「内部監査の緊急課題」 –(シリーズ6)今こそ監査員はリーダーシップスキル向上を目指すべき (その1)
IRCA ジャパンのテクニカルエグゼクティブであるRichard Green がISO 専門誌、月刊アイソスに連載した「内部監査の緊急課題」のシリーズ6はリーダーシップに関する緊急課題です。シリーズ6の (その1) では、そもそもリーダーシップとは何か、マネジメントとリーダーシップの違いは何かについて見ていきます。
はじめに
これまで、このシリーズでは監査に関する5つの緊急課題について検討してきました。文化、保証、改善、ガバナンス、そして状況に関する緊急課題です。そして、力量あるマネジメントシステム監査員は、これらすべては理解するだけでなく、監査を実施するときに特に気を配らなければならない課題であるということを認識しています。なぜなら、これらの1つひとつが監査の実施の仕方、監査の結果に影響を与え得るものだからです。
そして、いよいよ監査に関するすべての緊急課題の中で、おそらくもっとも重要な6番目の緊急課題について検討すべきときが来ました。それはリーダーシップです。この記事では、リーダーシップと監査員の関係を2つの視座から検討しています。
まず、効果的な形で組織が導かれていることを確認する上での監査員の役割について考えていきます。ステークホルダーが自分たちの要求事項が適切に対応されているかを、自分たち自らが現地で確認するというのは、ほとんどの組織において現実的ではありませんし、実際、可能なことでもありません。その代わり、ステークホルダーが、自分たちの代弁者として当てにすることができるのは私たち、マネジメントシステム監査員です。監査員には、組織が本来奉仕すべき人々の最大利益のために組織のリーダーシップが発揮されているかを、ステークホルダーに代わって確認することが託されているのです。残念ながら、最近相次いで明らかになっている有名企業におけるガバナンス上の不祥事は、必ずしもこれが達成されていないということを示しています。このような場合、内部監査において、監査の際に発見したすべての所見を、組織を導くようなやり方で報告する覚悟がなければなりません。
次に、自立したリーダーとしての監査員、被監査組織の中で変革を推進するために理想的な立場に置かれた個人としての監査員を検討していきます。内部監査員、第二者監査員、あるいは第三者審査員のいずれであっても、ものごとを成し遂げるには必要な威厳を身に付けなければなりません。単に、リスクや課題、改善の機会を特定するだけで、被監査者がそれについて対処しないというのでは十分とは言えません。前進することを拒否するトップマネジメントに対して、監査員はどのように対応すべきなのでしょうか。もっとも上級レベルの権限をもつ人たちに対し、将来はものごとを違うように進めなければならないということを説得するにはどうしたらよいのでしょうか。これらは非常に重たい課題ですが、すべての監査員が克服しなければならない課題です。この記事の後段では、上級経営層とどのように関わっていくかについて見ていくことになりますが、まずは「リーダーシップ」とは何を意味するのかを理解する必要があります。
リーダーシップとは何か ?
「リーダーシップ」と「マネジメント」という用語は、しばしば区別しないで使用されていますが、実際は大きく異なっており、監査員にとってこの違いを理解することは重要です。ピーター・ドラッカーは、マネジメントの教育に関するパイオニアとして、また目標管理 (MBO) の概念の発案者として世に知られています。このドラッカーがリーダーシップとマネジメントの違いを概括しているのが以下の言葉です。
「マネジメントとはものごとを正しく行うことである。リーダーシップとは正しいことを行うことである」
ここでドラッカーが言わんとしているのは、マネジメントは管理、秩序そして計画立案を重視するのに対し、リーダーシップは人々に刺激を与え、士気を高め、人々を惹きつける、それも来いと命じられたからではなく、人々が自らついていきたくなるようにすることだということです。
『リーダーになる』の著者、ウォーレン・ベニスもまた、以下のようにこの違いをうまく表現しています。
「リーダーシップとは、ビジョンを現実に変換する能力である」
偉大なリーダーは、自らのアイディアと願望を形のあるものに変える能力をもっています。夢を現実にすること、これは難しいことかもしれませんが。リーダーは、目標を達成するために、慣習に挑み、壁を打ち壊します。これは、頭脳が心を律するマネジメントの秩序だった世界とはまったく異なる世界です。
