「内部監査の緊急課題」 –(シリーズ5)監査員は、組織の状況の決定が間違っているか否かを実証できるか? (その3)
IRCA ジャパンのテクニカルエグゼクティブであるRichard Green がISO 専門誌、月刊アイソスに連載した「内部監査の緊急課題」のシリーズ5は組織の状況に関する緊急課題です。シリーズ5の (その3) では、審査員/監査員は、はたして組織の決定した状況に異議を唱えることはできるのか、組織の状況の確定がどうしてそんなに大事なのかを見ていきます。
組織の状況の決定に異議を唱える
監査員として、状況を監査することに関して多くの課題がすでに提示されています。例えば状況の決定の結果は記録される必要はないということを知っています。ほとんどの場合、この活動の根拠となる文書化した情報があると期待できますが、零細組織の場合は、だれか1人の人の頭の中で (完璧に、妥当に) 決定されているということもありえます。記録がない場合、私たちは適合を確認するために面談などの手法を用いる必要があるでしょう。
また、どの内部及び外部の課題が関連するか、どの利害関係者が関連するか、どの要求事項が関連するかを決定するのは、監査員ではなく組織であるということも知っています。監査員は、マネジメントシステムのどこかで不適合が発見され、それが組織の状況の決定にまで直接的に辿れるということの客観的証拠を提示することによって証明できる場合にのみ、組織の決定に対して異議を唱えることができます。例えば、特定の国における顧客の要求事項を特定していなかった結果、機器に適切なプラグを付けられなかった場合、あるいは、国の法律を見落とした結果、製品の設置説明書を提供しなかった場合などです。
単に、組織は間違っているという意見だけでは十分ではありません。監査員は、組織が間違っているということを証明することができなければなりません。もしこれができないのであれば、ご自身に異議が唱えられるでしょう。
状況の確定がどうしてそんなに大事なのか
なぜ状況がそんなに大事なのか戸惑ってらっしゃるかもしれません。その理由は、状況の決定の結果は、マネジメントシステムの他のプロセスの重要なインプットだからです (図 4参照)。
ISO 9001:2015 の中に、これらの関係性が明示されています。QMS の適用範囲を決めるとき、QMS を計画するとき、QMS 方針と目標を設定するとき、QMS のパフォーマンスをレビューするときに、組織は状況 (組織の内部及び外部の課題と関連する利害関係者の関連する利害) を考慮するよう、規格は要求しています。その他の規格では、決定された状況をどのように利用するのかという点で、これほど明示的には示されていません。監査員は、これに注意する必要があり、該当する個々の規格に固有な状況の要求事項に照らして、組織の状況を監査するようにしなければなりません。
図4には警告も含まれています。もし組織の状況の決定が間違っているか、不完全なら、マネジメントシステムの適用範囲も間違っているか不完全な可能性が高いということです。ステークホルダーが何を要求し、組織がどのような課題に直面しているかに関する誤った前提に基づいて、組織の計画が策定されることになります。その結果、組織が本当にやるべきことと反対の活動を推進する方針と目標が設定される可能性があります。また、誤った「求められる結果」の実現に対するパフォーマンスを評価することになりますから、本当は誤ったことをよくやっているに過ぎないのに、経過良好と確信してしまう可能性があります。
組織による正しい状況の決定は重要です。いろいろなことにとって重大なのです。
状況の変化は厄災を招くかもしれません
ときに、組織のもっとも大きな強みが突如弱みになることがあります。それは状況が変わったときです。そして状況は変わるものなのです。実際、組織によっては文字通り、日々変化することもあるのです。関連する利害関係者のニーズと期待は常に変わっていきます。皆がソニーのウォークマン、あるいはフラフープを欲しがったのはそんなに昔のことではありません。そして、あたらしい外部及び内部の課題がいつも発生してきます。状況の変化に対応する必要性を見分けられない組織、あるいはもっと悪いのは、必要性はわかっていてもそれを無視することにした組織は、恐竜と同じ道を歩むことになります。
監査員である私たちの役割の1つは、状況に関して誤った決定をした組織に警告を発することです。ISO 17021 – X シリーズ、それから今後発行されるISO 190011:2018 の要求事項で、個々の監査員/審査員と監査/審査チームに業種及び/もしくは分野固有の知識が必要とされているのは、まさにこれが理由です。監査/審査を実施するときには、監査員/審査員は特定の業種/分野に適用される関連する利害関係者の代表的な課題や要求事項を知っている必要があります。もしこれを知らなければ、組織による状況の決定にある「ギャップ」を見分けることはほとんど不可能です。
もし組織が何か決定的なことを見逃していたら、監査員は組織にとって最後の砦となるでしょう。
結論
CQI の力量のフレームワークは、力量ある品質専門家となるために必要な知識と技能、これを適用する能力として5つのカギとなる領域を設定しています。これらの「核となる」力量は、第一者監査員、第二者監査員及び第三者審査員にとっても、他の品質専門家と同様に関連するものです。フレームワーク (図 5) はこの核となる力量の1つとして、状況の理解を特定しています。これは、ガバナンス、保証及び改善を監査する際に、心に留めておかなければならないものです。
図5
この記事で、私たちは附属書SL に基づくマネジメントシステム規格の視点で状況が意味すること、並びに、監査のプロフェッショナルにとって状況を監査するのは難問であるということを見てきました。
附属書SL の上位構造のすべての箇条のうち、箇条4こそ、物議を醸す所見をもっとも多く出しそうな箇条です。組織の状況の決定が間違っているということを実証できないなら、不適合を挙げることはできないということを肝に銘じてください。誘惑に負けないように!
パート6では
出典 – Bob Anderson、Mastering Leadership: An Integrated Framework for Breakthrough Performance and Extraordinary Business Results (ボブ・アンダーソン リーダーシップをマスターする: 画期的なパフォーマンスと類まれな業績のための統合フレームワーク)
このシリーズの最終回では、すべての監査の緊急課題の中でも、間違いなく最重要な緊急課題について検討していきます。どれほど組織の状況や文化を理解し、監査実施に熟練し、改善の機会を特定する能力が優れていても、他の人々をあなたの見つけた所見に対応させるのに必要な技能と決意がなければ、あなたの監査員としての影響力はとても小さいものになります。
重要な変更に影響を及ぼすために必要なリーダーシップの技能がなければ、変化は起こらず、あなたのすべての貴重な努力は無と帰してしまいます。