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隠された次元を探る - 品質文化と文化としての品質 - パート1

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隠された次元を探る - 品質文化と文化としての品質 - パート1

quality.org の英語原文記事はこちら

本記事は、日本企業に勤務した経験のあるラスール・アイヴァジ (Rasoul Aivazi) とリチャード・ブレット (Richard Brett) が、自らの体験から得たエピソードをもとに、日本の品質の根元に隠れている日本哲学を探るシリーズの第1部です。日本人の考え方そのものが日本の高品質の根底にあること、同時に良くも悪くもどこに注力するかについてひょっとすると日本人は独特かもしれないと気付きます。サプライチェーンが世界に広がる中、哲学や価値観の違う相手とどのように付き合っていけばよいのかということを日々思案している方もいらっしゃるかもしれません。

アイヴァジ氏は日本企業の国際プロジェクト品質リーダーであり、CQIの Audit SIG (Special Interest Group) のメンバ-でもあります。ブレット氏は現在退職していますが、以前はGSKにおいて日本の品質SME及び監査マネジャーを務め、現在はAudit SIGの副委員長を務めています。

2つのトランスミッションの謎

1980年代後半、フォードモーター社は、トランスミッションを日本のマツダと米国の自社工場という2つの異なる供給元から調達してある車種を製造するという、ほかにはない状況にありました。

この車種の市場デビュー後、フォード社は顧客から日本製トランスミッションを搭載した車を指定する要望を受けるようになりました。日本のトランスミッション搭載車を確保するためなら、もっと待ってもいいとさえ言う人もたくさんいました。

どちらのトランスミッションも同じ仕様で製造されていましたから、フォード社のエンジニアリングチームは、この日本製トランスミッションのほうが明確に好まれる現象に頭を悩ませることになりました。(この話は本シリーズのパート2に続きます)。

このような出来事は、一体これはどういうことなのかという疑問を呼び起こします。なぜこのような嗜好が生まれたのでしょうか?同じ仕様の2つのトランスミッションの間で、品質に顕著な差が生じた要因は何でしょうか?さらに、仕事や人生に影響を与える包括的な日本の哲学は、このような現象にどのように関わっているのでしょうか?

これらの質問を掘り下げることで、文化的な微妙な違いが製品の品質を形成し、顧客の認知に影響を与え、最終的にビジネスの成功をもたらすという、控えめながら強力な方法が見えてくるかもしれません。

日本は、個人的な環境でも仕事上の環境でも、品質へのこだわりで有名です。このこだわりは単なるパフォーマンスにとどまらず、国の文化や精神 (エートス) の根幹を支えています。日本の文脈における品質とは、文化的、社会的、そして個人の価値観が複雑に絡み合って導き出されるものです。

この記事では、日本の品質に対するこの無意識の文化的影響を探り、この品質文化を受け入れることでプロとしての成功をどのように引き出すことができるかを考察します。

文化としての品質に関する個人的な経験

ストーリー1: 整理整頓、あるいは第一印象の重要性

以前、あるベンダーの日本工場での品質会議に、自分が勤務する会社の日本人品質マネジャーと一緒に参加する機会がありました。

会議中、私たちのマネジャーは工場の責任者に厳しく尋ねました。「工場の事務所が適切に管理されておらず、清潔さに欠けていたら、どうやって効率的な生産と全体的な組織化を確保できるでしょうか?適切な整理整頓なしに、どうして製品を正しく製造できるでしょうか?」

この出来事は、工場のマネジャーにとって貴重な教訓となりました。次に訪れたとき、オフィスは完璧に清潔で、管理が行き届いていました。このときの会議は前向きな雰囲気で始まり、成功裏に終わり、全員が満足しました。

ストーリー2: 包装とラッピング ー またしても第一印象の重要性

私はかつて、世界的な製薬会社で品質マネジャーとして働いていました。私が初めて日本の工場を訪問したとき、現地の品質担当マネジャーは、日本では包装とラッピングが重要な意味を持っていると教えてくれました。彼は、「もしあなたが製造者として、私たちが目にすることができるもの、つまりカートン、ブリスターストリップ、錠剤の外観 (『外在的』品質) に注意を払わないのであれば、私たちが目にすることができないもの、つまり製品の純度、安全性、有効性 (『内在的』品質) にあなたたちが注意を払っていると、どうして知ることができるでしょうか?」と言いました。

この考えは、例えば、カートンの色がバッチごとに統一されているか、容器のラベルがすべてまっすぐ同じ高さに貼られているかにまで及びました。

これは、西洋文化によくみられる、外在的なクオリティも重要であるが、私たちが焦点を当てるのは内在的なクオリティであるという態度とはまったく異なるものでした。

日本の品質の観点から見ると、包装は製品の品質と価値を反映するものであるということになります。きちんと包装されたものは、その製造に込められた注意深さと職人技を示すと信じられています。ポジティブで記憶に残る印象を与えることは、製品と顧客に対する敬意を表現する方法と考えられています。

日本人はまた、包装を顧客体験全体を向上させる手段と考えています。そして、視覚的に魅力的で優れたデザインの容器は、顧客に期待感と興奮を与えることができると信じています。美しく包装された製品を開けること自体がひとつの出来事とみなされ、購入に価値と楽しみが加わります。

ストーリー3: 準備の重要性

数年前、私は大規模なプロジェクトで、勤めていた日本企業の品質を代表する機会がありました。3日間にわたる会議と日本の大手メーカーの工場訪問を行いました。

会議中、クライアントはあるプロジェクト文書に興味を示しました。私はそれを予期しており、必要な資料を事前に用意し、提供して、会議の進行を円滑に進められるようにしていました。

同様のことが3、4回繰り返されると、クライアントチームの品質マネジャーは、「これだけのものをどうやって事前に準備したのですか?」と聞いてきました。

私はシンプルかつ正直に、「この会議のために準備万端整えました」と答えました。この答えは明らかに彼を満足させるものではなく、さらに聞いてきました「しかし、あなたの準備のレベルの高さには目を見張るものがあります。これらの文書の所有者は当社であり、つい最近、御社と共有されたばかりです。どうやってここまで準備できたのですか?」

それ以上の質問を避けるために、私は彼にこう言いました「日本人の同僚と仕事をしているとき、準備の重要性を強調する日本のことわざを学びました。仕事の80%は準備にあり、実際の実行は20%に過ぎない (段取り八分仕事二分)。それを聞いて以来、私はこの哲学を受け入れ、一貫して実践してきました。この3日間の会議も含め、すべての会議にこの考え方で臨んでいます。」

私の説明は明らかに彼の心に響いたようで、彼はそれ以降、会議の運営に私をもっと関与させるようになりました。

帰国後、彼は私の会社に対して、日本だけでなく極東、中東、EU地域など、より大口の注文の品質調整を私に担当してほしいと要請してきました。

この突然の業務範囲の拡大により、私たちの仕事量は増加し、収入も大幅に増えました。

手身近に言うと、私はクライアントと全面的に協力しながら、その後の段階でもプロジェクトに引き続き取り組むことになりました。私たちはプロジェクトの延長に向け、調和と信頼をもって、機器をうまくマネジメントしました。協力し合うことで、私たちは第1フェーズ以降のさらなる潜在的な不適合を回避することに成功しました。その結果、このプロジェクトで使用される機器には、1つの不適合もなく、設置のために現地に送られました。

※ 品質と非品質、そして顧客からの苦情に関する話は、このシリーズのパート2に続きます。

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