ですから、マネジメントとリーダーシップは同じものではないということを理解することが大切です。優れたマネジャーがリーダーとしてはお粗末だということはあり得ますし、同じようにリーダーとしては優れているがマネジャーとしては失格だということもあり得るのです。
監査員として私たちは、新しい附属書SL に基づくマネジメントシステム規格では、「マネジメントのコミットメント」から、「リーダーシップとコミットメント」へと検討の対象が変わったことに留意すべきです。これは些細な文言の変更と見えるかもしれませんが、実際のところ、これは劇的な変化なのです。私たちはマネジメントシステムが管理され、秩序立ち、計画されていることの客観的証拠を探すだけはではなく、組織のトップマネジメントがマネジメントシステムの成功に全力を尽くしていること、目に見え、声が聞こえる形で支援しているという証拠も探さなければならないのです。
優れたリーダーシップが不可欠である理由
図1
図1は、附属書SL に基づく他のマネジメントシステム規格にある同じような多数の図の代表例としてISO 9001:2015から引いてきたものです。これらすべての図では、リーダーシップはまさしくマネジメントシステムの中心に位置しており、リーダーシップと計画策定、リーダーシップと支援/運用、リーダーシップとパフォーマンスレビュー、そしてリーダーシップと改善の間に存在しなければならない双方向の関係を示すものです。ISO に基づくマネジメントシステムを監査するときには、これらの関係が存在するということだけでなく、これらが効果的に機能しているという証拠が必要です。
監査員の方々の多くは、すでに多数のISO マネジメントシステム規格において、トップマネジメントが示す効果的なリーダーシップがマネジメントシステムの成功のために不可欠な要素であると明示的に示されていることにお気付きでしょう。上記で述べてきたようなリーダーシップがなければ、マネジメントシステムはまずうまく機能しないでしょう。
『ISO DIS 9004:2017 品質マネジメント – 組織の品質 – 持続的成功達成のための指針』は、これを推し進めるものです。この規格は、有効に機能しているリーダーシップがないと、マネジメントシステムのみならず、ビジネス全般もリスクにさらされるということを教えてくれています。繰り返します。リーダーシップは継続して成功を達成している組織の中心にあるものだと確認されています。
図2
同様に、CQI 力量のフレームワークもまた、リーダーシップをそのモデルの真ん中に据えています。これは、いかにクオリティの専門家としての力量があっても、企業内の変革に影響を与えることができないのであれば、結局、組織に対する最終的な影響力は最小に留まることになるということを示しています。このモデルは、品質担当役員、品質検査官、あるいは品質エンジニアと同じようにマネジメントシステム監査員にも適用されます。人々に耳を傾けさせることができないなら、私たちの存在意義はありません。
優れたリーダーシップを示す指標
ISO とCQI が、リーダーシップはそれほど重要であると考えているとしたら、組織がよくマネジメントされているではなく、優れたリーダーシップに導かれているということを、監査員として私たちが自分たち自身を納得させるために、何を探すべきなのでしょうか。優れたリーダーシップによって導かれている組織であると納得できる事項の例をいくつかご提示しましょう。
- その組織は、人を惹きつけるビジョンをもっている
- ビジョンを実現するために尽力している
- それぞれが補完し合う強みをもつ、さまざまな経験や能力をもつ経営陣がいる
- 経営陣は「有言実行」、手本を示してリードしている
- その組織は改革を推奨している
- トップマネジメントは組織としての一体感を育てている、「私たちは皆、同じ組織の一員です」
- トップマネジメントは従業員を励まし、支援している
- その組織はタレント (能力、資質) マネジメントに投資し、人々を育成している
- その組織は前進する前に、それまでの成果を確固としたものにしている
- トップマネジメントの後継者育成計画、だれかに引き継がなければならないときが来ることを認識し、受け入れている
- その組織は、絶対的権力に起こり得る腐敗を防ぐため、抑制と均衡のシステムをつくっている
ご自身の組織とトップマネジメントにこれらの特質があるでしょうか。もし「はい」ということでしたら、あなたは幸運に恵まれています。
その2では
「内部監査の緊急課題」 の最終回である(シリーズ6)今こそ監査員はリーダーシップスキル向上を目指すべき (その2) では、附属書SL に基づくマネジメントシステムにおけるリーダーシップ、そして監査員のリーダーシップとは何かについて見ていきます。