「内部監査の緊急課題」 –(シリーズ4)監査員は、組織改善を推進する機会を積極的に探求しているか? (その1)
IRCA ジャパンのテクニカルエグゼクティブであるRichard Green がISO 専門誌、月刊アイソスに連載した「内部監査の緊急課題」のシリーズ4は改善に関する緊急課題です。シリーズ4の (その1) では、改善しないことが組織に何をもたらすか、改善は組織にどのようなメリットをもたらすかについて見ていきます。
チャールズ・ダーウィンは19世紀の有名な博物学者であり、「種の起源」の著者ですが、「生き残るのはもっとも強い種でも、もっとも賢い種でもなく、もっともよく変化に対応する種である」と言ったと言われています。
ダーウィンが確かにそう発言したということを裏付ける直接の証拠はありませんが、この言葉が叡智に満ちているということに異議を唱える人はほとんどいないでしょう。進化することができない組織は滅びへの道を歩みます。そんなことはないというトップマネジメントチームのメンバーはまずいないでしょうが、振り返れば、かつては偉大だったブランドがすっかり消え失せたり、かつてあったものの影のようなものに成り下がってしまった例がたくさんあります。
ノキア、コダック、モトローラ、コンパック、パンナム、ブロックバスタービデオ (アメリカ全土に展開していたレンタルビデオ業者、2010年に倒産)、トイザらス、これらはかつてスポットライトを浴びたことがありましたが、今は皆、影も形もなくなってしまったか、かつての偉大な姿を取り戻そうと四苦八苦しているかしています。これらの企業の末路に比して、アップル、アマゾン、スターバックス、ナイキといった組織は、常に競合を圧倒していくためにやることはやるという決意をもって、勝つことを執拗に追い求めています。
この「ベストの中のベスト」になろうという欲望は、通常「パットンの原則」と呼ばれていますが、これは止むことなく改善を追い求めたことで知られるアメリカの不屈の将軍、ジョージ・S・パットンにちなんでいます。
改善が組織にもたらすメリット
オックスフォードの辞書では、改善を「何かをよりよくする活動もしくはプロセス」と定義しています。しかし、組織の視点から見たとき、よくするためにはそもそも何をすればよいのでしょうか。
組織は、顧客満足を向上させることを目指しています。満足した顧客はリピート客となり、ブランドの宣伝役をしてくれます。社会は組織の提供する製品及びサービスについてますます不満を感じるようになってきています。組織は、社会の現在及び将来の要求を満たす能力を向上させようと模索しています。さらに組織は自分たちの競争力を増強することにも傾注しています。独占的な状況で事業を行えるような優雅な会社はほとんどありません。ほとんどの場合、競合相手の市場シェアを食い尽くすことに無上の喜びを感じるライバルたちがひしめく環境で事業を運営しています。ダーウィンの描く自然界と同じように、もっとも弱いものが選別され、食べつくされます。
会社が生き残るためには、改善に正面から取り組む必要があります。無駄をなくし、不良を減らし、プロセスを見える化することにより、組織は運用コストを下げ、利益を増すことができますが、それは競合が価格を下げる機会ともなります。同様に、技術革新によって、組織は新しい市場を開発し、自社のブランドに世界的な注目を集めることができます。
そして、組織の改善を推進する上で、大体において過小評価されがちでありながら、その実、極めて重要な資源は何でしょうか。 それは、もちろん、内部監査員です!
連続的改善 (Continuous improvement) vs 継続的改善(Continual improvement)
英国の製造業の新米の品質マネジャーとして、トップマネジメントから「連続的に (continuous)」 改善するようにと非常に明確に指示されたことを思い起こします。私はこの考え方に苦闘しました。Continuous という言葉は、毎日、毎日、コンスタントによりよくすることを意味するからです。私にとって、それはまったく非現実的なことでした。飛躍的に改善する日もあれば、改善がない日もあるものです。時系列で見れば、要求事項に適合する能力は向上しましたが、連続的な (continuous) ということから暗示されるような直線的なものではありません。ISO も連続的改善 (continuous improvement) は用語として認めていません。ISO の規格では、連続的 (continuous) の代わりに「継続的 (continual)」改善という用語が使われています。
附属書SL の附属書2では、継続的改善を「パフォーマンスを向上するために繰り返し行われる活動 recurring activity to enhance performance」と定義していますが、何のパフォーマンスなのか、例えば、活動のマネジメント、プロセス、製品 (サービスも含む)、システム、あるいは組織のパフォーマンスなのかの言及はありません。この定義の中には、この活動がコンスタントに行われるようにという要求もありません。改善はパフォーマンスが向上するという全般的な動向がある限り、非直線的であってもまったく構いません。
ですから、組織が改善を実証しているかどうかを評価する監査員にとっての最初の教訓は、長期的な視点で評価しなければいけないということです。というのは、昨日と比較して今日はパフォーマンスが向上したということはできないからといって、それは必ずしも組織が改善しようとしていないということにはならないからです。改善の方法論の中にはより早く結果を出すものもありますが、結果を出すためには時間がかかるものもあるのです。
改善の方法
非常に簡単なP-D-C-A (デミングの) サイクルからより複雑な、例えばカイゼン、リーン・シックスシグマや総合的品質管理 (TQM) まで、文字通り、何百もの組織改善のツールや技術があります。監査員はこれらそれぞれの詳細を理解する必要はありませんが、組織が選択した特定の方法論が機能しているかを確認できるだけの知識を持っておくことは重要です。
デミングのサイクルは、現在使用されているISO マネジメントシステムの規格の根拠となるものですから、監査員にとっては特に重要です。このサイクルの起源は、17世紀初頭に問題解決に「科学的方法」が使われるようになったときにまで遡ることができます。科学的方法では、仮説を設定し、実験を行い、実験の結果を評価します (P-D-C)。1930年代に、シューハートはこのアプローチを「仕様」、「製造」、「検査」へ落とし込み、検査の結果に基づき対応するという追加の要求事項に言及しました。1950年代に、W・エドワード・デミング博士はこれをP-D-C-Aへとさらに進めました。P-D-C-Aのアプローチは、現在でも品質を専門とする私たちが改善へのアプローチとして認めています。
科学的方法もP-D-C-Aも、反復的アプローチであるという重要な特徴を共有しています。どちらも線的なプロセスではなく、評価の結果がさらなる実験や計画の活動へのインプットとなるという、サイクルを描くプロセスです。何回もサイクルを繰り返すことにより、組織は「賢く」なり、継続的な学習に基づき自らを前進させることができるようになります。
その2では
その2では改善において監査員が果たす役割についてみていきましょう。