AI拡張型監査アプローチ

CQIのAudit Network の活動を引き継ぎ、Deep Fathom社のイアン・ローザム (Ian Rosam CQI MCQI) は、AI拡張型監査アプローチの概念を定義するガイドを作成しました。
AI拡張型監査と本記事の目的
この記事は、AI拡張型監査 (AI augmented auditing) アプローチの概念を定義し、特にリモートとオンサイトを組み合わせたブレンド監査 (blended audits)* の状況下において、確立された監査方法論や規制の枠組みとの関係を明確にすることを目的としています。これは正式な方針や認定要求事項を定めるものではなく、むしろ、監査の計画、実施、監督に関わるプロフェッショナルに知見と理解を提供することを目的としています。
* UKASとABCB (Association of British Certification Bodies英国認証機関協議会) が協働で開発した TPS 74 Blended Approach to Auditing for MS (MS審査におけるブレンド型アプローチ) を参照のこと
監査がデジタル技術の統合によって進化する中で、AI拡張型監査が既存の認定及び非認定の枠組みの中でどのように位置づけられるかを理解することが不可欠です。目的は、AI拡張型監査とは何か、また、それが第一者、第二者、第三者監査におけるブレンド監査アプローチをどのように発展させていくかについて明確なガイダンスを提供することです。

ブレンド監査
TPS 74では、「ブレンド監査」を「物理的な現地監査とリモート監査 (情報通信技術(ICT) 手法の利用) の組み合わせ」と定義しています。興味深いことに、IAF MD4 (適合性評価を目的とした情報通信技術 (ICT)の利用) 及びその他のIAFの基準文書では、「ブレンド監査」という用語の正式かつ独立した定義は示されていません。
解釈
UKASにおけるブレンド監査とは、開始時点から計画され、現地活動とリモート活動の両方を統合した単一の監査イベントです。ブレンド監査では、一部は対面で、一部はライブストリーミング、文書レビュー、リモートインタビューなどの仮想的な手段を用いて実施します。
ハイブリッド監査
「ハイブリッド監査」という用語が「ブレンド監査」と同義として使われることもありますが、主要な認定基準文書やIAFの規範的発行物では一般的に使用されたり明確に定義されたりはしていません。「ハイブリッド監査」という用語は、業界の実務や研修資料、一部の認証機関やコンサルタントのガイダンス文書でよく使われますが、正式には定義されていません。
AI拡張型監査
AI拡張型監査のアプローチは、従来の監査の厳密さと人工知能の知性と拡張可能性 (scalability スケーラビリティ) を組み合わせた、次世代の適応型監査手法です。この手法は、現代の業務運用や規制、戦略環境の複雑さ、規模、そして進化し続ける特性に対応するために設計されています。
AI拡張型監査は、TPS 74で説明されているブレンド監査モデルに基づいています。
この監査のアプローチは、対面での観察や利害関係者の関与、現地調査の強みと、リモートでのデータ収集、分析、協働作業ツールの効率性と広がりを組み合わせています。これらのモードを融合させることにより、AI拡張型監査では、深さ、質、柔軟性を損なうことなく包括的な網羅性を確保します。
| 監査の種類 | 定義 | 主な特徴 | 一般的なツール/ 方法 | 受ける側の利点 |
|---|---|---|---|---|
| ブレンド | 現地及びリモート活動を統合した単一監査 | 物理的活動及びリモート活動の計画的な組み合わせ | 現地観察、リモートインタビュー、文書レビュー | 柔軟なスケジューリング、部分的なリモート効率 |
| ハイブリッド | 業界で使用される用語であり、ブレンドに類似しているが、ISO/IAFの文書では正式に定義されていない | 現地とリモートの組み合わせで、時には順次実施されることもある | 組織によって異なる | 実務ではよく知られているが、正式なガイダンスは少ない |
