IRCA-マネジメントシステム審査員/監査員の国際登録機関 > 情報メディア > 特集記事 > 第三者認証プロセスにおけるAIの活用

第三者認証プロセスにおけるAIの活用

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
第三者認証プロセスにおけるAIの活用

quality.org の英語原文記事はこちら

UKAS認定の認証プロセスに人工知能はどのように統合されうるのか。DeepFathom社の最高製品責任者であり、CQIのAudit SIG(Special Interest Group)のメンバーでもあるイアン・ローザム(Ian Rosam CQP MCQI)氏が詳しく解説します。

人工知能 (AI) は産業の形を変容させつつあり、UKAS認定の認証プロセスへのAIの統合は、審査手法における極めて重要な発展の証です。

認証機関は、AIを審査の枠組みに組み込むことにより、適合性評価を強化し、スコアリングプロファイルを活用して洞察に富む報告を行いつつ、「ISO 17021-1:2015 適合性評価マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項Conformity assessment – Requirements for bodies providing audit and certification of management systems」、MD 5及びMD 4などの規格に確実に準拠できます。

この記事では、認証審査におけるAIの役割、AIが持つ審査を強化する能力、認定要求事項に対するAIの整合について考察します。

重要な背景情報

ISO 17021では、具体的な審査方法は定められておらず、厳格な認証プロセスの実施が求められています。この点については、IAF MD 5:2023の箇条4.5において再確認されています。

「認証審査には、双方向のウェブベースの共同作業、ウェブ会議、テレビ会議・電話会議、及び/又は依頼者のプロセスの電子的検証などの遠隔審査技法を含めてもよい。遠隔審査活動を利用する審査をCABが計画する場合は、IAF MD4に規定された要求事項を適用しなければならない。これらの活動は、審査計画に明示しなければならない。また、これらの活動に費やす工数は、マネジメントシステム審査の工数の合計に寄与していると見なしてもよい。」 (JAB訳)

この箇条は、遠隔審査の技法を使用した審査の工数が有効な審査工数に含まれることの裏付けとなっています。IAF MD 4:2023の箇条0.2では、AIはICTに含まれると明確に言及しています。

「ICTとは、情報の収集、保存、読み出し、処理、分析及び伝送に技術を利用することである。ICTには、スマートフォン、携帯端末、ラップトップコンピュータ、デスクトップコンピュータ、ドローン、ビデオカメラ、ウェアラブル技術、人工知能及びその他の、ソフトウェア及びハードウェアが含まれる。ICTの利用は、現地で及び遠隔で行われる認証審査/認定審査において適切であるかもしれない。」 (JAB訳)

この箇条の認識は、現地審査と遠隔審査の両方におけるAIの妥当性を確認し、ISO 17021におけるオンサイト (仮想サイトも含む) 審査重視の考え方を補完しています。

AIは何を提供するのか?

AIは、審査員が審査要求事項を審査するために使用できる画期的なツールを提供しますが、それは、AIには以下のようなデータ分析能力や意思決定支援機能があるためです。

  • データ分析の自動化: AIはコンプライアンスに関する大規模データセットを迅速に処理し、傾向、パターン及び逸脱を特定する。
  • 審査員の意思決定の強化: 機械学習アルゴリズムがリスクの高い領域をピンポイントで特定し、人間の見落としによるミスを減らす。
  • スコアリングプロファイルの提供: 指標によってコンプライアンスを定量化し、従来の合格/不合格による評価を超える実用的な洞察を提示する。


効果的にAIを実装するには、以下の点に取り組み、AIを活用した場合でも認証の完全性が維持されるようにしなければなりません。

  • 公平性: アルゴリズムからバイアスを排除し、透明性の高いプログラミングと妥当性確認によって客観的な結果を保証しなければならない。
  • 力量: 審査員は、他の審査技法の強みと弱みを把握するのと同様に、AIツールの強みと弱み、さらには適用範囲と状況に基づく適切な使用方法を把握しなければならない。
  • 一貫性: AIはプロセスを標準化し、審査ごとのばらつきを減らす。
  • リスクに基づく考え方: AIはリスクの集中を特定し、文化的影響を測定して、予測分析を行う。これらは、従来の審査ではその遡及的な視点ゆえに課題とされている領域である。

