「内部監査の緊急課題」–(シリーズ4)監査員は、組織改善を推進する機会を積極的に探求し ているか? (その2)
IRCA ジャパンのテクニカルエグゼクティブであるRichard Green がISO 専門誌、月刊アイソスに連載した「内部監査の緊急課題」のシリーズ4は改善に関する緊急課題です。シリーズ4の (その2) では、改善のために監査員が果たす役割について見ていきます。
改善において監査員が果たす役割
組織のステークホルダーにビジネスが法的及びその他の要求事項を満たしていることを保証することが監査員の役割だとこれまで考えられてきました。これらは監査の主たる機能でありますが、マネジメントシステム監査員には、より重要な役割があるのではないでしょうか。第一者監査員、第二者監査員、あるいは第三者審査員のいずれであるかにかかわらず、監査員/審査員は組織の改善を特定し促すために理想的な立場にいます。
(認証機関の) 第三者審査員は審査顧客に直接コンサルタントをすることはできないので、この能力は多少制限されています。しかしながら、組織が最新の附属書SL に基づくマネジメントシステム規格の箇条10に記述された改善の要求事項を完全に満たしていることを確認することにより、第三者審査員は重要な貢献をすることができるのです。また、他の認証顧客の機密を漏らさないような形で、すぐれた実践を伝えることも第三者審査員には可能です。
第一者あるいは第二者監査員にはそのような制約はありません。内部監査員は自らの組織の方針、プロセス及び人々を改善する機会を、また、第二者監査員の場合には、外部の提供者のパフォーマンスを、積極的に探究すべき、いや探究しなければなりません。
CQI の力量のフレームワーク (図1) は、監査員/審査員を含むすべての品質の専門家のコアコンピテンスとして改善を理解するよう特定しています。このフレームワークは、監査員/審査員が監査するすべての組織について考慮すべき改善に関する2つの重要な質問を投げかけています。「継続的改善と経営層の意図の再定義へのコミットメントはありますか」と「客観的評価の文化はありますか」というものです。
継続的改善へのコミットメントはありますか?
附属書SL に基づく規格では、継続的改善は要求事項であり、継続的改善を実施するか、しないかを組織が選ぶことはできません。監査員として、私たちは、組織の製品及びサービスが時の経過とともに改善されているということだけでなく、製品及びサービスが作られ、提供される手段についても、客観的証拠を (観察、測定、試験あるいはその他の方法で) 追求しなければなりません。
これを判断するためには、私たちは内部監査とマネジメントレビューの結果、不適合に対する組織の回答と是正処置、リスクと機会の管理、内部及び外部の課題への対応、分析の結果や評価の活動をレビューし、組織が継続的に学び、発展していることを確信できなければなりません。
また、経営層の意図が、組織の方針、戦略、目標及び計画に落とし込まれ、定期的に見直しが行われていることも確認する必要があります。その理由は、「組織の状況」はこれらの文書の主要なインプットであり、状況はときと共に変化するものだからです。以前はステークホルダーを満足させていたとしても、現在もそうであるという保証には必ずしもなりません。
客観的評価の文化はあるか?
単に継続的改善へのコミットメントがあるだけでは十分ではありません。組織が生き残るためには、このコミットメントをより具体的なものに落とし込んでいく必要があります。改善しようという意欲と、パフォーマンスを向上させるためにはどうやって改善すればよいのかという洞察の両方が必要です。この洞察は、客観的評価により得ることができます。
では、客観的評価の文化をもつ組織が提示するであろう特徴を考えていきましょう。組織がステークホルダーのニーズを理解するために適切な方法を用いていること、また、市場、顧客要求事項や組織に影響を与えるその他の要素の変化を含む組織の状況に対するすべての変化を特定するために適切な方法を用いていることを実証することが当然のこことして期待されるでしょう。
各部門のステークホルダーに関する情報を収集するために、すべての部門にわたってさまざまな方法が採用されていることが当然期待できるでしょう。この方法には、ブレーンストーミング、インタビュー、フォーカスグループやインターネット検索など、情報を提供してくれるすべてのものが含まれます。さまざまなステークホルダーのグループを正式に定義付けし、関連する要求事項とそれぞれの重要度を理解します。また、組織は、これらの各グループのニーズと懸念材料を理解し、どのような要素がそれぞれのステークホルダーに影響を与えるのか、何が動機を与えるのか、そして各グループの潜在的な脅威あるいは機会は何かを理解します。
情報が集まったら、このステークホルダーに関する洞察を利用して、自社の製品のサービスは特定のグループに合わせたものとすべきか、どうしたら外部提供者とよい協力関係を築けるか、あるいはどうしたら従業員の士気を高められるかといった行動戦略を策定します。
