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AIへの取り組みはどこから始めるべきか?

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AIへの取り組みはどこから始めるべきか?

quality.org の英文記事はこちら

テクノロジーコンサルタントのジェフリー・ファンク博士 (Dr Jeffery Funk) が、生成型人工知能 (生成AI) の台頭と、それがクオリティプロフェッショナルにどのような恩恵をもたらすかを考察します。

私たちは現在、人工知能 (AI) の進歩の第3の「波」の中にいます。第1の波は 1950 年代に起こり、第2の波は 1980 年代に起こりました。第3の波はニューラルネットワーク (人間の脳内の神経細胞、ニューロンと、神経回路の構造を数学的に表す方法を使った) AIから始まりました。これは、2010年代にGoogle、Meta、Amazon で広く使われた「ビッグデータ」とアルゴリズムに基づいて構築され、検索エンジン、ソーシャルメディア、検索結果やソーシャルフィードへの広告やニュースの掲載などが含まれます。

2010年代半ばには、コンサルティング会社がAIについてより明確な予測を立て始め、仮想世界や物理的な製品やサービスへの影響により、2030年までにAIの産業価値は16兆ドルに達すると予想する会社もありました。ベストセラーの本が人間の仕事がAIに取って代わられると述べ立て、経営学の教授たちは、戦略はすでにAI中心になっていると主張しました。

しかし、AIへの民間投資は、生成AI 用のクラウドコンピューティングインフラへの投資が8倍に増加したにもかかわらず、全体としては2021年の1300億米ドルから2023年には960億米ドルに減少しています。

このことから私たちは何を学ぶべきでしょうか?AIを実装するのは難しく、とりわけ労働者をAIに置き換えるのは難しいため、労働者の能力を拡張 (augmentation) する方が現時点ではより適切な方法だと言えるでしょう。

例えば、農場における技術革新は、何世紀にもわたって人間の能力を拡張することに重点を置いてきました。まずは馬やその他の動物と組み合わせて使う新しい道具で、のちにはトラクターで人間の能力を拡張しています。この傾向は1850年代半ばに加速し、1850年に全雇用の90%を占めていた農業従事者が、1940年には20%まで減少しました。しかし、それには90年かかりました。一方、製造業の雇用は1960年の全雇用の26%から2015年の10%に減少するのには55年しかかりませんでしたが、それは主に政府の政策が外国からの輸入を奨励したためです。

AI、特に生成AI については、私たちはどこで使うのに適しているのかを見つけなければなりません。まずは最も経済的に有利なものから始めるべきでしょう。

初期の分野では、高い正確性を要求するべきではないでしょう。なぜなら、生成AI製品がハルシネーション  (hallucination: AIが事実に基づかない情報を生成すること) をでっち上げるのはよくあることだからです。ここで、クオリティプロフェッショナルに光が当てられます。クオリティプロフェッショナルは統計的工程管理と、高い歩留まりと精度を得るための課題を理解しています。

これらの要求事項を回避する方法のひとつは、拡張の別の形式である、表からは見えない働き手 (hidden workers) を通じて行われます。iRobotの共同設立者であり、RobustAIの共同設立者兼最高技術責任者 (CTO) であり、マサチューセッツ工科大学のコンピューター及びAI研究所の元所長でもあるロドニー・ブルックス (Rodney Brooks) は、AIの導入に成功したほとんどすべての事例において、2つの方策のどちらかが採用されてきたと主張しています。それは、ループのどこかに人間が介在するか、またはシステムが失敗した場合のコストが非常に低いかです。

今や、検索、広告、ソーシャルメディア、サイバーセキュリティー、電子商取引への応用は一般的ですが、倉庫などの物流分野を除き、物理的な分野での応用の拡大は遅れています。一部の仮想アプリケーションでさえ、普及が遅れています。

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生成AIの場合、最初の成功例は動画広告や、TikTokやYouTubeの短い動画になると思われます。しかし、ハルシネーションの問題があるため、この成功が娯楽用動画から教育用動画に移行するには時間がかかるでしょう。

より大きな分野は、ハリウッドによるテレビドラマや映画 (及びビデオゲーム) の制作であり、この分野は映像や言葉をアウトプットとする数少ない産業のひとつであるため、部分的な成功が期待されます。別々に収録された複数のシーンをAIを使ってつなぎ合わせ、その隙間をAIが生成するシーンで埋めることができるようになったとき、より大きな影響がもたらされるでしょう。

テキスト生成は、学生やその他の人々が凡庸な論文やレポート、電子メールを作成するために広く使用されているにもかかわらず、その影響は小さいでしょう。AIは、テキストを生成するのは得意ですが、それらのテキストは所定の目的を果たせていないことがよくあります。アンドリュー・オルロウスキー (Andrew Orlowski) が英国のデイリーテレグラフ紙にこう書いています: 「ChatGPTは怠け者の官僚にとっては夢だが、それ以外の人間にとっては悪夢だ。」

チャットボット、ファストフード店での注文受付、コールセンターなどでは、おそらく今後5年間でテキスト生成が最も大きく応用されることになると思われますが、まだハルシネーションが多すぎて、メリットはそれほど大きくありません。

フィリピンのコールセンターに関するある分析によると、大規模な言語モデルによる生産性の向上は平均14%にとどまり、最も優れた業績を上げているコールセンターでは、その向上率はより小さいことがわかりました。注文受付に関して、マクドナルドはIBMとの提携を解消しました。ウェンディーズでは14%、ホワイトキャッスルでは10%の注文でミスが発生していることがわかったと報じられています。

ソフトウェアの開発とメンテナンスは、生成AIの2番目に大きな受益者になる可能性が高いですが、それはプロセスが文書化され、個人がシステムを悪用するのを防ぐためのガードレールが実装された後でのみ実現します。

プロセスを特定し、AIがどのように改善を可能にするかを特定することは、クオリティプロフェッショナルが活躍できるもう一つの分野です。クオリティプロフェッショナルは、サポート業務の表面的な改善で企業レベルのプロセス改善を導きだそうというのは大きな間違いであり、多くの業務が必要ないとわかると、それで大きな飛躍をしてしまうという問題を知っています。AIを使用するための第一歩である、クオリティの高いアウトプットを明確に描写することは困難です。

顧客に満足してもらおうとするとき、多くの場合、最も重要な変数は正確さです。ハルシネーションの頻度が急激に減少するまでは、クオリティプロフェッショナルは現在利用可能なAI製品を使用するしかないでしょう。

ウォールストリートジャーナル紙の最近の記事によると、企業は、AIブームの初期に話題を呼んだ大型で派手なモデルよりも、中小規模の生成AIモデルを好む傾向が高まっているということです。それらのモデルはより少ないデータで訓練され、多くの場合、特定のタスクのために設計されているため、より安価で、精度も高くなる可能性があります。

Google Brain の共同設立者兼責任者であり、現在は起業家でもあるアンドリュー・ン (Andrew Ng) は、AI全般について何年も前からこのような主張をしてきましたが、おそらくこれは生成AIにとっても進むべき道となるでしょう。

著者について: ジェフリー・ファンク (Jeffrey Funk) は元一橋大学イノベーション研究センター教授。モバイル通信に関する研究でNTTドコモ・モバイル・サイエンス賞を受賞し、著書5冊を出版。6冊目の著書『Unicorns, Hype, and Bubbles: A Guide to Spotting, Avoiding and Exploiting Investment Bubbles in Tech (ユニコーン、誇大広告、そしてバブル: テクノロジー業界の投資バブルを見抜き、回避し、活用するためのガイド)』を Harriman House社より2024年10月に出版予定。
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