「内部監査の緊急課題」 –(シリーズ5)監査員は、組織の状況の決定が間違っているか否かを実証できるか? (その2)
IRCA ジャパンのテクニカルエグゼクティブであるRichard Green がISO 専門誌、月刊アイソスに連載した「内部監査の緊急課題」のシリーズ5は組織の状況に関する緊急課題です。シリーズ5の (その2) では、内部外部の課題をどのように明確にするか、密接に関連する利害関係者の関連する利害をどのように決定するかについて見ていきます。
内部及び外部の課題
組織が内部及び外部の課題を特定するために調査したと納得して実証できるビジネス上の側面は何でしょうか。下記のリストは考えられる例です。
組織は、下記に関連する内部の課題を確定しているかもしれません:
- 組織のガバナンス、組織の構造、役割及び説明責任
- 組織の文化
- 方針、目標及びそれを達成するための戦略
- 運営プロセス、手順及び作業指示
- 利用可能な資源、知識及び力量に関する能力
- 情報フロー及び意思決定プロセス
- 新しい製品、原材料、サービス、ツール、ソフトウェア、施設及び装置
- 例えば従業員、トップマネジメントといった内部のステークホルダーとの関係
組織は、下記に関連する外部の課題を確定しているかもしれません:
- 政治的、経済的、社会的、技術的、法的及び環境に関わるファクター
- 地元の、地域の、国の、あるいは国際的なレベルにおいて出現する新しい競合組織
- 組織が属する産業、業界に関係するキードライバー
- 組織の外部の利害関係者の認知と価値
これら、特定の分野を考慮するという要求事項はありませんが、上記の例は分野やセクターに関係なく、ほとんどの組織に当てはまるものでしょう。
組織が内部及び外部の課題を明確にするために採用する手法
附属書SL ベースの規格も、そうでない規格も、組織がどのように課題を明確にするかについては教えてくれません。しかし、監査員が附属書SL に基づくマネジメントシステムの監査を行う際に組織で採用されているのをよく目にする手法はたくさんあります。おそらく、もっともよく遭遇するのはSWOT 分析とPESTLE 分析という方法でしょう。
SWOT 分析
SWOT は強み (Strength)、弱 み (Weakness)、機会 (Opportunities)、脅威 (threats) の頭文字をとったものです。課題と潜在的な機会を特定するために組織のこの4つの要素を評価する体系立った計画手法です。
- 強み: 他より優位に立つ組織の特質
- 弱み: 他に比べて不利な組織の特質
- 機会: 組織がその優位性を活かすことができる可能性のある組織をめぐる環境の要素
- 脅威: 組織にとって問題を引き起こす可能性がある組織をめぐる環境の要素
SWOT 分析の結果は、通常、表であらわされます (図 3a参照)
PESTLE 分析
PESTLE分析もまた、組織がその戦略的立場を理解することができるポピュラーなツールです。PESTLE は、政治的 (Political)、経済的 (Economic)、社会的 (Social)、技術的 (Technological)、法的 (Legal)、環境上 (Environmental) の頭文字をとったものです。PESTLE分析では、組織はこれらの領域をそれぞれ、その領域に関連する外部及び/または内部の課題を特定するために、順番に検討していきます。
SWOT とPESTLE は、監査員が附属書SL に基づく規格の箇条4.1 を監査するときに、遭遇する可能性の高いたくさんの手法の2例に過ぎません。監査員は、内部及び外部の課題をどのように明確にするかは重要ではないということを肝に銘じなければなりません。監査の観点からは、内部及び外部の課題が何等かの形で確定されていることが重要なのです。
密接に関連する利害関係者の関連する利害
状況の2つめのステップでは、組織が関連する利害関係者の関連する利害を明確にすることを要求しています。しかし、これはどういうことでしょうか。
世界は人々であふれています。しかし、そのうちのホンの数パーセントの人々しか、組織のマネジメントシステムに関心がありません。この関心を持つ人々のことを「利害関係者」と呼ぶのです。しかし、これらの人々は組織に関心があっても、組織はそれらの人々に関心がないかもしれません。組織が関心をもっているこれらの人々やグループのことを密接に関連する利害関係者と呼びます。ただし、まだもう1段階あります。組織が、だれが密接に関連する利害関係者かを決めたら、それらの人々のたくさんのニーズと期待 (要求事項) のうちのどれを満たすべきなのかを決めなければなりません。
組織にとって重大な課題は、関連する利害関係者の関連する利害は一致していない、しばしば対立するということです。従業員は月給を上げてほしいでしょうし、トップマネジメントはコストを抑えようとしています。株主は配当金を最大限にしたいと思っているでしょうが、役員会はお金を投資に回したいと考えているかもしれません。設計部門は技術的に完璧な製品にしたいと思っていても、顧客はもっと手に入れやすい価格のものを欲しているかもしれません。ですから、組織は関連する利害関係者の関連する要求事項のうちのどれを重視するかを決定しなければなりません。この決定は、組織のビジネス戦略と戦略的目標により大きく左右されます。
関連する利害関係者の関連する利害を決定する手法
関連する利害関係者の関連する利害を決定する方法はたくさんあります。これらのうちのいくつかはあらかじめ規定されています。例えば、事業は規制当局者により規制されますし、法律が政府により課されます。その他の利害関係者は例えば市場調査、フォーカスグループ、構造化面接、フィードバックの分析や評価などによって決めることができます。附属書SL に準拠する規格には、関連する利害関係者の関連する利害をどのように決めるかについては書かれていません。ただ、そうすることを要求しているだけです。
その3では
その3では、はたして組織の決定した状況に異議を唱えることはできるのか、組織の状況の確定がどうしてそんなに大事なのかを見ていきます。