IRCA-マネジメントシステム審査員/監査員の国際登録機関 > 情報メディア > ソートリーダーシップ > 一所懸命働くことと生産性の関係

一所懸命働くことと生産性の関係

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
一所懸命働くことと生産性の関係

多くの企業は、生産性とは従業員をより長く、より厳しく働かせることだいう考えにと囚われていますが、これと反対の教訓を40年以上前にすでに唱えた日本人がいました。世界有数の総合医療企業であるフレゼニウス カービ (Fresenius Kabi Ltd) 社の継続的改善 (CI) マネージャーであるロバート・メンジース (Robert Menzies CQP MCQI) が、これらの教訓を振り返ります。意外にも日本と共通の課題も見えてきます。

ある日のロブとボブ

次のような会話を想像してみてください。

「おはよう、新しい CI マネージャーのロブです。よろしく!」

「こんにちは、私はボブと言います。CIっていったい何のこと?」

「 CI とは継続的な改善 Continuous Improvement を意味する言葉です。みんなのプロセスをよりよくすることで、みんなの一日をより快適にする手助けをしていると考えています。」

「もっと快適に?もっと働かせなきゃだめなんじゃないの?」

「君は頑張ることが好きということ?」

「そう、僕は毎日一所懸命働くぞ」

「なぜ?なぜ頑張るのが好きなんだい、ボブ? 」

「努力は必ず上司の目に留まり、昇進すれば給料が上がるだろ。」

「ここで何年働いている?」

「15年、誇りに思っている。」

「同じ職場で?」

「えーと、まあ、そうだな...」

「どうして昇進しないの?」

「上司は私を昇進させたがっているけれど、私の役割は私しかいない。どうやら、私は『システムがうまく機能するためには欠かせない』らしい。」

「なんだか善玉の腸内細菌みたいだな、ボブ...」

「何だと?」

「気にするな。でも、もし、バスに轢かれたらどうするんだ、ボブ?不運を祈るわけではないが、君のシステムはどうなるだろう?」

「まあ、プロセスは走らなくなるだろう。」

「そうなったらビジネスはどうなる?」

「詰んじゃうな...」

「それじゃダメでしょう?じゃあ、誰かを鍛えてノウハウを教えてあげたら?」

「時間がないんだ。フル稼働で働いてるから。」

「つまり、君が一所懸命働くのが好きだから、ビジネスは君の生産速度に慣れてしまい、他の人を訓練する時間がなく、君の役割をできる人がいないので昇進できず、君が明日辞めた場合、ビジネスの継続計画がない。そういうことか?」

「えーと、まあ、そうなるかな...」

原動力

1943年から始めましょう。アメリカの心理学者エイブラハム・マズローは、『A Theory of Human Motivation 人間の動機づけに関する理論』の中で、まず生理的欲求を取り上げました。仕事の世界では、生理的欲求の大部分はお金によって満たされます。従業員は食料を買い、住まいを維持できるからです。これらが満たされれば、第一のニーズ、従業員の目指すところは、失業に対する生得的な不安のない、成功した企業での安定した仕事です。

ここで、経営層のコミュニティーの中で最初の失敗が起こり得るのです。

独裁的で厳格な経営層は、従業員に脅威を感じさせる可能性があり、そのように脅かされると、従業員は防衛的に行動したり、逃避的に行動したりするようになります。これは継続的改善(CI)リーダーが最も恐れるところです。架空のボブを例にとると、彼はますます一所懸命に働き、合理的で維持可能な量を超えて仕事をしている姿が見えてきます。

また、雇用が制限されることを想定して、従業員が残業をしたり、賃上げを求めたりして、さらなるセーフティネットを形成することも、自己防衛の方法の一つかもしれません。英国人らしい気概で、ボブはセーフティネットを維持するために懸命に働いています。

