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「内部監査の緊急課題」 –(シリーズ1)組織文化が内部監査の実施に与える影響とは?(その3)

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「内部監査の緊急課題」 –(シリーズ1)組織文化が内部監査の実施に与える影響とは?(その3)

IRCA ジャパンのテクニカルエグゼクティブであるRichard Green がISO 専門誌、月刊アイソスに連載中の「内部監査の緊急課題」のシリーズ1は文化に関する緊急課題です。シリーズ1の (その3) では、組織の文化がマネジメントシステム及び監査にどのような影響を与えるかについて考察していきます。

組織の文化

異なる国や地域だけでなく、ある組織と他の組織を比較すると、同じ国内でも著しく異なる文化があることには皆さん、お気づきでしょう。組織文化について広く使われる定義はありませんが、しばしば引用されるのは、「当社のやり方はこうです」 (マッキンゼー・アンド・カンパニー 1966) というものです。その他の定義には、「Cultural Web」の共同執筆者であるゲリー・ジョンソン教授のものがありますが、それは組織文化とは「当然のものと考えられている仮定と行動であり、組織の状況の理解、直面する問題に対して人々がどのように反応し行動するかに影響を与えるもの」です。言い換えれば、文化は戦略と成果を結びつける「接着剤」です。

この関係性は、「ISO 9004 組織の持続的成功のための運営管理 – 品質マネジメントアプローチ」でも確認できます。この規格は、あらゆるセクターのすべての組織に適用でき、組織が強みをもつ分野や改善の余地がある分野を特定するための自己評価の重要性を説いています。

ISO 9004は、すべての組織は組織のミッション、ビジョン、価値基準及び文化に基づくアイデンティティ及び状況によって定義されるものであるということを教えてくれます。アイデンティティの4つの要素は相互に関連しますから、1つが変化すれば、他の1つ、もしくはそれ以上のものが影響を受けます。規格は文化を、「示された信念、歴史、倫理、観察された行動及び姿勢」と定義します。

ミッション、ビジョン及び価値基準をもつ組織の文化を整合させることの重要性が強調されていますが、これはトップマネジメントに課せられた仕事です。このプロセスは、持続可能な成功を達成する組織の能力に影響を与え得るすべての外部または内部の課題を特定することから始まります。特定された結果はミッション、ビジョン及び価値基準の内容を伝えるために使われます。次に、トップマネジメントは組織の現状の文化を評価し、ミッション、ビジョン及び価値基準を実現するために文化を変更する必要があるかを決定します。ISO 9004は、これは「1回限り」ではなく、定期的に繰り返され、組織のミッション、ビジョン、価値基準及び文化という4つの要素のうちのどれかが変化したときにも実施されるべきであるとしています。また、組織内だけでなく、必要に応じ関連する利害関係者にも変更が周知されることが望まれます。

ここでの内部監査員の役割は、組織文化評価の際にトップマネジメントを補佐し、トップマネジメントがミッション、ビジョン及び価値基準の調整をするために必要な見解を集めることです。

組織の文化を監査する

文化を直接、評価することはできないので、監査員は文化の「指標」を評価することに慣れる必要があります。

客観的証拠を精査すると同時に、100%の検証は不可能な情報をどの程度信頼するかを判断する能力、監査員の「専門家としての判断」も必要になるでしょう。

文化の指標の決定的なリストはありませんが、あるコンサルタント企業 (ThriVinci Consulting Group) の監査における問いは次のようなものです。

  • 従業員は自分たちに何が期待されているかを正確に知っているか?
  • 組織は、決断を下す際にデータを収集し、役立てているか?
  • 自分たちの組織のすべての階層において品質への強いコミットメントがあるか?
  • 従業員は、自分の考え、憂慮することを具申する機会を与えられているか?
  • 従業員は自分の役割に関する判断をすることが推奨されているか?
  • 組織のすべての階層において、方針と手順が一様に実行されているか?
  • 従業員は、複合スキルや高度なスキルを用いるよう要請されているか?
  • 組織は従業員の将来に対して投資しているか?
  • 組織内のリーダーは組織を働く場所としてすばらしい場所にしようとしているか?
  • 従業員の学習活動は報いられているか?
  • 組織はものごとを早くおこなうことよりも、価値を提供することを重視しているか?
  • 組織内の人々はお互いに個人的な関心を持ち合っているか?
  • 経営層と従業員のコミュニケーションはうまくとれているか?
  • 従業員のイニシアティブは推奨されているか?
  • 組織は、新しい考えに最初にチャレンジする組織を目指しているか?
  • マネジャーたちは業務を立派に遂行する従業員の能力を信頼しているか?

上記に対する答えはどのように得ればよいでしょうか? Chartered Institute of Internal Auditors (CIIA 公認内部監査員協会) は2014年7月に「内部監査の文化と役割」というレポートを作成しました。その中で、英国の内部監査員が文化指標を監査する際に使用する2つの主なアプローチを明らかにしています。

1つ目のアプローチは、監査プログラムの中のそれぞれの監査に文化の監査のための要求事項を組み込み、根本原因の分析に似たテクニックを用い、なぜ問題が起こったのか、その問題はどうして正しくない行動を促すのかを明確にしたら、すべての個別の監査をなぞり、共通のテーマを特定するものです。このアプローチはプロセスと管理を重視する従来のやり方を越え、客観的な証拠と主観的な証拠 (後者は監査員の感覚に基づくもの) を組み合わせることに慣れることを監査員に要求しています。

2つ目のアプローチは、組織の文化を表すものとして、個々人の行動を組織全体にわたって監査するというものです。この場合、文化と価値基準が事業上の決断の中心に据えられ、例えば採用、教育訓練、パフォーマンス管理や報奨制度の各レベルに組み込まれている証拠を集めることが重要です。

CIIAは、後者のアプローチはあまり普及していないと見ていますが、今後、より広く適用されるようになるでしょう。どちらの方法を適用するにせよ、重要なのは組織の文化を明確にすることです。

結論

国民文化と組織文化が監査プロセスに与える影響を理解することは監査の緊急課題です。

組織が持続可能な成功を達成するためにはミッション、ビジョン、価値基準及び文化が整合していなければならず、内部監査員はこれができているかを決定するという重要な役割を担っています。内部監査員は、自分たちの決定をトップマネジメントに伝えるためには、組織内の活動について、客観的かつ主観的な評価を用いる必要があります。

監査員は、なじみのない文化の中で監査を実施せざるを得ないことがあるかもしれません。そのようなときは、必要なリサーチをおこない、自分の監査スタイルや行動を変えることが望ましいでしょう。

異なる国や組織の文化の中で監査するという貴重な体験は経験豊富な監査員となるのに役立ちます。

次回は

次回は、組織のガバナンスにおいて内部監査員が果たす役割について考察します。

ガバナンスは組織の心臓、魂を示すもので、組織が依って立つもの、目的及び信念が内包されています。組織のステークホルダーにとって、自分たちに代わって組織を監査する内部監査員を信頼できるかどうかは重要です。自分はこの業務を実施する能力があるという自負をステークホルダーに示すために、監査員は何をしなければならないのかを考えていきます。

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