適合性審査におけるAI駆動型スコアリングプロファイル

AIによるスコアリングプロファイルを使用すれば、方針の実施、リスクマネジメントや業務の有効性など、さまざまな領域でマネジメントシステムのパフォーマンスを定量化し、コンプライアンス審査を強化できます。

スコアリングプロファイルの優れた点
  1. 客観的指標: データ駆動型評価によって主観性が減る。
  2. 傾向分析: 適合の経時的な進展または低下が特定される。
  3. 実用的な洞察: 是正処置の優先順位を定めるのに役立ち、継続的改善が推進される。
  4. 報告における付加価値: 適合を事業の目標と整合させるための戦略的洞察が提供される。


例えば、ISO 9001の審査では、AIによって生成されたスコアで低パフォーマンスの箇条を浮き彫りにすることができ、目標とする改善を導き出せます。

AIに特有な価値

AIには、例えば人々がどのように相互作用するか、その相互作用のクオリティ及び長期的な事業への影響といった行動パターンを分析する能力があり、この能力はパフォーマンス、有効性及びガバナンスに対するリスクを特定する上で極めて重要な役割を果たします。

個人やチームの行動を形作る複雑に絡み合った信念や習慣は、従来の審査方法では、一貫して把握したり、分析したり、予測したりするには複雑で捉えどころがないことが少なくありません。しかし、学習済みのAIにはこれらの微細な洞察を明らかにするという特有の能力があるため、組織は、適合やパフォーマンスに対する新たなリスクをピンポイントでより正確に特定できます。

このようにすることで、AIはチームダイナミクスを最適化し、ガバナンスを強化し、組織全体の能力を向上させる強力なツールとなります。この能力をMD 4の箇条0.2に基づいて活用するなら、認証審査が強化され、所見や推奨事項に対する信頼性が構築されます。

AIはどのように機能するのか?

AIのサブセットである生成AIは、既存のデータからパターンを学習し、高度なモデルでは報告や所見などのコンテンツを作成します。生成AIの主な構成要素には、以下のものが含まれます。

  • ニューラルネットワーク: このシステムは人間の脳を模倣したもので、データ内のパターンや関係を認識する。異常、コンプライアンスリスク及び非効率を特定できるため、業務上の慣行に関する洞察を即座に提供し、他の審査方法を補完する。
  • 回帰テスト: 変数間の関係を評価し、コンプライアンスリスクを予測する。過去のデータの分析を通じて、潜在的な不適合を予測し、先見性のある対応が可能になる。
  • 文化的複雑さの分析:  AIツールは、従業員の経験、コミュニケーションパターン及びワークフローを分析して、組織文化を評価する。

人間の審査員による観察とは異なり、審査の目的に基づき、適切な科学と学術的な厳密さ、及びリスクに基づく能力モデルを土台として構築されたAI のニューラルネットワークは、文化的要素を定量化することを可能にし、リーダーシップ、エンゲージメント及び倫理的慣行に関する洞察を提供します。

認証審査におけるAI活用の弱点とその緩和策

AIは認証審査を大幅に強化しますが、統合には課題があります。審査プロセスをAIが確実に効果的に支援するようにするには、その導入において事前学習済みのネットワーク (静的モデル) を使用して、バイアスや偽情報のリスクを軽減する必要があります。

AIには常に継続学習が必要というわけではありません。継続学習が必要かどうかは、そのシステムの目的とAIを運用する環境のダイナミクスに依存します。

静的モデルがより適切なモデルとされるシステムもあれば、適応性のために継続学習を必要とするシステムもあります。従来の審査と並行して展開することで、AIからの結果の妥当性を確認し、AIの活用方法を改善していくことができます。

