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隠された次元を探る - パート2 - 品質文化と文化としての品質

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隠された次元を探る - パート2 - 品質文化と文化としての品質

quality.org の英語原文記事はこちら

シリーズのパート1 に引き続き、IRCA Associate Auditor で国際プロジェクト品質責任者のラソール・エイヴァジ (Rasoul Aivazi) と日本で働いた経験も豊富で現在もAudit SIGで活躍するリチャード・ブレット (Richard Brett) が、自らの経験をもとに、品質には日本の哲学がいかに内在しているかを探ります。

アイヴァジ氏は日本企業の国際プロジェクト品質リーダーであり、CQIの Audit SIG (Special Interest Group) のメンバ-でもあります。ブレット氏は現在退職していますが、以前はGSKにおいて日本の品質SME及び監査マネジャーを務め、現在はAudit SIGの副委員長を務めています。

日本の製品やサービスの品質は、日本の文化に深く根ざしており、直接意識することなく無意識のうちに浸み込んでいることがよくあります。

日本の品質に対する無意識の文化的影響は、製品、サービス、プロフェッショナルな環境を形成する強力な力となっています。「Monozukuri (the craftmanship spirit) ものづくり (職人魂)」、「Kaizen (ongoing enhancement and continual improvement) 改善 (継続的な強化と継続的な改善)」、「Kodawari (relentless focus on detail) こだわり (細部への絶え間ないこだわり)」などの中心的な概念は、この関係の証左です。

このシリーズのパート1では、私たちが個人的に経験した品質に関する3つのエピソードを紹介しました。このパート2でも、エピソードは続きます。

文化としての品質に関する個人的な経験

ストーリー 4: 品質と非品質 (non-quality)

私は、ヨーロッパで製造され日本で販売される製品の品質基準について合意するために、日本にある自社の施設を訪問していました。ヨーロッパやアメリカの統計的サンプリングでは、合否判定基準を決めるためにAQL (許容品質レベル) を用います。

最初のミーティングで、この話し合いがうまくいっていないことはすぐにわかりました。

日本人の同僚にどのような懸念があるかを尋ねると、こう言われました。「日本ではAQLは使いません。許容できる品質レベルがあるということは、許容できるレベルの非品質があるということですか?日本の顧客はそれでは満足しないでしょう」と言われました。

私は、この言葉は非常に重要であり、品質を定義する別の方法を見つける必要があることに気付きました。そこで、どのような要素が重要で、何が不可欠なのかについて話し合いました。その上で私は、「critical quality 重大な品質」と「critical quality attribute 重要な品質属性」という用語を使って、何が許容され、何が許容されないかを定義することを提案しました。

「非品質」の許容できるレベルという概念から離れると、適切な品質基準について合意することができました。

このことは、現地の文化、そして私たちが使用する言語に対する感じ方を理解することの重要性を教えてくれました。

ストーリー5: 顧客の苦情

西欧では 「The customer is king お客様は王様」と言います。「お客様は神様であり、お客様の苦情は神の声です」と日本の品質マネジャーに言われたことがあります。

日本では、顧客は常に正しい。たとえそれが、顧客が製品を正しく使用しなかったことが原因であったとしてもです。もし顧客がその製品を誤用する可能性があるのなら、つまり誤用を防げないなら、その製品は適切に設計されていないということであり、設計不良は品質不良となります。その製品の顧客満足度が99.9%であることを指摘しようとしても無駄です。不満を持っている顧客にとっては、購入した製品の故障率は100%であり、これがすべてです。

したがって、顧客に迅速に対応し、苦情を認め、欠陥や受けたサービスの悪さを謝罪することが不可欠となります。これには、根本原因分析を含む包括的な調査と、効果的な是正処置および予防処置計画が必要です。「欠陥ゼロ」を達成することは不可能かもしれません (多くの場合、不可能です) が、日本の品質では常にこれがあるべき姿です。

故障モードを設計することはメーカーにとって不可欠であり、あらゆる苦情は、それに対して「正当化できる理由」があろうとなかろうと、改善の機会ととらえるべきです。

日本における品質への無意識的な文化の影響

上記の話は、いずれも品質マネジメントに関連するものですが、品質における日本文化がもたらす影響の一例に過ぎなません。

「モノづくり」「改善」「こだわり」という中心となる3つの概念は、その出発点となっています。しかし、私たちはさらに深く掘り下げ、文化が日本の品質をどのように形成しているのか、10の側面から検討していきたいと思います。

10の概念:

  1. Monozukuri モノづくり
  2. Kaizen 改善
  3. Kodawari こだわり
  4. Wa and Chouwa 和と調和
  5. Keigo and Giri 敬語と義理
  6. Gaman and Nintai 我慢と忍耐
  7. Dai-ichi inshou 第一印象
  8. Dandori hachibu 段取り八分
  9. Omotenashi おもてなし
  10. Hōsō 包装

これらは日本人の精神に深く根付いており、この国の品質に対する評価に大きく貢献しています。

10の概念は、文字通り訳すと以下のとおりです。

  1. ものづくりの精神、それは職人技という文化的な誇りを表す
  2. 絶え間ない漸進的な改善
  3. 細部へのこだわり
  4. 協力と調和
  5. 上下関係と伝統
  6. 忍耐と粘り強さ
  7. 第一印象の活用
  8. 準備 / 事前計画の重要性
  9. ホスピタリティとサービス
  10. 梱包と包装

こうした文化的影響を受け入れ、効果的に活用すれば、プロとして成功するための触媒となる可能性があります。

このような独特の文化的影響を理解することで、日本で働くプロフェッショナルや日本の組織と仕事をする人たちは、その職場環境でよりうまく仕事を進めることができるようになります。

こうした文化的要素は、プロフェッショナルな環境を豊かにするだけでなく、日本が誇る質の高いサービスや製品を生み出し、提供する上で重要な役割を果たしています。

フォードモーター社のエピソード

このシリーズの第1部は、フォードモーター社の話から始まりました。その続きは次のとおりです。

なぜ消費者は日本製トランスミッションを好むのか、という疑問に対する答えを追求するため、フォードモーター社は最終的に2つの異なるトランスミッションを分解して徹底的に比較することにしました。

アメリカ製の自動車部品はすべて指定された許容範囲内でした。しかし、日本の部品は実質的にそれぞれが同一であり、部品の公称値にはるかに近いことがわかりました。例えば、ある部品の長さが1フィート (約1.5メートル) プラスマイナス1/8インチ (300ミリ±3ミリ) とされていた場合、日本の部品はすべて1/16インチ (1.6ミリ) 以内で、ばらつきは少なかったのです (300ミリ±1.6ミリ)。これにより、日本製トランスミッションの車はよりスムーズに走るようになり、顧客はトラブルを経験しなくなったのです。

この調査の核心は、日本の品質に対する無意識の文化的影響が、単に基準を満たすことやベンチマークを超えることではなく、生活のあらゆる側面に深く浸透した精神 (エートス) にあるということを明らかにしたことです。

このように、日本でクオリティプロフェッショナルとして成功するということは、単にその分野での熟練度だけでは足りません。それには、これらの文化的影響を深く理解し、自らの職業生活に統合することを必要とするクオリティの文化を受け入れなければなりません。

※ この議論は、このシリーズのパート3、「隠された次元を探る: 品質文化の触媒」に続きます。

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