経営陣の機嫌を損ねないよう、頭を低くし、さらに無意識のうちに、あるいは意識的に自分の役割をより確かなものにするために、自分の仕事量を減らす方法を探そうとはしないし、自分の重要なプロセスを他の人に教えたりはしないことにしているのです。

このような状況は、燃え尽き症候群を引き起こす可能性があります。今年、ソーシャルメディアによって広まった「quiet quitting 静かな退職」という言葉は、仕事を辞めるのではなく、それ以上のことをしようと努力せず、必要最低限のことだけをするというものです。

過負荷であるという考え方、あるいは現実に陥った従業員は、時計を気にするようになり、与えられた時間や受け取った賃金に固執するようになることがあります。このような考え方は、マズローの生理的欲求の層に固定されているもので、従業員が組織への帰属意識や仕事への愛着を求めることはなく、到達することもないでしょう。

多くの人は、仕事を好きになる必要はないと言いますが、私は仕事を好きになることは役に立つと思います。

より効率的に働く

マズローから約40年後、日本の産業技術者である大野耐一は、著書『現場経営』の中で、「仕事の見かけに惑わされるな」とリーダーに説いています。マネジャーは、「彼らがどれほど一所懸命働いているか、見てください。」と言うでしょう。大野耐一は、「あれは仕事とは言わない、ただ手が速いだけだ」と言うでしょう。

英国ではいまだに複数の業界にまたがって、この罠に陥っているように見えます。

リーダーは、自分の仕事をより簡単に、かつ、より効率的にする方法を見つける人ではなく、一所懸命働いているように見える従業員を尊重しています。社員は、する仕事がないことを恐れて、過剰生産、過剰処理をする方法をたくさん見つけます。もしかしたら、逆 5Sのようなことも起こるかもしれません。必要な道具を片付けることで時間を埋め、アクセスしにくくし、1日のより重要なポイントで時間を消費するのです。

多くの英国企業に見られる、このような文化が無駄を省くための最良のツールの一つである時間と動作の研究をも死に追いやったのです。作業員の作業を記録するというだけで、大きな抵抗があり、労働組合が関与する可能性があります。理由は?

繰り返しますが、これはリーダーの責任です。間違った使い方をすると、(労働者から見れば) 仕事の遅い労働者ややる気のない労働者を追いつめるための鞭となり、労働者に「忙しく見えなければならない」というマインドセットを作り出してしまうのです。長年にわたる独裁的な経営スタイルとツールの誤用によって、従業員の行動や考え方が破壊され、場合によっては取り返しのつかないことになる可能性もあります。

少なくとも、新しい文化がリーダーシップチームに強引に入り込み、自然減によって、その新しい文化しか知らない新しい労働者が入ってくるまでは。

非効率な働き方の文化を打破するには

このような文化を打破しようとするリーダーには、3つの重要な方法を提案したいと思います。

  1. 現場とつながり、定期的にゲンバ (Gemba) を訪れることで、従業員はあなたの存在に慣れ、監視や警告を受けることへの恐怖を軽減することができます。

  2. どうすればもっと仕事ができるかではなく、どうすればもっと仕事がしやすくなるか、というCIマインドを持つことを奨励します。

  3. 利益よりも文化を優先し、教育や文化の変革を倍加させる。自分のプロセスで時間を節約した従業員には、CIについて学んだり、自分のプロセスについて他の人を訓練したりすることを許可します。そうすれば、企業はその教育をもとに、より柔軟に無駄を省くことのできる人材を育成することができるのです。そうして初めて、利息及び税金控除前利益 (EBIT)、投資収益率 (ROI)、キャッシュフローを求めるために、今より大きな改善意識のある労働力を使うことができるのです。


英国の生産性を変革するには、企業もリーダーも従業員も、頭を下げて忙しそうにすることが必ずしも報われるわけではなく、このような行動をとる従業員が期待する発展や昇進を得られるわけでもないことを学ばなければなりません。

CQI レポート The Future of Work 未来の働き方
IRCAテクニカルレポート:ISO22000:2018