| AI拡張型 | 次世代アプローチであり、ブレンド監査をベースにAIを活用する | 人間の判断、AI駆動の分析、拡張可能な証拠収集、行動インサイトを組み合わせる | AI分析、リモートセンシング、デジタルインタビュー、データ集約 | 迅速なインサイト、より深いリスク検出、拡張可能で継続的な適応 |
監査の目的の変化
従来、監査の目的は組織が法律、規制、内部の方針や業界標準を遵守していることに対して保証を提供することでした。これは、遵守の確認及び法的、財務的または規制上のペナルティのリスク軽減のため、管理策、プロセス、及び記録を検証するためのものです。
AIを活用した監査の導入により、この目的はさらに進化し、タレントマネジメント、ビジネス能力、組織文化や行動リスク、パフォーマンスのレジリエンスに関する実用的なインサイトも提供するものとなります。これにより、組織の有効性が強化され、成果に対するリスクが軽減され、遵守の枠を超えて持続的な戦略的価値創出が推進されます。これにより、同じシステムのシステム的 (systematic) 要素と全体的 (systemic) 要素の両方を監査することが可能になります。
拡張可能で多次元的な証拠収集
AI拡張型監査の核心は、多様かつ客観的な証拠源を規模に関係なく統合することであり、組織のニーズや利用可能なデータに応じて監査が幅広く、かつ深く展開できるようにするということです。
1. 行動パターンと組織文化
- デジタルインタビューを通じて文化的なパターンを測定し、人々の行動が結果や業績、戦略的成果にどれほどのリスクをもたらすかを評価する
- この先進的な監査手法は、従来の体系的なコンプライアンスチェックから、人間中心で全体論的かつシステム志向の思考へと焦点をシフトし、組織内における人々の相互依存性と相互接続性を分析する
- 振る舞いや意思決定、対人関係の変動が重要なリスク要因になりえることを認識し、客観的証拠の増強や高度なAI駆動分析によって、人間の監査員だけでは見えないパターンを検出する
- このアプローチは、人間システムの理解という点で、従来の監査手法ではAI による補強なしに到達できない複雑さのレベルに達している
2. 主要業績指標 (KPI): 監査範囲に関連する業務、品質、安全性、またはコンプライアンスの指標
3. 顧客満足データ: アンケート結果、フィードバック記録、苦情解決率、ロイヤリティ指標
4. タレントマネジメントデータ: 従業員のエンゲージメント、離職率、スキルマッピング、多様性およびインクルージョン対策
5. 財務データ: 予算遵守、コスト効率、ROIと差異分析
6. デジタル化されたデータおよびセンサーデータ: モノのインターネット(IoT)による出力、機械のログ、プロセス自動化記録、およびワークフロー分析
7. 業界セクターのデータとベンチマーク: 比較パフォーマンス指標、市場動向、競合他社に関するインサイト
この拡張可能な証拠モデルは、水平方向の拡張 (多様な運用ドメインからの取り込み) と垂直方向の深掘り (任意のデータセットの粒度の細かい詳細への掘り下げ) の両方をサポートしています。
AI駆動型のリスク特定およびインサイト
人工知能が証拠の集約、分類、解釈を積極的に支援します。これらのデータセットをリスクに基づく能力モデル、適用可能な規格、およびパフォーマンスフレームワークと照らし合わせて評価することで、AI拡張型監査は次のことを実現します。
- 証拠を特定の箇条、規格または管理の要求事項にマッピングする
- 目標、結果および成果、並びにアウトプットに対して新たに発生するリスクを特定する
- 潜在的な影響、発生可能性、規制上の重要性によって調査結果に優先順位を付ける
- 外部ベンチマークや業界情報から得られる文脈的なインサイトにより監査結果を充実させる
ブレンド環境における人間とAIの連携
AIが分析能力を高める一方で、人間の判断が最終的な権威であることに変わりはありません。監査員は、AIのスピード、一貫性、追跡可能性と、対面での状況把握と検証、そしてリモートでのデータに基づいた豊富な分析とのバランスを取りながら、ブレンド監査の環境で活用します。
この統合により、監査は静的で定期的な作業から、継続的に適応可能でデータに基づきリスクに焦点を当てた保証プロセスへと変革され、証拠の量と質の両方を拡大し、現代のガバナンスおよびパフォーマンスの要求に応えることが可能となります。