また、ステークホルダーに関する洞察は、組織全体の業務パフォーマンスや製品/サービスの品質に対する適切な尺度 (例えばKPI) を開発するために使われます。これらの取組みの結果の分析と評価は、事実に基づく意思決定を伝え、変更の優先順位、必要な変更の性質と影響度を確定するのに役立つとともに、組織の人々、プロセス、ツール、あるいは技術及び/又はインフラの開発を通じ、どのようにして必要な変更を達成するのが最もよいかを決めるのに利用することができます。
附属書SL に基づくマネジメントシステムの箇条 9.1、9.2、及び9.3は、すべてデミングのP-D-C-A サイクルの「Check」の要素にあたる所見の収集と関連しているということを、私たち監査員は認識しています。この蓄積された Check の所見は、P-D-C-AサイクルのAct の部分である箇条10「改善」へのインプットとなります。
箇条9.1は、組織がマネジメントシステムの意図した成果が確実に達成され、マネジメントシステム全体としてのパフォーマンスと有効性を確実に特定できるようにするために、何を監視し、測定しなければならないかを決定することを要求しています。さらに組織は監視、測定、分析及び評価の方法と時期を決める必要があります。
箇条9.2では、組織に対し、計画された監査を実施することによってマネジメントシステムの運用に関する所見を集めることを要求しています。監査結果は経営層に報告しなければならず、必要な修正と是正処置はすべて間を置かず実施されなければなりません。
箇条9.3は、システム全体にわたり集められたパフォーマンス情報に基づき、組織のトップマネジメントがマネジメントシステムの全体像を考慮するよう求めています。
客観的評価に関するこれら3つの箇条全部について、組織は文書化した情報を保持するよう求められていますから、監査員にとって客観的評価がおこなわれているかどうかを判断するのは比較的簡単でしょう。判断が難しいのは、このような「文化」があるかという部分です。文化の共通の定義が単に「ここで物事が進められるやり方」ということである限り、組織が箇条9の要求事項を満たしている証拠を提示することができれば、「文化があるか」という問いへの答えも「はい」ということになります。しかし、客観的評価の文化があるかを本当に評価するためには、組織が自ら選択してその行動をとっているのかどうかを知る必要があります。箇条9に従うのは、そうしなければならないからですか、あるいはそうしたいからですかという問いを投げかけたとき、答えが後者の場合のみ、客観的評価の文化は存在しているのだと私は思います。
結論
組織が法的及びその他の要求事項を満たしていることを保証することはこれからもずっと監査の中心的な役割であり続けますが、監査員は属する組織に対して単に適合性を確認するだけ以上の寄与をすることができるのです。
第一者監査員、二者監査員、あるいは第三者審査員のいずれであったとしても、健全なガバナンスを確実にし、改善を推進するために重要な役割を果たさなければなりません。
外部監査員/審査員が継続的改善がおこなわれているかを確認するには自ずと制限がありますが、内部監査員は当然のことながら、もっと積極的に改善の機会を特定し、可能な限りこれを報告することができますし、またそうしなければなりません。
これまでずっと、内部監査員は認証機関の審査員よりも劣る存在と見做されてきました。内部監査員の技術的知識は常に外部審査員と同じレベルにあるとは言えないかもしれませんし、監査経験も同じくらい豊富とは言えないかもしれませんが、内部監査員は企業内部で仕事をしていますから、改善を促進することにより組織に価値を付加する可能性は、はるかに大きいと言えます。どのような外部監査員も、毎日の暮らしの中で組織内で働いている内部監査員ほど組織のことをよく知ることはできません。
であるならば、なぜ内部監査員が過小評価されることが多いのでしょうか。 これは改善の可能性 を実際の改善に落とし込む全体的な能力が欠けていることに起因するのではないかと思っています。監査員が現実的で永続的な変更に影響を与えようとするなら、現状を変えるべき時であることを権威ある立場の人たちに納得してもらうためのリーダーシップのスキルが必須です。「リーダーシップ」がCQI の力量のフレームワークの中心に位置しているということは、マネジメントシステム監査員/審査員を含むすべての品質専門家は、改善を推し進めることができるようにならなければならないという強いメッセージを表しています。トップマネジメントにこの能力を証明してみせることができる人は、事業とその成果に大きな違いを生んでいるという事実が認知され、評価されるでしょう。それができない人の将来はあやふやなものとなるかもしれません。
次号では
だれもが生まれついてのリーダーであるわけではありませんが、1人ひとり、自分のもつリーダーシップの能力を向上させるための手段があります。監査の専門家はメッセージをより効果的に伝えるため、実際何ができるのでしょうか。物事を成就させるために必要な支援を得るために、トップマネジメントや同僚をどのように巻き込めばよいのでしょうか。
次号では、リーダーシップに関する緊急課題について考えていきます。