けコミュニケーションチャネルを使って報告することが期待されていました。
ESGリスクをマネジメントし、関連する機会を活用することで、企業はそうした問題を適切にマネジメントしながら、同時に株主価値も高めることができます。良好なESGパフォーマンスは、企業の長期的成功の通常の決定要因であるリスクレベルの低減と経営の質に関連すると考えられました。
主な考え方は、顧客評価を含む業務にESG基準を導入することで、金融業界はより強靭 (resilient) になり、投資、融資、資産運用のポートフォリオにおけるESGリスクをマネジメントすることで、持続可能な開発に貢献するというものでした。ESGという略語は、企業の投資価値に重大な影響を与える、または与える可能性のある問題に焦点を当てるためにつくられました。「マテリアリティ (materiality 重要課題)」という用語は、10年程度の長期的な視野でより広範に使用されていましたが、関係するのは財務的なマテリアリティのみでした。
ESGという用語は、徐々に経営幹部 (C-suite executives) によって取締役会で広く議論されるようになりました。この言葉が生まれてから18年が経ち、環境破壊を減らすための努力が30年以上続いている今日、もう十分だと考えられているのでしょうか。それとも今、持続可能性と二重のマテリアリティを取締役会に持ち込むべきなのでしょうか。
一刻の猶予もない
気候変動に関する政府間パネル (IPCC) の今年の年次報告書では、低炭素経済と社会への「一刻の猶予もない」とするアプローチが必要とされており、答えは環境の観点から明らかになったように思われます。
社会的な観点からも、答えはほとんど変わりません。世界の消費者の85%以上が、より環境に配慮したアプローチで購入を決定しており、主導権を握るのは若い消費者です。ガバナンスの観点からも、投資家の71%が優れた持続可能性戦略を持つ企業をよい投資先と考えています。
何年も経った今、また新たな変化の瞬間が訪れました。残された時間は急速に少なくなりつつあり、企業は再び持続可能な開発への貢献に関して大きな役割を担うことになります。企業の財務パフォーマンスに影響を与える要素だけでなく、環境、経済、社会の観点から、企業が事業活動によって影響を与える要素を評価することになれば、私たちは物事を加速させなければなりません。
今こそ、二重のマテリアリティが取締役会に入り込み、持続可能性マネジメントが主導権を握る時です。ESGリスクと財務マテリアリティのレンズを通してのみ持続可能性を見ていれば、将来の財務リスクを過小評価し、新たな機会を特定し、捉えることに失敗することになります。
企業における持続可能性
優れた企業の持続可能性は、システムアプローチを通じてマネジメントされるべきです。つまり、経済的、環境的、社会的リスクを最小化し、機会を生かすだけでなく、企業がそれらの要素に関してプラスの影響を与えるように、相互に依存するいくつかのプロセスを管理する必要があるということです。
再生的なアプローチが必要です。地球へのダメージを食い止め、環境システムの限界を押し広げるだけでなく、すでに生じたダメージを減らすことも重要です。
EUの報告義務ガイドラインは、持続可能性の開示に二重のマテリアリティアプローチを採用しています。つまり、少しずつ変化が起きているということです。ESGはその目的を果たしました。そしてこれからも目的を果たし続けるでしょう。しかし、企業が持続可能性競争をリードするためには、ESGではなく持続可能性を取締役会に持ち込む必要があります。
環境問題や社会問題に関しては、事後的なアプローチではなく、再生的なアプローチを採用する必要があります。さまざまなプロセスを統合し、良好な財務結果のためだけでなく、カーボンニュートラル、平等、多様性、インクルージョンなど、差し迫った課題を解決するためのシステムとして機能させなければなりません。
企業が持続可能性に取り組むべき理由は証拠と調査によって裏付けられています。環境面や社会面で優れた業績を上げている企業は、経済面やビジネス面でも優れた業績を上げています。企業の持続可能性を取締役会に持ち込むことは、次年度の競争優位性となります。