ビジネスマネジメントシステムの生命線
附属書SL が導入されたことにより、ISO 9001:2015では組織の状況、リーダーシップといった新しい概念が注目を集め、これへの対応のみが重視されがちです。しかし、事業を運営していくためには箇条8「運用」の要素を軽視することはできません。また、それがひいては組織の状況やリーダーシップなどの要求事項を達成することに繋がります。CQI の発行する専門誌「Quality World 2018年11月号」よりご紹介します。
ISO 9001に附属書SL の構造が導入されたことにより、組織のガバナンスを確かなものとするための「組織の状況」、「リーダーシップ」及び「計画」といった箇条がより重視されるようになりました。これらの箇条は、ビジネスマネジメントシステムの成功のための根幹を成すものです。これらの箇条を軽視するわけではありませんが、事業の中核を貫き通すのは箇条8 「運用」です。ビジネスマネジメントシステム要求事項の大部分はこの箇条内にあり、社内外のプロセスに対応し、顧客経験 (customer experience) の向上を目指します。
ISO 9001:2015 規格を導入するには、企業は変更を余儀なくされます。企業はリスクに基づく考え方のアプローチを展開し、経営層の責任は重くなり、自分たちの戦略的方向性に関連する内部及び外部の課題について確実に自覚する必要があります。
私の考えでは、これらの新しい要求事項は企業が新しい規格を導入することに恐れを抱く要素となったと思います。現状のビジネスマネジメントシステムを見直すのではなく、多くの企業は最初のところから始めています。
運用の計画と管理では、企業は製品及びサービスの要求事項を決定することとこれらのプロセスの基準を設定することが要求されています。企業はリスクに基づく考え方のアプローチをとり、適合達成のための資源を提供しなければなりません。この要求事項は、実はISO 9001:2008にもありました。これを出発点として、企業は現状のプロセスを見直し、主要なリスク及び機会を洗い出すことができます。
箇条8 「運用」は PDCA (Plan、Do、Check、Act) サイクルの「Do」の要素だと考えられます。統合マネジメントシステムを移行するときには、ここをスタート地点とするとよいでしょう。旧版の規格で認証されている組織のほとんどは、ISO 9001:20015の規格に適合するための主要な3つの要素をすでに確立しています。つまり、PDCAサイクルの「Do、Check、Act」の部分です。
「新しい規格」を恐れることはなく、現状のマネジメントシステムに自信をもちましょう。PDCAサイクルを見てみると、旧版と最新版との関係がわかります。
- 「Do」―ISO 9001:2008の箇条7「製品実現」はISO 9001:2015の箇条8「運用」となりました
- 「Check」―2008年版の箇条8の「測定、分析及び改善」は2015年版の箇条9「パフォーマンス評価」となりました。
- 「Act」―箇条8.5「改善」は重要度が増し、単独の箇条として独立し、箇条10となりました。
マネジメントシステムの目的は、改善に向け努力することであり、新しい規格は改善を要求しています。新規格はリーダーシップ、説明責任及びリスクに基づく考え方のアプローチを要求しますが、これらはすべて箇条8「運用」の中に見つかります。1つの箇条の適合を維持することが、知らず知らず品質マネジメントシステム (QMS) とそのプロセスを維持することにつながります。リスク及び機会に対応することで、規制法令要求事項を順守し、資源要求事項へ対応し、サプライチェーン評価を要求し、顧客満足を向上させることで、評価と改善の文化を推進します。私はこれを「ビジネスマネジメントシステムの生命線」と呼んでいます。
執筆者について: 本記事の執筆者であるシェーン・ブレイニー Shane Blaney, BEng, PCQIは、トルコの革新的なエンジニアリング及びエネルギー供給者であるDesigner Group の品質マネジャーです。