バイアスと透明性に関するリスク

課題: 欠陥データを使用して学習させると、AIはバイアスのかかった結果を生成する場合があります。また、複雑なアルゴリズムは透明性に欠ける可能性があります。

解決策: クオリティや多様性の点で精査された、事前学習済みのニューラルネットワーク (静的モデル) を使用して、バイアスのかかったアウトプットや偽情報を含むアウトプットを減らします。静的モデルで十分な場合には、新たなバイアスを生じさせかねない不必要な継続学習は行いません。システム思考、社会システム、人類学及びその他の学問横断的な洞察を応用することにより、学術的な厳密さを取り入れます。AIによる審査を、従来の方法を使用した審査と並行して実施することで妥当性の確認とアウトプットの改善を行い、透明性と信頼性を確保します。

技術への過度の依存

課題: AIに過度に依存すると、微妙な差異を考慮した評価を行う上で極めて重要な人間の判断力が鈍る可能性があります。

解決策: AIとの統合は、人間の審査員を補完する意思決定支援ツールとして行います。事前学習済みのネットワーク (静的モデル) を安定し、予測可能な審査環境において使用します。従来の方法による審査と並行して実施するなら、AIによる審査の結果が人間の洞察と整合していることを確実にし、バランスの取れた意思決定を維持することができます。

倫理的及びセキュリティ上の懸念

課題: AIで大規模なデータセットを処理すると、プライバシーの問題、セキュリティの問題及び倫理的な問題が生じます。

解決策: 動的学習が不必要な場合には静的モデルを活用し、データの流出を抑え、リスクを軽減します。堅牢なデータ保護プロトコルを採用するとともに、倫理原則を考慮して設計された事前学習済みのネットワークを使用します。従来の審査と比較してシステムをテストすることにより、システムがプライバシー及びセキュリティの基準に準拠しており、文化的及び社会的な力学 (ダイナミクス) を尊重したものであることを確実にします。

高い実装コスト

課題: ソフトウェア、ハードウェア及び学習など、AIの統合には、高額なコストがかかる可能性があります。

解決策: 事前学習済みのネットワーク(静的モデル)を使用して、計算要件を削減し、初期投資を減らします。従来の審査と並行して実施することから始め、混乱を最小限に留めます。そうすることで漸進的な拡張が可能になり、AIが実現する効率の妥当性を確認して、その費用対効果を確保できます。

過度な標準化の可能性

課題: AIの導き出す一貫性は、組織の独自性を無視した過度に厳格な審査プロセスにつながる可能性があります。

解決策: ネットワーク (静的モデル) を予測可能な審査環境に合わせて訓練し、この訓練済みのネットワーク (静的モデル) に基づいて、カスタマイズ可能なAIシステムを開発します。また、動的学習は、適応性が不可欠な場合にのみ導入します。並行審査を実施することにより、厳格な部分を特定し、それに対処します。これにより、AIシステムの柔軟性と状況への対応性が維持されることを確実にします。

AIの活用: 証拠

この記事で紹介した原則は、あるUKAS認定の認証機関で導入され、「ISO/IEC 17021-1:2015 適合性評価マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項Conformity assessment – Requirements for bodies providing audit and certification of management system」と整合性のある証拠収集、リスク分析及びリスクに基づく報告を実証しました。これらが証明された後、この認証機関は廃業しました。以下をご覧ください。

UKAS認定登録

まとめ

UKASによって認定された認証プロセスにAIを取り入れることは、単なる技術的な改善ではなく、適合性審査の質を向上させる戦略的な改善です。ISO 17021、MD 5及びMD 4の要求事項に対応することで、AI駆動型の手法は認定規格に準拠しながら、審査を充実させます。AIを採用する認証機関は、複雑なコンプライアンスの状況をより適切に把握し、組織により大きな価値を提供し、継続的改善を促進します。慎重に導入し、倫理面での監視を行うなら、AIは認証の未来を形作る強力な味方となります。

CQI レポート The Future of Work 未来の働き方
IRCAテクニカルレポート:ISO22000:2018